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 宋銭と為替からみた経済史東アジア国際通貨と中世日本

東アジア国際通貨と中世日本 宋銭と為替からみた経済史

A5判 584ページ 上製
価格:8,800円 (消費税:800円)
ISBN978-4-8158-1061-0 C3033
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年03月上旬

内容紹介

貨幣、この自由にして御しがたきもの――。宋・遼・金・元・明・日本・朝鮮など、東アジア各地に流通した宋銭は、それぞれの政権の思惑を超え、為替や紙幣を誘発しつつ、経済・社会・政治を大きく動かしていった。文献と考古学的知見を踏まえた丹念な検証により、従来の見方を一新する画期的な貨幣・金融史。

前書きなど

中国の宋代(960-1279)に鋳造された銅銭を「宋銭」という。宋銭は、宋国内のみならず、宋と敵対した遼(916-1125)・金(1115-1234)・西夏(1038-1227)という国家でも主たる貨幣として流通し、さらには海を越えて日本にも流入して使用された。日本の中世遺跡における宋銭の出土事例は、沖縄から北海道に至るまで全国にわたっており、その中には、大量の宋銭が一括して出土するものもある。中世の日本では、宋銭は広範囲で日常的に使用されていたと考えられる。

元代(1271-1368)以降、宋銭は、中国大陸では、次第に流通貨幣に占める割合が低下していく。北部中国を中心に紙幣が本格的に流通したからである。明代(1368-1644)に至ると、銀が主要な流通貨幣になり、宋銭流通は縮小する。その後、宋銭は、1500年代には新しい明銭に対しても優位性を喪失し、1630年頃に貨幣としての役割を終えた。日本での宋銭流通も、1570年を境に大きく後退したので、東アジア世界で主要貨幣として流通したのは、1600年前後までである。

ただし、宋銭は、その後もベトナム等の地域では流通していた。ベトナムでは、14世紀の使用銅銭は唐宋銭であるとされており(山本1939、301頁)、考古学的に見ても、15世紀の主要流通銅銭は宋銭であったと考えられている(三宅2009、302頁)。また、17世紀に入って、鎖国下の日本は、「長崎貿易銭」という模造の宋銭を鋳造し、絹製品買付におけるベトナムへの支払に充当していた(古賀2012、132-135頁)。銅材そのものを輸出するのではなく、宋銭の銭文を利用して銅銭を模造――すなわち偽造――する行為は、第1に、ベトナムでは、宋銭が銅地金以上の価値を持ったこと、第2に、宋銭の銭文こそがベトナムにおける貨幣の信認に関して重要であったこと、第3に、宋銭の価値は中国の権力の実体と無関係であることを意味している。……

[「序章」冒頭より]

著者プロフィール

井上 正夫(イノウエ マサオ)

1964年 香川県に生まれる
1987年 京都大学経済学部卒業
2001年 京都大学大学院経済学研究科博士課程修了
現 在 松山大学経済学部教授、博士(経済学)
著 書 『宋代の長江流域』(共著、汲古書院、2006年)
 『宋銭の世界』(共著、勉誠出版、2009年)
 『日本のお金の歴史 飛鳥時代~戦国時代』(ゆまに書房、2015年)
 『貨幣の統合と多様性のダイナミズム』(共著、晃洋書房、2021年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章
1 東アジアの貨幣の性質に関する諸仮説
2 本書の立場
3 用語の定義と本書の構成

第I部 東アジアの国際通貨

第1章 国際通貨としての宋銭
――王安石の通貨政策の再評価
はじめに
1 「信用貨幣」としての宋銭
2 物価水準の上昇
3 銅銭の地域的偏在としての銭荒
4 物価水準と鋳造量の関係
5 国外での宋銭の流通と国外持出禁止政策
6 王安石の銅銭持出解禁の再評価
おわりに

第2章 遼北宋間における宋銭の循環
――太平銭偽造の背景
はじめに
1 澶淵の盟約と榷場貿易
2 銅銭流通と密貿易の関係
3 遼で偽造された北宋の太平通宝
おわりに

第3章 高麗における流通銅銭不在の苦悩
――国際通貨確保の制約性
はじめに
1 銅銭流通の前提としての交換の存在
2 人々の貨幣への理解
3 中国の銅銭と紙幣の流通
4 李朝時代の自国貨幣と中国貨幣の対照性
5 国際通貨確保の困難性――従属国の限界
おわりに

第II部 古代日本における自国銅銭流通の意義

第4章 和同開珎銀銭の流通より見た市場動向の独自性
はじめに
1 隷開と不隷開の銭文について
2 和同開珎銀銭の初鋳の時期について
3 不隷開から隷開への切換の時期について
4 銅銭の使用促進策と「献銅銭」の問題
おわりに

補論1 無文銀銭の価値と和同開珎の公定価値の問題
はじめに
1 3/4常説と2常説の内容
2 両説の問題点
3 第3の仮説
4 和同開珎の銀銭と銅銭の公定比価の問題
おわりに

第5章 市場と貨幣に対する律令政府の支配力の限界
はじめに
1 交換の媒介としての銅銭
2 律令政府の市場価格に対する制御能力の限界
3 銅銭の地金価値について
4 金銭・銀銭・銅銭の問題
5 旧銭と新銭の市場での価値の問題
6 法定価値からの乖離の過程について
おわりに

第6章 平安中期の使庁権力拡充と銅銭流通途絶
はじめに
1 平安時代前半期における銅銭の流通と価値の問題
2 貨幣への支配力の強化と貨幣保持の危険性について
おわりに

第III部 宋銭の移動と中国大陸における貨幣の変貌

第7章 日本への宋銭流入
――12世紀末期の宋銭排除論とその背景
はじめに
1 宋銭の本格的流通と物価問題の発生
2 宋銭流通に対する支配者層の反応
3 宋銭流通の維持を可能にした要因としての砂金
おわりに

第8章 南宋の銅銭流通量の問題
はじめに
1 通説的理解
2 銅銭の鋳潰し発生の意味と銅銭鋳造不振の真因
3 銅銭の流通量
おわりに

補論2 北宋四川における交子の発生過程について
はじめに
1 四川の交子発生に関する通説の整理
2 四川の構造上の特質から発生する為替
3 四川振出の私交子への収束
4 交子の貨幣化と官営化
5 四川商人の為替に対する理解
おわりに

第9章 金における紙幣流通の拡大と宋銭の移動
はじめに
1 当初の交鈔のしくみの復元
2 交鈔が貨幣化していく過程
3 河南路の特質と交鈔流通化との関係
4 交鈔の流通拡大の銅銭に対する影響
5 遼との相違点とその原因
6 銀の貨幣化
おわりに

第10章 元明時代の紙幣流通の盛衰と流通貨幣の変化
はじめに
1 紙幣流通化の過程における信認獲得の努力
2 中国南部での宋銭流通の継続と国外への流出
3 銅銭を基盤とした幣制改革と紙幣流通崩壊の関係
4 明代における宋銭の消滅と銀流通の意義
おわりに

第IV部 中世日本における金融の発達

第11章 11世紀の返抄を媒介とした為替
はじめに
1 為替手形の定義と返抄・下文の使用方法
2 信濃前司に関わる一連の文書
3 返抄の為替手形的使用
おわりに

第12章 割符のしくみとその革新性
――2種類の割符の並存理由
はじめに
1 備中国新見荘より東寺に送付された2種類の割符
2 先行研究における為替文言の割符のしくみの理解
3 割印の施された「もう1つの文書」
4 割符による送金の全体像
5 2種類の割符の並存理由とその革新性
おわりに

第13章 為替文言の割符の割印の問題
はじめに
1 新しい仮説(単独印説)の内容
2 単独印説の検証
おわりに

第14章 原初的替銭の特質
――2種類の替銭の並存理由
はじめに
1 替銭に関する先行研究と割符のしくみの確定
2 原初的替銭に使用される文書
3 原初的替銭の成立条件
4 割符との並存理由
おわりに

第V部 宋銭の時代の終焉

第15章 中世日本における金融の拡大と縮小
――宋銭の時代の終焉
はじめに
1 流通銅銭の消滅速度の問題
2 金からの流出銅銭の日本への影響の有無
3 日本中世における物価水準の変動――金融の拡大と縮小
おわりに

第16章 17世紀における朝鮮半島での銅銭流通
――宋銭の終着駅
はじめに
1 16世紀以前の朝鮮半島における銅銭の問題
2 17世紀前半における銅銭流通政策
3 開城の銅銭
4 中国での銅銭衰退と朝鮮での17世紀中期以降の銅銭流通政策
おわりに

終 章 貨幣金融史上における宋銭流通の意義

参照文献
あとがき
初出一覧
図表一覧
索引


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