戦後表現 Japanese Literature after 1945
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-1116-7 C3095
奥付の初版発行年月:2023年02月 / 発売日:2023年03月上旬
そこにはいつも〈戦争〉があった
アジア太平洋戦争から冷戦、昭和の終わり、
湾岸・イラク戦争、ポスト3・11まで、
戦争をめぐる言葉がすくい上げてきたもの、
底に沈めてきたものを、詩・小説・批評を中心に精緻に読解。
経験や記憶に刻まれた傷跡としての表現の重層性から、
〈戦後〉概念を再審にかける。
坪井 秀人(ツボイ ヒデト)
1959年 名古屋市に生まれる
1987年 名古屋大学大学院文学研究科博士課程満期退学
金沢美術工芸大学美術工芸学部助教授、名古屋大学文学研究科教授、国際日本文化研究センター研究部教授等を経て、
現 在 早稲田大学文学学術院教授、名古屋大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授、文学博士
主著:
『萩原朔太郎 《詩をひらく》』(和泉書院、1989年)
『声の祝祭――日本近代詩と戦争』(名古屋大学出版会、1997年)
『戦争の記憶をさかのぼる』(筑摩書房、2005年)
『感覚の近代――声・身体・表象』(名古屋大学出版会、2006年)
『性が語る――20世紀日本文学の性と身体』(名古屋大学出版会、2012年)
『二十世紀日本語詩を思い出す』(思潮社、2020年)
『戦後日本を読みかえる』全6巻(編著、臨川書店、2018-19年)
『戦後日本文化再考』(編著、三人社、2019年)
『戦後日本の傷跡』(編著、臨川書店、2022年)
目次
序 論 〈戦後〉の再審のために
1 ゆらぐ〈戦後〉
2 冷戦体制の崩壊と戦後民主主義批判
3 永すぎた戦後と〈戦後〉の危機
4 傷/傷跡としての〈戦後表現〉
第I部 戦中にうたう戦争/戦後に書く戦争
第1章 戦争詩歌における前線と銃後
――『支那事変歌集』その他
1 〈前線/銃後〉パラダイム――帝国日本の戦争とその性格
2 日露戦争における前線と銃後――櫻井忠温『肉弾』と田山花袋『田舎教師』
3 記憶装置としての詩――日中戦争から〈大東亜戦争〉へ
4 三つの『支那事変歌集』
5 『支那事変歌集』を読む
第2章 〈抒情〉と戦争
――戦争詩の主体における公と私
1 戦争記録文学の叙事と抒情
2 少国民と戦争抒情
3 銃後詩人における国民化システム――尾崎喜八の場合
4 声の環流――「大詔奉戴」と隣組
5 〈公〉と〈私〉をつなぐ銃後詩人たち
6 韻律のファシズムと抒情
第3章 三好達治と戦争
1 「おんたまを故山に迎ふ」をどう読むか
2 自然としての死
3 三好の戦争詩批判とその矛盾
4 天皇の声を受肉すること、臣民の声を代行すること
第4章 ある詩人の戦中戦後
――佐藤一英の位置
1 詩と詩論の関係
2 佐藤一英の詩論
3 韻律学と戦争詠そして佐藤一英の戦後
第5章 パラレル・ワールドとしての復員小説
――八木義徳『母子鎮魂』ほか
1 経験の歴史化/経験の物語化
2 〈移動〉と戦争
3 鎮魂三部作まで
4 鎮魂三部作の意味
5 語りのパラレリズム(1)――『帰来数日』
6 語りのパラレリズム(2)――『母子鎮魂』
第6章 朝鮮戦争・ヴェトナム戦争の時代
――冷戦と経済成長
1 不確定な〈戦後〉――経済成長期における戦争文学
2 いまだ終わらざる戦争――〈第三の新人〉たちと野間宏
3 歴史の〈重ね書き〉と〈書きかえ〉――井上光晴・大江健三郎・高橋和巳そして三島由紀夫
4 記録と文学――井伏鱒二『黒い雨』と大岡昇平『レイテ戦記』ほか
第II部 戦時と戦後の連続/不連続
第1章 北園克衛の郷土詩と戦争
第2章 転向を語ること
――権力と告白
1 転向か非転向か
2 相互権力と転向
3 『転向者の手記』と小林杜人
4 小林杜人/小野陽一の語り
5 全体的転向――〈転位〉としての転向
6 様々な転向者たちの語り
7 〈宗教は阿片〉――宗教批判は克服されたか
8 浄土真宗と教誨師
9 転向の原理的再考へ
第3章 戦後の変態
――阿部定と熊沢天皇
1 『猟奇女犯罪史』の中の阿部定
2 阿部定と同時代精神分析言説
3 戦後空間の中の阿部定
4 阿部定から熊沢天皇へ
第4章 〈国文学〉者の自己点検
1 20世紀の終わりに起きていたこと
2 芳賀矢一の国学/国文学
3 文芸学登場以降の国文学
4 戦争責任と戦後責任の連続性
5 戦中戦後の切断=連続
第5章 戦中戦後の跨ぎ方
――〈国文学〉教育=研究の場合
はじめに
1 榊原美文と文学教育
2 1930年代の国文学界――近藤忠義を中心に
3 榊原美文の文学思想
4 戦中から戦後への跨ぎ方
第III部 外地の始まらない戦後
第1章 場所の詩人、金子光晴
第2章 柵の中で
――日系人強制収容所の中の書記空間(ライティング・スペース)
1 〈日本語文学〉という領域
2 〈アメリカ人になること〉と〈日本人であること〉
3 〈忠誠心調査〉と日系移民たち
4 柵の中の書記空間
第3章 旧満洲留用者たちの戦後
――雑誌『ツルオカ』とその周辺
1 徳田要請問題と木下順二『蛙昇天』
2 炭鉱都市・鶴崗
3 雑誌『ツルオカ』
4 『ツルオカ』掲載の文学作品
第IV部 戦後文学の思想
第1章 戦中戦後を架橋するゲシュタルト
――花田清輝『復興期の精神』
1 論理としてのレトリック
2 戦後への架橋としての〈変形〉
3 楕円のゲシュタルトと〈転形期〉
第2章 Herz und Mund und Tat und Terrorismus(心と口と行い、そしてテロリズム)
――大江健三郎『セヴンティーン』
1 二人の〈美智子〉の時代
2 大江健三郎『セヴンティーン』のアイロニー
3 テロリストの心と口と行い
4 テロルの未決算
第3章 歴史の消費
――高橋和巳『散華』『堕落』における戦中戦後の〈重ね書き〉
1 1960年代と高橋和巳
2 『堕落』と『散華』の同時代的文脈
3 被害者史観とミソジニー
第4章 街頭の詩想
――寺山修司と〈1968〉
はじめに
1 落書きが消えていく
2 〈開かれた書物〉としての街路
3 地理主義という思考
4 街頭から故郷へ/故郷から街頭へ
第5章 妻の崩壊
――傷跡としての江藤淳『成熟と喪失』
1 妻のあとを追う夫たち
2 アメリカと〈私〉性
3 〈母〉の崩壊――一つのシナリオ
4 〈妻〉の崩壊
第V部 戦後詩の臨界
第1章 初期サークル運動の可能性
1 サークル運動の中の軋み
2 序列化の問題――サークルと労組そして党
3 サークル運動における自由と不自由
4 読む人は書く人になることができる
第2章 高度消費社会と詩の現在
1 〈新人類〉の時代
2 現代詩の1980-90年代
3 技術の復権――荒川洋治の位置
4 〈女性詩〉の時代
第3章 クソ詩の戦争
――藤井貞和の詩=論
1 言霊的なるもの
2 音韻がすりへって
3 〈窶し〉の極限
4 〈窶し〉から〈クソ詩〉へ
第4章 過ぎ去っていく過去
――湾岸戦争詩論争まで
1 問いの前の問い――忘却の世紀としての21世紀
2 湾岸戦争詩論争前史
3 メディア・ウォーの中の詩
4 湾岸戦争詩論争とは何だったのか
第VI部 戦争から遠く離れて
第1部 プログラムされた物語
――村上春樹『羊をめぐる冒険』
1 『羊をめぐる冒険』を一篇として読むこと
2 教養小説的範型を裏切る
3 プログラムされた物語
第2章 ポストバブルの〈アブジェクト〉
――吉本ばなな『キッチン』から桐野夏生『OUT』へ
1 バブルの時代の夢みるキッチン
2 コンビニの光と闇
3 ポストバブルの「崩壊」感覚
4 〈無気味なもの〉の原理
5 ポストバブルの〈アブジェクト〉
第3章 幸いなるかな忘れゆくもの
――危機としての戦後60年
1 忘却という病
2 忘れていく私たちの危機を語る言葉
3 忘却を写す、忘却を戒める
第4章 転形期としての1989年と元号問題
1 香港2019・6
2 ベルリン1989・11
3 東京1989・1
4 元号問題への序奏――いまだ始まらない〈平成〉と〈令和〉
第5章 生者と生きる
1 よみがえる〈演説〉――SEALDsの衝撃
2 オバマ・広島スピーチをどう聞くか
3 〈ポスト3・11〉の死者論言説(1)――小説における
4 〈ポスト3・11〉の死者論言説(2)――批評における
注
〈戦後後〉を見とどける――あとがきに代えて
初出一覧
図版出典一覧
索引