祈りの形にみる西洋近世 茨木の銅版画シリーズ 七秘跡と七美徳がある主の祈りの七請願
価格:5,610円 (消費税:510円)
ISBN978-4-87354-766-4 C3071
奥付の初版発行年月:2023年03月 / 発売日:2023年04月上旬
近世初期に宣教師がもたらした祈りの銅版画シリーズは、宗教戦争で顕在化した分裂を調整しながら、非ヨーロッパ世界へ拡張してきた西欧社会の、緊張と模索を伝えるものでもあった。本書は、このシリーズのイメージと、これを生みだした背景や伝統を徹底的に読み解き、当時の受容空間だけでなく現代にも連なる諸問題を探る。
蜷川 順子(ニナガワ ジュンコ)
京都大学大学院文学研究科博士後期課程(美学美術史学専攻)修了。Ph.D.(芸術学、ヘント大学)。
関西大学教授などを経て、現在、関西大学名誉教授、東西学術研究所客員研究員。
専門は芸術学、美学、西洋美術史。
代表的著作:『バーバラ・バート「風のイコノロジー」』(翻訳)、2022年、三元社;『ハート形のイメージ世界 見えるものと見えないもの』(編著)、2021年、晃洋書房;『祈りと祈りの場』(共著)、2020年、関西大学東西学術研究所;
『祈りの場の諸相』(共著)、2017年、関西大学東西学術研究所;
『聖心のイコノロジー』(単著)、2017年、関西大学出版部;
『油彩への衝動』(編著)、2015年、中央公論美術出版;
『顔をみること 表わされた顔をめぐる美術史・文化史的断章』(共著)、2012年、関西大学出版部;
『初期ネーデルラント美術にみる個と宇宙』(共著)、2011年、ありな書房;
『アロイス・リーグル「ローマにおけるバロック芸術の成立」』(翻訳)、2009年、中央公論美術出版;
『アーウィン・パノフスキー「初期ネーデルラント絵画―その起源と性格」』(共訳)、2001年、中央公論美術出版他.
目次
まえがき
序章 茨木の銅版画シリーズの背景:16 世紀のカトリック改革と日本宣教
0-1 セブのサント・ニーニョ
0-1-1 レガスピの再上陸―炎の中から発見されたサント・ニーニョ
0-1-2 聖具と幼児イエス単独像
0-2 メキシコのグァダルーペの聖母
0-3 フランシスコ・ザビエルと日本宣教における聖画像
0-3-1 絵画教師コーラ(ニコラオ)の来日(1583年)
0-3-2 ヴァリニャーノの第 2 回目の来日と天正遣欧少年使節団の帰国
0-3-3 到来した聖画像と禁教令
0-4 イエズス会と布教聖省
第1章 茨木本銅版画シリーズの発見とその背景
1-1 千提寺・下音羽地区の寺社と交通路
1-2 摂津のキリスト教布教と千提寺・音羽地区
1-2-1 高山父子の受洗
1-2-2 右近とカブラル
1-2-3 都市的なキリスト教
1-2-4 北摂と安威了佐
1-2-5 中川清秀とキリシタン
1-2-6 右近の転封後
1-2-7 禁教令下の千提寺地区周辺のキリシタン
1-3 明治の禁教令解除と潜伏キリシタン
1-3-1 日本再宣教とパリ外国宣教会
1-3-2 横浜天主堂と聖心の聖母像
1-3-3 大浦天主堂建設
1-3-4 大浦天主堂と二体の聖母像
1-3-5 潜伏キリシタンの「出現」
1-3-6 浦上四番崩れ
1-3-7 大浦天主堂の拡張
1-4 茨木銅版画シリーズの発見
1-4-1 大阪のプチジャン神父
1-4-2 茨木のキリシタン遺物の発見と藤波大超
1-4-3 「キリシタン文化研究者」新村出
1-5 同時に発見された聖画類
1-5-1 聖フランシスコ・ザビエルの肖像
1-5-1-1 制作年について
1-5-1-2 肖像画の原本と模本について
1-5-1-3 図像内容について
a.「十分です、主よ、十分です」
b.人間のハート
c.『幼児イエスに征服された人間のハート』
d.聖人のハート
e.イエスの聖心
f.ザビエルの「恩寵のノヴェナ」
g.ザビエルのサクラメント
h.制作者、注文主、受容者
1-5-2 マリア十五玄義図(東家本)
1-5-2-1 中央画面
1-5-2-2 周囲画面の意味と伝統
1-5-3 マリア十五玄義図(原田家本)
1-5-4 二点のマリア十五玄義図の周囲 15 図の比較
小結
第2章 茨木本銅版画シリーズ
2-1 リヨン版(パリ本)に基づく画面構成
2-1-1 表紙
2-1-1-1 茨木本の表紙
2-1-2 第一の請願
2-1-3 第二の請願
2-1-4 第三の請願
2-1-5 第四の請願
2-1-6 第五の請願
2-1-7 第六の請願
2-1-7-1 パリ本
2-1-7-2 茨木本「第六の請願」
2-1-8 第七の請願
2-2 描かれた典礼指南としての七秘跡
2-2-1 洗礼
2-2-2 堅信(堅振)
2-2-3 叙階(品級)
2-2-4 聖体(聖餐、ユーカリスト)
2-2-5 告解(悔悛、懺悔)
2-2-6 婚姻(結婚)
2-2-7 終油
2-3 本シリーズを日本にもたらした宣教師について
小結
第3章 宗教改革期の図像的特徴
3-1 プロテスタントのイメージ世界
3-1-1 ルターの生涯と宗教改革
3-1-2 ルター派のイメージ戦略
3-1-3 ルターの薔薇
3-1-4 「ルターの薔薇」の原型イメージ
3-1-5 プロテスタントのイメージ
a《法と恩寵の寓意》
b《十字架形の箒をもつ女》
c《ルターとフスによる両種聖体拝領》
d《ヴァイマールの祭壇画》
e《キリスト教信仰の船》
3-2 茨木本で注目すべきモティーフ
3-2-1 ニンブス
3-2-1-1 三角形のニンブス
3-2-1-1-1 三角形に付与された意味
3-2-1-1-2 三角形と聖性‥『ウタ・コーデクス』を手がかりに
3-2-1-1-3 神の手と三角形
3-2-1-1-4 三角形ニンブスの諸例
a.バシリカ・ヴィルテン、インスブルック
b.聖ヤコブ大聖堂、インスブルック
c.銀の礼拝堂(宮廷教会)他、インスブルック
3-2-1-2 四角形のニンブス
3-2-1-3 菱形のニンブスと光線
3-2-2 茨木本の父なる神‥三角形ニンブス
3-2-3 地上のイエス‥菱形ニンブス
3-3 概念の擬人化
3-3-1 中世アレゴリー文学
3-3-2 グロイターの凱旋シリーズ
3-3-3 1597 年の七秘跡シリーズ
3-4 洗礼の秘跡
3-4-1 スピリトゥス - プネウマ
3-5 聖餐の秘跡
3-6 着衣のエヴァ
小結 七秘跡の伝統と革新
第4章 マテウス・グロイターの活動
4-1 マテウス・グロイターの生涯
4-1-1 シュトラスブルク司教戦争
4-1-2 マテウス・グロイター:シュトラスブルクからリヨンヘ
4-1-2-1 寓意表現の学習と展開
4-1-2-2 マテウス・グロイターの風景描写
4-1-2-3 その他、表紙、肖像画、寓意記号
4-1-3 マテウス・グロイターとリヨンでの活動
4-1-3-1 アンリ4世の肖像
4-1-3-2 ペトラルカの〈凱旋〉シリーズ
4-1-3-3 二点の七秘跡図
4-1-4 マテウスの相関図―リヨン以降
4-1-5 マテウスのパトロン
4-1-6 ローマにおける地誌的グラフィック景観図
4-2 グロイター一族
4-2-1 フローリアン・グロイター
4-2-2 ヨハン・フリードリヒ・グロイター
4-2-3 ゴットフリード・ファン・スハイク(マテウスの義理の息子)
4-2-4 クリストフ・グロイター
小結 茨木本の作者について
第5章 〈七秘跡と七美徳がある主の祈りの七請願〉銅版画シリーズとコレクション
5-1 茨木本(リヨン版模写 1611年頃?)
5-2 パリ本(リヨン版 1598年)
5-3 ウィーン(シュレーグル)本(リヨン版 1598年)
5-4 エアランゲン本(リヨン版 1598年)
5-5 ダルムシュタット本(リヨン版 1598年)
5-6 ストラスブール本(リヨン版 1598年)
5-7 ヴォルフェンビュッテル本(リヨン版 1598年)
小結 ヨーロッパにおけるリヨン版の広がり
結びにかえて
あとがき
挿図一覧
文献一覧
索引