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日米同盟深化の起源冷戦後日本の防衛政策

冷戦後日本の防衛政策 日米同盟深化の起源

A5判 402ページ 上製
価格:5,170円 (消費税:470円)
ISBN978-4-8329-6745-8 C3031
奥付の初版発行年月:2011年02月 / 発売日:2011年03月中旬
発行:北海道大学出版会  
発売:北海道大学出版会
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内容紹介

1990年代、日本の防衛政策は、冷戦終結後の新たな安全保障環境に対応するため、日米安保体制の革新・強化を軸に再編された。なぜ日本は新たな防衛政策の中核として、日米同盟を選択したのか? この防衛政策再編プロセスは、その後の防衛政策にいかなる影響を与えたのか? が本書の問いである。本書は、「樋口レポート」(94年)、「東アジア戦略報告」(95年)、新「防衛大綱」(95年)、新「ガイドライン」(97年)という4つの防衛政策関連文書の成立プロセスを実証的に分析することで、これらの問いに答えようとするものである。
冒頭の3章は理論的検討と分析枠組の構築に充てられる。続く実証分析においては、「樋口レポート」が、日本の新たな防衛政策を「多角的安全保障」と「日米同盟深化」の2本柱で構想したこと、アメリカの政策文書「東アジア戦略報告」と日本の「防衛大綱」の策定プロセスにおいて、両国間、特に防衛庁と国防総省という軍事当局間で、密接な政策調整が実施されたことが示される。その結果、これら2つの文書は、同一の政策構想の下に形成されることになった。また政策調整の実施により、日米の軍-軍関係も緊密化した。その中で、米国と外務省などの反対により「多角的安全保障」は排除され、「防衛大綱」は「日米同盟深化」のみに基づく政策となったことで、「日米同盟深化」路線が確定したことが明らかになる。また新「ガイドライン」の策定においては、日米の制服組が作業に深く関わり、両国の軍-軍関係は一層の深まりを見せ、両国間の政策調整が一層進展したことが示される。これらのプロセスにおいて、政治レヴェルが防衛政策の内容に十分な影響を与えた例は見られず、またその努力も十分に行われなかった。政治レヴェルにおいては、防衛政策形成への関心は、政権をめぐる諸動向に従属していたと言わざるを得ない。
結論として第1に、理論的論点について、政党政治仮説は妥当性を欠き、経路依存仮説はマクロ・レヴェルで一定の妥当性を持つものの、問題も抱える。本書の事例に対し高い妥当性を持っているのは漸進的累積的変化仮説であった。第2に、政策的な現実について、90年代には「日米同盟深化」路線が定着したのみならず、政策調整や軍―軍関係の緊密化など、その進展を支える制度が新たに形成された。これが、今日の日本の防衛政策の根本を支えている。21世紀に入ってからの防衛政策展開も、これらの変化に裏打ちされたものだった。現代日本の防衛政策には、日米の軍事的一体化に向かうモメントが埋め込まれている。政党政治は、こうした状況に十分な影響を与えることが出来ずにいる。
最後の資料編では、冷戦期から90年代にかけての防衛戦略関係文書を検討し、政策内容の変遷を確認する。冷戦期の旧「防衛大綱」を基準に、「樋口レポート」から新「防衛大綱」を個別に検討の上比較することで、冷戦後の防衛政策の方針が確定し、それが新「ガイドライン」により継続・強化されたことが、多様な論点から改めて明らかになる。
このように本書は、冷戦後日本の防衛政策形成を立体的に描き出し、その本質を理解するために必要不可欠な、理論的検討、実証分析、資料編の3つの要素を組み合わせ、それらを同時に視野に収めることを可能とするものである。
[平成22年度 日本学術振興会研究成果公開促進費・助成図書]

著者プロフィール

柴田 晃芳(シバタ テルヨシ)

1974年、北海道札幌市生まれ。
2007年、北海道大学大学院法学研究科博士課程修了(政治学専攻)。博士(法学)。
同公共政策大学院博士研究員を経て、現在北海道大学公共政策学研究センター研究員。
専攻 比較政治学、国際政治学。

主要業績
『<境界>の今を生きる‐身体から世界空間へ・若手一五人の視点』 <編著> 東信堂、2009年。
「冷戦終結後日本の防衛政策‐1993~1995年の行政過程を中心に(1、2・完)」 『北大法学論集』第59巻第2号・第4号、2008年。
「政治的紛争過程におけるマス・メディアの機能‐『東京ごみ戦争』を事例に(1、2・完)」 『北大法学論集』第51巻6号・第52巻2号、2001年。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序  論
第1章 理論的検討
 第1節 国際関係学の理論
  構造的リアリズム
  ネオ・リベラル制度論
  コンストラクティヴィズム
  アリソンの官僚政治モデル
 第2節 歴史的制度論
  歴史的制度論とコンストラクティヴィズム
  制度・政策・変化
  アイディア
第2章 歴史的検討――冷戦期日本の防衛政策
 第1節 冷戦期日本の脅威認識
 第2節 冷戦期日本の防衛政策の概要
  防衛政策の3路線
  日米安全保障条約
 第3節 冷戦期日本の防衛政策プロセスの特徴
  「安保重視」路線の定着
  政党政治レヴェルの消極的関与
  防衛庁の限定的影響力
  防衛庁の限定的政策展開能力
  日米の軍―軍関係の凍結
第3章 仮説と分析枠組
 第1節 仮  説
  政党政治仮説
  官僚政治仮説
  経路依存仮説
  漸進的累積的変化仮説
 第2節 分析枠組
  時期区分と決定レヴェル
  アクターと影響力
  アイディア
  制  度
  諸要因の関連
第4章 1990年代前半の状況
 第1節 防衛政策改定のアジェンダ化
 第2節 「国際貢献論」の登場
 第3節 朝鮮半島核危機
 第4節 日米関係の悪化と緊張
第5章 防衛問題懇談会と「樋口レポート」
 第1節 経  緯
 第2節 制  度――防衛問題懇談会
 第3節 アイディア―― 「樋口レポート」
 第4節 仮説の検証
  政党政治仮説
  官僚政治仮説
  経路依存仮説
  漸進的累積的変化仮説
  まとめ
第6章 ナイ・イニシアティヴと「東アジア戦略報告」
 第1節 経  緯
 第2節 制  度――ナイ・イニシアティヴ
 第3節 アイディア―― 「東アジア戦略報告」
 第4節 日本の防衛政策形成プロセスへの影響
第7章 政府内調整と新「防衛計画の大綱」(07大綱)
 第1節 経  緯
 第2節 制  度――安全保障会議と与党防衛調整会議
 第3節 アイディア――新「防衛計画の大綱」(07大綱)
 第4節 仮説の検証
  政党政治仮説
  官僚政治仮説
  経路依存仮説
  漸進的累積的変化仮説
  まとめ
第8章 「日米安全保障共同宣言」と在沖縄米軍基地問題
 第1節 経  緯
  「日米同盟深化」の定着
  在沖縄米軍基地問題
  「共同宣言」延期
  沖縄問題のその後
 第2節 「日米安保共同宣言」
第9章 防衛協力小委員会と新「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」
 第1節 経  緯
 第2節 制  度――防衛協力小委員会と与党ガイドライン問題協議会
 第3節 アイディア――新「ガイドライン」
 第4節 仮説の検証
  政党政治仮説
  官僚政治仮説
  経路依存仮説
  漸進的累積的変化仮説
結  論
 なぜ冷戦終結後に日本は「日米同盟深化」を進めたのか?
 90年代の「日米同盟深化」プロセスはその後にいかなる影響をもつのか?

資 料 編
資料解説 防衛政策の変遷
 1 旧「防衛計画の大綱」(51大綱)
  概  要
  前提としてのデタント
  防衛政策路線
  防衛力整備
 2 「樋口レポート」
  概  要
  冷戦後の世界認識
  防衛政策の基本方針
 3 新「防衛計画の大綱」(07大綱)
  概  要
 4 「51大綱」から「07大綱」に至る政策変化
  情勢認識
  防衛政策の方針
  防衛力規模
  周辺事態対処
  国際的平和環境構築
 5 新「ガイドライン」
  概  要
  協力計画の策定
  日本有事
  周辺事態
  周辺事態における対米支援
  日米共同のメカニズム
  根本方針としての日米同盟深化
附 資料全文
 Ⅰ 旧「防衛計画の大綱」(51大綱)
 Ⅱ 「樋口レポート」
 Ⅲ 新「防衛計画の大綱」(07大綱)
 Ⅳ 新「ガイドライン」


参考文献
人名索引
事項索引


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