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被災地での<哲学対話>の記録震災に臨む

シリーズ臨床哲学6
震災に臨む 被災地での<哲学対話>の記録

四六判 366ページ 並製
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-87259-768-4 C3010
奥付の初版発行年月:2023年03月 / 発売日:2023年04月上旬

内容紹介

哲学的実践は、被災への処方箋になりうるか――
東日本大震災以降、せんだいメディアテークを中心に筆者が40回以上にわたって行ってきた被災者との哲学対話実践の活動を紹介し、被災に臨む哲学の可能性を批判的に検証する。
そもそも、震災を「語りなおす」とはどういうことか。ふさわしい「言葉」とは何か。被災からの時間経過とともに変化する被災者・支援者・当事者といったアイデンティティの葛藤、「負い目」、「役に立たない」、「支援とは何か」、「当事者の痛みを理解することは可能か」、「ふるさととは何か」、「被災者でもある医療専門職者たちの公私をめぐる戸惑い」、「写真から〈ともに考える〉」といった参加者たちの様々な言葉から、震災という〈出来事〉をほぐす。
哲学にできる支援と、震災に臨む哲学のありかたを探る試み。

著者プロフィール

西村 高宏(ニシムラ タカヒロ)

1969 年(昭和44 年)山口県生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了(文学博士)。東北文化学園大学医療福祉学部准教授、教授などをへて、現在、福井大学医学部准教授。専門は臨床哲学。2011 年3 月11 日以降(東日本大震災以降)は、仙台市にある公共施設「せんだいメディアテーク」などと連携しながら、多くの被災者らとともに、震災という出来事を〈対話〉という営みをとおして自分たちのことばで語り直すための場(てつがくカフェ)を拓いている。現在は、医療専門職者や患者、ご家族、さらは一般市民らとともに、「医療とケア」に軸足を置いた哲学的な対話実践の場(てつがくカフェ「医療とケアを問い直す」)の構築にも取り組んでいる。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに― 被災の場所に、立つ
  
被災地での「てつがくカフェ」テーマ一覧

第1章 言葉をあてがう
震災を語るための言葉の不在
「考えるテーブル てつがくカフェ」始動!
震災を〈語りなおす〉
震災はわたしたちを試す?
人の言葉を聴くことの怖さ
言葉というものの真のはたらき
言葉の厄介さ
それぞれにふさわしい、それぞれの言葉をあてがう

第2章 〈負い目〉という桎梏
ぼくは、罰を受けたいわけじゃない
被災した母を腫れ物のように扱う― 被災の度合いからくる〈負い目〉
中途半端な被災者?
「同調」という圧力― あなたは、〈負い目〉を感じないのか
役に立つか、立たないか― 能力主義的な基準
離れて観る、単純化して語る
後ろめたさという十字架

第3章 〈支援〉とはなにか
貧相で、窮屈な〈支援〉観
時間をともにする
何をあたえているのか―〈支援〉の要素を探る
“おだがいさま”の精神
わたしたちは似ていない者どうし
関心を寄せる― 待機されているという感触
〈する〉よりも〈いる〉こと
即効性や効率性の対極にあるもの―〈成果〉よりも〈過程〉

第4章 なぜ逃げなかったのか― 震災の〈当事者〉をめぐって
〈被災者〉だけが震災の〈当事者〉ではない
お礼のメール―〈被災者〉から震災の〈当事者〉へ
なぜ逃げなかったのか―〈当事者〉へのこだわり
震災を直接経験した者の責任
ディキンソンの詩― 同じ苦しみを経験した者どうしによる〈負の共同体〉
〈当事者〉の痛みを理解することは可能か― 誰かの靴を履いてみること
天使の声? ― 美徳と教育

第5章 〈ふるさと〉を失う?
おれは鰓呼吸なんだ
震災の年の紅白を観る
〈ふるさと〉について語り出す
アイデンティティと〈ふるさと〉へのこだわり
自分という存在が育まれる場所
生きる作法、思想を身につける
〈ふるさと〉は、わたしとともにある

第6章 震災と専門職―看護の〈専門性〉をマッサージする
切実な〈私〉と〈公〉、どちらを優先するべきか?
医療専門職者たちのとまどい
凝り固まった専門職のイメージをマッサージする
〈患者〉からではなく、〈専門職〉から逃げた?
看護師のつくるたこ焼きの味―看護の〈専門性〉を読み解く

第7章 〈割り切れなさ〉を生きる
エリザベス・テーラーの死
〈出来事〉という言葉へのこだわり
〈わかりやすさ〉に抗う―「畠山直哉 写真展 まっぷたつの風景」
〈ともに考える〉ために残された「写真」
手に負えない/手間がかかる/手間をかける
〈意味〉への乾き―「ただ生きる」から「どう生きるか」へ
Free Beer Tomorrow―けっして来ない「明日」を夢見る

第8章 震災という〈出来事〉をほぐす
災害を〈出来事〉として捉える
均された〈出来事〉を掘り起こす
〈出来事〉の強張りをほぐす
〈伝える〉から、ともに〈考える〉へ
それぞれの思考のプロセスに寄り添う
統べることなく―「臨床哲学」という試み
哲学の〈支援〉のスピード?
哲学対話の流れと作法―当事者の価値観を〈ほぐす〉ために

喪服を着替えて―おわりにかえて

距離と世間 甲斐賢治


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