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かかわりあいの人類学

かかわりあいの人類学

栗本 英世:編著, 村橋 勲:編著, 伊東 未来:編著, 中川 理:編著, 加藤 敦典:著, 賈玉龍:著, 李俊遠:著, 森田 良成:著, 椿原 敦子:著, 岡野 英之:著, 上田 達:著, 木村 自:著, 早川 真悠:著, 藤井 真一:著, 竹村 嘉晃:著
A5判 312ページ 並製
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-87259-745-5 C3039
奥付の初版発行年月:2022年03月 / 発売日:2022年04月上旬

内容紹介

フィールドワークの極意と真髄とは何か。「他者」への理解、他者との「共生」に必要な手がかりを探る。――
 人類学の基本はフィールドワークである。それは、自己とは文化・社会的背景の異なる「他者」と長期間接することによって、他者を深く理解する「かかわりあい」の営みである。人類学にとって「かかわりあい」は、研究に必要な一次資料を集めるためのたんなる手段ではなく、他者との相互作用であり、その過程で自己も他者も変容していく。また、かかわりあいの道程はけっして平坦なものではなく、煩わしさ、誤解や葛藤に満ちている。研究対象との個人的なかかわりを回避して科学的な客観性を保とうとする他の人文学・社会科学と人類学は、この点で大きく異なっている。
 しかし、人類学にとって本質的に重要な営みであるにもかかわらず、「かかわりあい」はこれまで研究テーマとして主題化されることは少なかった。本書は、「かかわりあい」が持つ学問的な意義とは何かを正面から問う、日本語では最初の人類学の書籍である。日本を含む世界各地で実施したフィールドワークの過程で、他者とどうかかわったのか、それは自己と他者にとっていかなる経験であったのかを、具体的かつ批判的・自省的に考察し、フィールドワークにおける、そして人類学における学びや気づき、そして発見を伝授する。
 かかわりあいは、人類学だけに限定される課題ではない。すべての人間は、他者とのかかわりあいの中で日常生活を送っている。個人の孤立や、人間同士のつながりの希薄化が問題となっている一方で、多様な他者を包摂することが求められている現代社会において、自己が属する社会とは空間的にも心理的にも遠く離れた社会に自ら進んでおもむき、他者とのかかわりあいを求める人類学者のあり方は、普遍的な意味合いを持っている。
 人類学とはなにかを学ぶことができる教科書として、また、異文化理解・多様な他者との共生を考えるための実践的な入門書として最適の1冊。

著者プロフィール

栗本 英世(クリモト エイセイ)

大阪大学大学院人間科学研究科教授。
奈良県生まれ。1980 年京都大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。修士(文学)。国立民族学博物館助教授等を経て、2000 年大阪大学大学院人間科学研究科助教授。2003 年から同教授。社会人類学とアフリカ民族誌学を専門とし、南スーダンのパリ人と、エチオピア西部のアニュワ人を対象とする長期のフィールドワークに従事。個別社会に関する狭義の民族誌的調査研究を継続する一方で、内戦や民族紛争、難民、食料安全保障、人道援助、平和構築と戦後復興といった領域に研究テーマを拡大し、取り組んでいる。

村橋 勲(ムラハシ イサオ)

東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター特定研究員。主な研究分野はアフリカ地域研究、移民・難民研究。主なフィールドは東アフリカ。近年の研究テーマは、南スーダンにおける紛争、難民、人道支援、土着の政治宗教体系。主著に、『南スーダンの独立・内戦・難民――希望と絶望のあいだ』(昭和堂、2021 年)、「南スーダン難民の生計活動と対処戦略――ウガンダ、キリヤドンゴ難民居住地の事例」(『難民研究ジャーナル』6 号、2016 年、163-179 頁)。

伊東 未来(イトウ ミク)

西南学院大学国際文化学部講師。主な専門は文化人類学・西アフリカ研究。主要業績として、「トンブクトゥにおける写本の救出活動」(『国際文化論集』36 巻1 号、2021 年、87-104 頁)、“Changing Malian Women’ s Economic Activities :Vending in the Market, Travelling the World” (Japanese Review of CulturalAnthropology 18(2)、2018 年、pp. 63-78)、『千年の古都ジェンネ―多民族が暮らす西アフリカの街』(昭和堂、2016 年)など。

中川 理(ナカガワ オサム)

国立民族学博物館准教授。専門は経済人類学、グローバリゼーション研究な
ど。主なフィールドはフランス。近年の仕事に、『移動する人々』(共編、晃洋
書房、2019 年)、『文化人類学の思考法』(共編、世界思想社、2019 年)、アルジュ
ン・アパドゥライ著『不確実性の人類学』(共訳、以文社、2020 年)などがある。

加藤 敦典(カトウ アツフミ)

京都産業大学現代社会学部准教授。主なテーマは現代ベトナム村落の住民自治に関する政治人類学的研究。主な業績として、「福祉オリエンタリズムと人類学―ベトナムの村落における障害者ケアに見る『社会』の弱さ」(森明子編『ケアが生まれる場―他者とともに生きる社会のために』ナカニシヤ出版、2019 年、72-90 頁)、Weaving Women’s Spheres in Vietnam : The Agency of Women in Family,Religion and Community.(編者、Brill、2016 年)、Rethinking Representations of Asian Women : Changes, Continuity, and Everyday Life.(共編、Palgrave Macmillan、2016 年)

賈玉龍(カ・ギョクリュウ)

華中農業大学社会学系副研究員准教授。専門は文化人類学・中国地域研究。主要論文に、「中国湖北省農村における日常生活と隣人関係:生産と閑暇から見るつながり」『国立民族学博物館研究報告』(2022 年、印刷中)、「宗族組織と同姓団体のはざまで:湖北省の宗族復興を事例に」『中国21』第54 号(2021 年、65-83 頁)、“Authenticity and Inauthenticity in Sneaker Culture : A Case Study of Changhuo Sneaker in China” (Japanese Review of Cultural Anthropology 20 (1)、2020 年、pp. 43-87)。

李俊遠(イ・ジュンウォン)

慶北大学講師。主な研究テーマはベトナムの文化。主な論文として、“벋
(bot) : 한 베트남 해안 도시의 상생의 경제”(「バッ:あるベトナム海岸都市の
共生の経済」、2012 年)、“신에게 갈 수 없는 생선-물천구”(「神に行けない魚―
テナガミズテング」、2016 年)、“The Ambiguity of Hygiene and Taste- Focusing on
the Fish-Farming Industry in Vietnam”(Anthropology 5(1)、2017 年、pp. -)、“공업적인 방식의 사육의 발달과 토종닭에 대한 선호-베트남 닭 사육을 중심으”(「工業的な方式の飼育の発達と地鶏に対する選好―ベトナムの鳥飼育を中心に」『인문사회과학연구(人文社会科学研究)』20(2)、2019 年、pp. 339-366)。

森田 良成(モリタ ヨシナリ)

桃山学院大学国際教養学部准教授。主な研究テーマは貧困と経済に関する人類学的研究、映像人類学。主な業績として、「国境を越えるねずみたちのストリート」(関根康正編『ストリート人類学――方法と理論の実践的展開』、風響社、2018 年、287-316 頁)、「貧困」(春日直樹・竹沢尚一郎編『文化人類学のエッセンス――世界をみる/変える』、有斐閣、2021 年、3-21 頁)。

椿原 敦子(ツバキハラ アツコ)

龍谷大学准教授。主な研究テーマはイラン人移民とメディア・宗教、イラン都市部における宗教儀礼と若者文化など。主な業績として、『グローバル都市を生きる人々イラン人ディアスポラの民族誌』(春風社、2019 年)、『「サトコとナダ」から考えるイスラム入門』(共著、星海社、2018 年)、「トランスナショナルな社会運動における共感=代理の政治」(『コンタクト・ゾーン』7 号、2015年、83-108 頁)。

岡野 英之(オカノ ヒデユキ)

近畿大学総合社会学部講師。主な研究テーマは武力紛争や感染症。シエラレオネやタイ、ミャンマーで調査研究に従事してきた。主な著作として、『アフリカの内戦と武装勢力』(昭和堂、2015 年)、『西アフリカ・エボラ危機2013-2016』(ナカニシヤ出版、2022 年)、「タイにおけるミャンマー避難民・移民支援と武装勢力」(『難民研究ジャーナル』9 号、2020 年、86-101 頁)。

上田 達(ウエダ トオル)

摂南大学外国語学部教授。主な研究テーマは東南アジア島嶼部のナショナリズムに関する人類学的研究。主要業績として、「先住民というアスペクト――マレーシア・サバ州の先住民の語りに関する人類学的研究」(『年報人類学研究』第5 号、2015 年、72-92 頁)、「東ティモール・ディリの都市集落における和解行事と2 つの信仰」(『南方文化』44 輯、2018 年、49-67 頁)。

木村 自(キムラ ミズカ)

立教大学社会学部准教授。専門・研究テーマは、文化人類学、中国・台湾エスニシティ研究、華僑華人研究、移民研究など。主な研究業績に、『雲南ムスリム・ディアスポラの民族誌』(風響社、2016 年)、『よくわかる現代中国政治』(分担執筆、川島真・小嶋華津子編、ミネルヴァ書房、2020 年)など。

早川 真悠(ハヤカワ マユ)

国立民族学博物館外来研究員。主な研究テーマは経済人類学、ジンバブエやレソトにおける貨幣の使い方・数え方。主著として、『ハイパー・インフレの人類学』(人文書院、2015 年)、「ハイパー・インフレ下の人びとの会計―多通貨・多尺度に着目して」(出口正之・藤井秀樹編『会計学と人類学のトランスフォーマティブ研究』、清水弘文堂書房、2021 年、62-84 頁)など。

藤井 真一(フジイ シンイチ)

国立民族学博物館外来研究員。主な研究テーマは文化人類学・平和研究・オセアニア地域研究。主な業績として、『生成される平和の民族誌―ソロモン諸島における「民族紛争」と日常性』(大阪大学出版会、2021 年)、「ソロモン諸島における真実委員会と在来の紛争処理―紛争経験の証言聴取をめぐるグローバル/ローカルの緊張関係」(『文化人類学』82 巻4 号、2018 年、509-525 頁)など。

竹村 嘉晃(タケムラ ヨシアキ)

国立民族学博物館南アジア研究拠点特任助教/人間文化研究機構総合人間文化研究推進センター研究員。主な研究テーマは芸能人類学、南アジア地域研究。著書に、『神霊を生きること、その世界―インド・ケーララ社会における「不可触民」の芸能民族誌』(風響社、2015 年)、共著に“Conflict between CulturalPerpetuation and Protection : A Case Study of Ritual Performance in North Malabar,South India” (Pallabi Chakravorty & Nilanjana Gupta (eds), Dance Matters Too :Markets, Memories, Identities、Routledge、2018 年、pp. 36-48)、「インド舞踊のグローバル化の萌芽―ある舞踊家のライフヒストリーをもとに」(松川恭子・寺田?孝編『世界を環流する〈インド〉―グローバリゼーションのなかで変容する南アジア芸能の人類学的研究』、青弓社、2021 年、264-304 頁)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

序章 かかわりあいの人類学の射程他者とかかわること―人類学者の実践から学ぶ

第Ⅰ部かかわりあいの作法

第1章 社会人になるためのフィールドワーク―人類学の院生がベトナムの農村でかかわりあいの作法を学んだはなし

第2章 「かかわりあい」における酒飲み、「かかわりあい」としての酒飲み―中国の「酒の場」から人間関係を考える

第3章 理性と感情―ベトナムの漁村における韓国人人類学者の経験から

第4章 「かかわりあい」を生み出す食事―西ティモールの村と町でともに食べること

第Ⅱ部かかわることのディレンマと矛盾

第5章 しがらみの人類学

第6章 人脈を辿って「紛争空間」を渡り歩く―ミャンマー内戦に巻き込まれた人びとの越境的ネットワーク

第7章 戸惑いの帰趨―観光開発とのかかわりあいから考える

第8章 「文化」の収集における協働と葛藤―南スーダンと難民キャンプにおける現地の人びととのかかわりあい

第Ⅲ部かかわることから生成するもの

第9章 グローバル化する世界においてかかわりあうこと―日本への出稼ぎミャンマー人と私との生活経験の共有しそこない

第10章 何気ないかかわりあい―ハラレとヨハネスブルグにおけるフィールドワークの経験から

第11章 フィールドにおける相互期待の交錯―ソロモン諸島での共同生活から思考する人類学者と現地住民との「かかわりあい」

第12章 「体得しない」芸能研究者がフィールドでかかわったこと

第13章 違う存在になろうとすること―フランスのモン農民とのかかわりあいから

終章 不確かな世界で生きること

おわりに


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