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明治初期日本政府蒐集舶載建築書の研究

明治初期日本政府蒐集舶載建築書の研究

B5判
価格:7,700円 (消費税:700円)
ISBN978-4-8329-8199-7 C3052
奥付の初版発行年月:2011年10月
発行:北海道大学出版会  
発売:北海道大学出版会
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在庫あり

内容紹介

著者の池上重康氏は,建築史を専門としており,このたび近代日本の洋風建築の導入過程に関する実証的研究をまとめられた。池上氏の研究は,きわめて独創的かつ緻密な実証によって成り立ったものである。従来,近代日本における洋風建築の欧米からの導入に関して,御雇外国人の役割や,日本人大工の「見よう見まね」によるもの,との理解が一般的であった。池上氏は,北海道大学が所蔵する建築関連洋書に着目し,その来歴をひとつひとつ明らかにする作業を積み重ねた。さらには太政官蒐集による洋書,大蔵省旧蔵洋書,内務省および農商務省,工部大学校所蔵洋書など日本政府関係各機関にまで対象を広げ,建築関連洋書の導入状況をほぼ完璧なまでに明らかにした。札幌農学校・北大をはじめとする高等教育機関と政府機関が,洋書をこれほど大量に所蔵してきたことも驚かされるし,開拓使が所蔵した洋書が20世紀初頭に北大に寄贈される,という経緯も明らかにされている。この功績はきわめて重要であり,建築史学はもちろん,日本史,日本経済史,日本文化史に大きく貢献した業績と評価することができる。
 さらに,建築家が用いる「パターンブック」を日本に導入した際,「パターンブック」が「雛形」と訳されたこと,開拓使が洋風建築の庁舎を建てる際,パターンブック掲載のいかなる写真,図面のいかなる部分を参照し,それが具体的に開拓使庁にどのように生かされたのか,について緻密に検証した。池上氏の実証分析により,パターンブッックが日本の建築家に与えた影響の大きさが,説得力をもって示されることになった。北海道においては,「建築技術者の不在を補完するものとしても,洋書が大きな存在」だったのである。
 本書は,テーマの特性上,多数の図版が用いられている。本文の説明と,豊富な図版を見比べることにより,洋風建築導入過程が,具体的なイメージをもつように工夫されている。文字史料のみでは,はかり知ることができない,欧米からの知識の伝達が,手に取るようにわかるのである。(北海道大学大学院文学研究科教授 白木沢旭児)

著者プロフィール

池上 重康(イケガミ シゲヤス)

1966年 札幌市に生まれる
1991年 北海道大学大学院工学研究科建築工学専攻修士課程終了
現在 北海道大学大学院工学研究院助教 博士(工学)
主な業績
2006年度日本建築学会奨励賞
2010年度日本都市計画学会石川奨励賞(社宅研究会代表)
主要著書
『日本近代建築大全<東日本編>』(共著,講談社,2010年)。『社宅街 企業が育んだ住宅地』(共著,学芸出版社,2009年)。『北大百二十五年史 論文・資料編』(分担執筆,北海道大学図書刊行会,2003年)。『写真集北大125年』(編著,北海道大学図書刊行会,2001年)。『キンダイ日本の郊外住宅地』(共著,鹿島出版会,2000年)。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

目次


序 
 第1節 明治初期洋風建築導入過程の諸問題 
 第2節 「洋風建築」をめぐる用語 
 第3節 翻訳語としての「雛形」 
 第4節 パターンブック研究の動向 

第1章 開拓使旧蔵建築関連洋書の購入と移管経緯 
 第1節 はじめに 
 第2節 札幌農学校文庫の洋書目録 
 第3節 札幌農学校文庫の購入ならびに移管経緯 
  3-1 ケプロンによる洋書購入の申し立て
  3-2 大鳥圭介外遊中の洋書購入
  3-3 東京の仮学校から札幌への書籍運送
 第4節 札幌農学校文庫の建築関連洋書 
  4-1 建築関連洋書の移管経緯
  4-2 建築関連洋書購入の意図
 第5節 開拓使工業局旧蔵書および建築関連洋書 
  5-1 開拓使工業局関連印章のある現存する建築関連洋書
  5-2 工業局営繕課蔵書目録
 第6節 ロシアより輸入された建築書ならびに図類 
 第7節 開拓使煤田開採事務係旧蔵洋書 
 第8節 小括 

第2章 開拓使営繕事業における舶載建築書の参照 
 第1節 はじめに 
 第2節 開拓使旧蔵舶載建築書の概要 
 第3節 開拓使建築の洋風要素 
  3-1 日本人研究者による考察
  3-2 アメリカ人研究者による考察
 第4節 開拓使洋風建築の意匠とパターンブック 
  4-1 開拓使洋風建築とパターンブック掲載図版との照合
  4-2 開拓使本庁分局庁舎(1873年)
  4-3 札幌女学校講堂並教師館(1875年)
  4-4 開拓使工業局庁舎(1877年)
  4-5 豊平館(1880年)
  4-6 その他のパターンブックの模倣事例
 第5節 民間の市街地建築に見るパターンブックの影響 
  5-1 水原寅蔵店舗(1877年)
  5-2 遠藤明久による水原寅蔵店舗についての考察
  5-3 開拓使文書中の図面資料
  5-4 開拓使の洋風建築ならびに開拓使旧蔵舶載建築書との比較
  5-5 旅籠屋加藤直吉による「西洋造家作」建築費貸与願
 第6節 小括 

第3章 開拓使によるバルーンフレーム構法と米国式家畜房の導入 
 第1節 はじめに 
 第2節 クラークの寄贈書 
 第3節 バルーンフレーム構法の導入 
 第4節 米国式家畜房American barnの導入 
  4-1 バーンbarnという建築種別
  4-2 開拓使建設のバーン
  4-3 真駒内牧牛場家畜房
  4-4 七重勧業試験場第一家畜房
  4-5 七重勧業試験場第二家畜房
  4-6 東京官園家畜房
  4-7 開拓使旧蔵舶載書に見られるバーン
  4-8 開拓使建設のバーンとOgden farmのバーンの比較 
 第5節 揚水風車 
 第6節 小括 

第4章 明治初期中央官庁における建築関連洋書の蒐集 
 第1節 はじめに 
 第2節 菊池重郎による明治初期公刊洋書目録の報告 
 第3節 太政官蒐集の建築関連洋書 
  3-1 太政官による洋書目録の作成と管理
  3-2 内閣文庫洋書目録に見られる建築関連洋書
  3-3 大蔵省旧蔵建築関連洋書
  3-4 内務省購求ならびに農商務省移管建築関連洋書
  3-5 その他省官院旧蔵建築関連洋書
 第4節 工部大学校創設期の所蔵建築関連洋書 
  4-1 工学寮と工部大学校の洋書目録
  4-2 工部大学校所蔵建築関連洋書の特徴
  4-3 現存する工部大学校(工学寮)旧蔵の舶載建築書
  4-4 現存する工部美術学校旧蔵の建築関連洋書
  4-5 工部省営繕局洋書目録(1878年)
  4-6 辰野・妻木文庫の舶載建築書
 第5節 文部省蒐集建築関連洋書 
  5-1 国立国会図書館の沿革と洋書の移管経緯
  5-2 文部省関連の蔵書目録・図書票簽・蔵書印ならびに受入印
  5-3 東京書籍館旧蔵建築関連洋書
  5-4 教育博物館旧蔵建築関連洋書
  5-5 東京教育博物館ならびに東京図書館旧蔵建築関連洋書
  5-6 教育函分類の学校建築関連洋書
 第6節 小括 

結 

図版出典および所蔵一覧 
関連発表論文 
参考文献 
あとがき 
人名索引 
事項索引 


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