消え去る立法者 フランス啓蒙における政治と歴史
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-1120-4 C3010
奥付の初版発行年月:2023年02月 / 発売日:2023年03月上旬
かつてこんなふうに読まれたことがあっただろうか――。モンテスキューとルソー、そしてディドロへ。彼らが格闘し、解き明かし、残した問題とは何か。新たな共同体の創設という課題に直面し、法の根拠を問い直す重層的なテクストを読み抜き、「啓蒙」をクリシェから解き放つ、気鋭の労作。
王寺 賢太(オウジ ケンタ)
1970年 ドイツ連邦共和国デュッセルドルフに生まれ、北九州市八幡に育つ
1996年 東京大学大学院人文社会系研究科修士課程修了
2000年 東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学
2012年 パリ西大学にて博士号(フランス文学)取得
その間2005年~ 京都大学人文科学研究所准教授を経て
現 在 東京大学大学院人文社会系研究科准教授
著訳書:
Éprouver l’universel : Essai de géophilosophie (共著、Paris、Kimé、1999)
Guillaume-Thomas Raynal, Histoire philosophique et politique des établissemens et du commerce des Européens dans les deux Indes (Fernay-Voltaire, Centre international d’étude du 18e siècle, 2010-23, 4 vol.)(2016年より共同編集長)
『現代思想と政治――資本主義・精神分析・哲学』(共編、平凡社、2016年)
『〈ポスト68年〉と私たち――「現代思想と政治」の現在』(共編、平凡社、2017年)
ディドロ『運命論者ジャックとその主人』(共訳、白水社、2006年)
フーコー『カントの人間学』(訳、新潮社、2010年)
アルチュセール『政治と歴史』(共訳、平凡社、2015年)他
目次
凡例
序 章 フランス啓蒙における立法者論の問題設定
――政治と歴史のあいだ
1 立法者の孤独――創設のアポリア
2 歴史のなかの立法者――「18世紀フランス」というコンテクスト
3 「消え去る立法者」の理論的布置――「自然状態」からの分岐
4 本書の構成
第1篇 モンテスキュー――『法の精神』
I 統治という回路
――『法の精神』における法律・政体・歴史
1 モンテスキューの位置
2 法とその諸関係――『法の精神』第1篇
a 「法=関係」からの「派生」
b 回顧的錯覚の批判と人間関係の生成
c 「法の精神」とは何か
3 政体の原理・一般精神・習俗
a 政体の本性と原理――『法の精神』第2篇・第3篇
b 一般精神・習俗・立法者――『法の精神』第19篇
II 一種の革命家
――フランス中世法制史とモンテスキューの立法者論
1 『法の精神』第6部へのイントロダクション
a 奇妙な結論――『法の精神』第29篇
b ローマか、ゲルマンか――フランス王国起源論争というコンテクスト
2 簒奪なき諸革命――『法の精神』第30篇・第31篇
a 「体系」から遠く離れて――ブーランヴィリエとデュボスの回顧的錯覚の批判
b ゲルマン人の習俗への遡行
c 事物の秩序――封地の一般化の過程
d 封建的統治の戴冠
e 「イタリアだ、イタリアだ!」
3 新しい姿への変身――『法の精神』第27篇・第28篇
a もうひとつの「起源」からの再出発
b ゲルマン法とローマ法
c 「ゲルマン法の一般精神」からの派生――決闘とフランス人の習俗
d 道理なきものの道理――決闘の法理学
e モンテスキューの消え去る立法者――聖王ルイの肖像
f 「エジプト」からの回帰
第2篇 ルソー――『人間不平等起源論』から『社会契約論』へ
III 自然状態からの飛躍と反転
――『人間不平等起源論』における歴史批判
1 モンテスキューからルソーへ
2 「汝自身を知れ」――ホッブズとモンテスキューの回顧的錯覚の批判
3 「純粋自然状態」――社会の零度、歴史の零度
a 身体と環境の無媒介性
b 自由と完成可能性――潜在性の論理
c 人間関係と道徳の不在
4 断絶と飛躍――脱自然化の過程
a 純粋自然状態から「世界の若年期」へ
b 冶金と農業の発見から戦争状態へ
5 悪循環――契約ならぬ契約とその帰結
a 富める立法者の詐欺
b 戦争状態の潜在、無法状態の回帰
IV 主権論への転回、法の存立条件への遡行
――『政治経済論』から『ジュネーヴ草稿』へ
1 民主政モデルから主権論へ――『政治経済論』
a 『学問芸術論』と『不平等起源論』から『政治経済論』へ
b モンテスキュー民主政論からの出立
c 民主政的財政論とその隘路
d 主権・政治体・一般意志――根本概念の登場
e 立法者の出現と法律の創設
2 「暴力的な推論家」の審判――『百科全書』項目「自然法」におけるディドロの一般意志論
3 「独立人」と法の存立条件への遡行――『ジュネーヴ草稿』のディドロ批判
a 一般意志と政治体――『政治経済論』再訪
b 「人類の一般社会」のなかの孤独
c 「独立人」は法に服従しうるか
d 意志と利害――社会契約の条件
e 病の内なる治療薬――自由の潜在性
V 社会契約への遡行、社会契約からの反復
――『社会契約論』における立法者論の転倒とその帰結
1 「われわれ」という発話――『社会契約論』第1篇
a 社会契約への遡行――力の因果性と自由の対立
b 「われわれ各人」とは誰か――「契約/協約」とその飛躍
c 主権者人民の創設と「私」たちの回帰
2 ルソーの消え去る立法者――『社会契約論』第2篇
a 一般意志の絶対性とその限界
b 立法者の奇蹟?――一般意志の表明のパラドクス
c 立法者の後世――法体系とその目的
3 法律に服従する人民――『社会契約論』第3篇
a 「主権者─政府─国家」の比例関係とその変容
b 政府のジレンマと不在の人民集会――立法権力の潜在性
c 政府の設立か、社会契約の破棄か――来たるべき社会契約
4 政治体と歴史――『社会契約論』第4篇
a 一般意志の表明のために――例外性の試練と政治技術の要請
b 「われわれ」と「私」たちの臨界――「世論」と「市民宗教」
終 章 消え去る理想郷
――モンテスキューとルソーからディドロへ
1 ディドロと同時代の政治
2 イエズス会パラグアイ布教区をめぐる論争
3 神権政と共有財産制の理想郷?
4 裁かれる立法者たち
5 「立法」から「文明化」へ
注
あとがき
参考文献
略号一覧
索引