模索するロシア帝国 大いなる非西欧国家の19世紀末
価格:5,280円 (消費税:480円)
ISBN978-4-87259-687-8 C3031
奥付の初版発行年月:2019年10月 / 発売日:2019年10月下旬
ロシアはいかなる条件のもとで大国の地位を築いたのか。日露戦争までの40年間のヴィッテを中心とした政治思想を読み解く。日本では19世紀末のロシアについて日露戦争の前史にあたることから、戦争における日本の勝利を必然かつ正当とみなすため、およそ正確とは言い難いイメージが広く行き渡っている。近代化を西欧化と同一視しがちであった従来の見方も反省し、これまで詳細につづられてこなかった姿を問う。
日本の隣国、ロシアがいかなる国なのか、われわれ国民は正しく知らされていない。目まぐるしく変化したロシアの19世紀末のわずか40年ほどの歴史は、研究者の関心を分け、日露戦争の日本戦勝によって事実が正しくもたらされなくなっていた。そのことさえ知らなかったわれわれは、この国を理解することができているのだろうか。本書には、思いもよらぬ帝政ロシアの自由と、度々訪れる緊張のなかで対応する指導者たちの力強さと、国土と多様な人々を感じ取ることができる。カバーデザインの飛び続けるか撃ち落されるか、運命がオープンな状態で空中を飛ぶ一羽のかもめは、本書の内容も示している。
ロシアは、欧米先進国とは異なる条件のもとで、異なる道を辿って大国としての地位を築いた。そのことの対価を、今にいたるまで、払い続けている。その対価が、帝政期の政治的・思想的指導者たちによって増大させられたのか、あるいは減じられたのか、彼らの対応が賢明であったのか、不手際であったのか、一概に言うことはできない。ただ、その課題の大きさ、難しさを認識することなしに、われわれはロシアという隣国を理解することはできないであろう。(「結び」より)
竹中 浩(タケナカ ユタカ)
岐阜市生まれ。奈良大学社会学部教授。大阪大学名誉教授。法学博士(東京大学)。専門はロシア政治思想史。主著は『近代ロシアへの転換―大改革時代の自由主義思想―』(東京大学出版会、1999年)。編著に『言葉の壁を越える―東アジアの国際理解と法―』(大阪大学出版会、2015年)。
上記内容は本書刊行時のものです。
目次
序論
一 対象とする時代
二 本書の視覚
三 本書の構成と資料
第一章 前提
第一節 ナショナリズムと保守的論壇
一 ロシア・ナショナリズム /ニ アレクサンドル二世時代の保守的言論/三 汎スラヴ主義と露土戦争
第ニ節 アレクサンドル三世の時代
一 アレクサンドル三世とロシアの対外関係 /ニ ヴィッテの登用
第ニ章 地方自治と立憲主義
第一節 アレクサンドル二世時代のゼムストヴォと立憲主義
一 ゼムストヴォ開設と首都の立憲主義 /二 租税問題と立憲主義 /三 ゼムスキー・ソボール
第二節 反改革とヴィッテ体制
一 反改革と貴族 /二 ヴィッテ体制と経済対立 /三 貴族問題
第三節 ゴレムィキン内相期におけるゼムストヴォ論
一 国家行政機関とゼムストヴォ /二 食糧供給と全身分的郷 /三 救貧に対する責任と財政負担 /四 県ゼムストヴォの主導
第四節 ゼムストヴォ導入地域の拡大をめぐる論争
一 ゴレムィキンの提案 /二 ヴィッテの批判 /三 その後
小活
第三章 宗教政策における法治
第一節 公認宗教とセクトの間
一 公認宗教としてのルター派教会 /二 公認宗教以外の信仰 /三 宗教的寛容とシュトゥンディスト /四 セナートと内務省
第二節 ロシア化の手段としての刑事罰
一 ナショナリズムの標的としてのバルト・ドイツ人 /二 バルト・ドイツ人批判と行政的ロシア化 /三 アレクサンドル三世時代の宗教・教育政策 /四 その後
第三節 兵役忌避と国外移住―メノナイトとドゥホボール―
一 メノナイトの北米移住 /二 ドゥホボールによる「違法」行為の処分
小活
第四章 ロシア帝国と東アジア
第一節 満洲横断鉄道の敷設
一 一八八〇年代の露清関係とシベリア横断鉄道構想 /二 満洲における鉄道の敷設 /三 黄海へのアクセスと関内外鉄路 /四 その後
第二節 ジャーナリズムと中国問題
一 中国問題の出現 /二 租借における中国分割 /三 義和団事件 /四 英独協定とロシアによる満洲占領 /五 その後
第三節 移民問題と黄禍論
一 問題の所在 /二 黄禍論 (一)英米の黄禍論(二)ロシアの黄禍論/三 東アジア諸国からの移民 (一)アムール州における清国人居留地(二)沿海州における中国人居留地(三)ウンテルベルゲル総督の朝鮮人移民対策
小活
結び
あとがき
参考文献