ツベルクリン騒動 明治日本の医と情報
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-1101-3 C3021
奥付の初版発行年月:2022年11月 / 発売日:2022年11月上旬
欧米では「フィーバーからスキャンダルへ」と化した、コッホによる「結核新治療薬」。日本社会はそれをどのように受け止めたのか。多様な医療雑誌による「情報」の伝達・普及・切り分けを軸に、近代日本の医学・医療の風土が形成される転換期の実相を描き、今日への示唆に富む労作。
月澤 美代子(ツキサワ ミヨコ)
1949年 東京に生まれる
1972年 東京農工大学大学院中退
2000年 「W・ハーヴィのアナトミアと方法」で博士(医学)
順天堂大学大学院医学研究科(医史学・医の人間学)准教授を経て
現 在 順天堂大学医療看護学部非常勤講師
主な著訳書・論文
ジャン・フェルネル著「事物の隠れた原因」(抄訳)(池上俊一監修『原典 ルネサンス自然学 上』名古屋大学出版会、2017年所収)
「明治初期日本における医療情報の伝達―西南戦争・コレラと皮下注射法の普及―」『日本医史学雑誌』58、2012年
「ハーヴィとデカルト―17世紀オランダにおける血液循環論の受容とカルテジアニズム―」(村上陽一郎編『知の革命史4』朝倉書店、1980年所収)
H.E.グルーバー著『ダーウィンの人間論―その思想の発展とヒトの位置―』(江上生子、山内隆明と共訳、講談社、1977年)
目次
序章
1 近代医学の転換点としての「ツベルクリン」
2 グッド・クリニカル・ジャッジメントと医療技術評価
3 医学医療史から見た19世紀後半とは
4 明治維新と近代医学の導入
5 トップダウンとボトムアップ
6 明治期日本の医師数と80%の医師
7 19世紀欧米の医療情報誌
8 本書の構成
第I部 医療情報はどのように伝達されたか
第1章 明治日本における医療情報の導入・伝達・普及
1 医療情報の4区分
2 一般情報と内部情報
3 一般情報(information)に関する研究史
4 内部情報(intelligence)に関する研究状況
第2章 明治20年代日本の情報環境
1 「環境」「ひと」「もの」
2 国際的な情報インフラの整備――電信・通信社・船便
3 日本国内での輸送環境
4 日本国内での「情報」を規制する法的な環境
5 情報発信地の東京一極集中
第3章 日本語医療情報誌と「一般新聞」
――明治23~24年を中心に
1 先行研究の検討
2 本書で主な検討対象とする医療情報誌の選考基準
3 本書で主な検討対象とする日刊紙
第II部 明治日本の「ツベルクリン騒動」
第4章 「ツベルクリン騒動」とは何か
1 「ツベルクリン」とは何か
2 「ツベルクリン騒動」とは何か
3 先行研究の検討
4 臨床実験/病床実験と病名
ステージ1:発端・開始
第5章 日本の「ツベルクリン騒動」はどのように始まったのか
1 第10回ベルリン万国医学会でのコッホの発表
2 情報の導入・紹介
3 日本における「ツベルクリン騒動」の開始
4 さらなる拡大――明治24年1月31日刊行『大日本私立衛生会雑誌』第92号
5 『官報』と「一般新聞」における情報伝達
6 長与専斎『松香私志』の記述再考
ステージ2:政府としての対応検討期――「特例法」の建議と帝大・衛生試験所での検証試験
第6章 帝大病院・内務省衛生試験所の「ツベルクリン」検証報告
1 はじめに
2 緒方正規による建議と中央衛生会での論議
3 明治24年2月28日・中浜東一郎の演説
4 帝大病院での検証実験
5 内務省衛生試験所での検証実験と結果
6 結果はどのようなものとされたのか――4月30日・中浜演説
7 スクリバ報告の結果は信頼できるものだったのか
8 まとめ
第7章 検証実験の「一般の人々」への伝達
1 はじめに
2 『郵便報知新聞』掲載記事
3 『時事新報』での報道
4 『読売新聞』での報道
5 まとめ――3紙の微妙な違いから視えてくること
ステージ3:日本全国への普及
第8章 「特例法」と日本全国の医療施設での臨床実験
1 はじめに――「ツベルクリン特例法(内務省令第三号)」の『官報』での公示
2 吉益東洞『結核新療 古弗氏ツベルクリン使用便覧』
3 「特例法」の適用範囲と官・府県立病院での臨床実験
4 「特例法」に基づく「ツベルクリン」使用申請と認可/不認可
5 日本全国における「ツベルクリン臨床実験」報告
6 公的な内部報告書に残された臨床実験成績
7 特例法の廃止
8 まとめ
医療情報誌から視る「ツベルクリン騒動」
第9章 学会誌から視る「ツベルクリン騒動」
1 はじめに
2 『東京医学会雑誌』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『順天堂医事研究会報告』から視た「ツベルクリン騒動」
第10章 商業誌3誌における「ツベルクリン」情報掲載の推移
1 はじめに
2 『中外医事新報』から視た「ツベルクリン騒動」
3 『東京医事新誌』から視た「ツベルクリン騒動」
4 『医事新聞』から視た「ツベルクリン騒動」
第11章 5誌の比較検討から視えてくること
1 「医療情報」と「医療界の情報」と
2 「情報」収集力・伝達力・発信力
3 「情報」の切り分け――「伝えられた情報/伝えられなかった情報」
4 「ツベルクリン」臨床実験と「ツベルクリン騒動」の終息との関係
5 『大日本私立衛生会雑誌』における「ツベルクリン騒動」の終息
第III部 階層化されていく時代と医療情報誌
北里柴三郎と伝染病研究所
第12章 明治24年大日本帝国予算案と内務省
1 はじめに
2 明治24年度予算案審議
3 明治24年度内務省予算をめぐる攻防と長与専斎の辞任
4 北里の帰国―─明治25年5月~6月の内務省
第13章 「伝説」の再検討
─―帝大3教授はコッホに「門前払い」されたのか
1 「伝説」のルーツ・その1――『北里柴三郎伝』
2 北里の留学と帝大医学士の派遣
3 「伝説」のルーツ・その2――長谷川泰の演説
4 帝大3医学士のドイツ派遣時のコッホの状況
5 「伝説」の背景
第14章 審事機関としての伝染病研究所
1 伝染病研究所の創設
2 国家衛生の審事機関としての伝染病研究所
3 香港派遣命令
4 ジフテリア血清療法
5 人材の育成――衛生官の教育
6 研究に使用される身体
7 「ツベルクリン」評価――不可侵の領域としての「ツベルクリン」
医療情報誌の階層化
第15章 トップダウンとボトムアップ
――医療専門職層の拡大と質の変化
1 はじめに
2 『細菌学雑誌』の創刊と医療情報誌の専門分化
3 国家医学という領域
4 日本医学会の創設と専門医学会
5 地方医学会の創設と官立医学校紀要の刊行
第16章 医療情報誌マーケットの拡大と富士川游の模索
1 はじめに
2 『中外医事新報』と富士川游の模索
3 啓発誌の隆盛
第17章 明治20年代日本の医療情報誌と階層化
1 医療情報誌の使命とは
2 「ツベルクリン騒動」後の各誌の配布数
3 階層化されていく医療情報誌
終 章 「ツベルクリン騒動」とは何だったのか
1 共存する「時間」と氾濫する「情報」
2 時間差のある地域――島国というメリット
3 科学的医学とは
4 「ツベルクリン騒動」は、いかに語られてきたか
5 模索と模倣の時代――「臨床研究に使用される身体」をどう扱うか
付表 「ツベルクリン騒動」関連略年表
注
あとがき
参考文献
図表一覧
索引