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排除されたものの考古学ゴシック新論

ゴシック新論 排除されたものの考古学

A5判 610ページ 上製
価格:8,800円 (消費税:800円)
ISBN978-4-8158-1060-3 C3071
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年03月中旬

内容紹介

美術史・建築史のマスター・ナラティヴに組み込まれている「ゴシック誕生」。しかし、中世ヨーロッパ建築・彫刻の驚くべき多様さはその直線的な物語から排除されてきた。大聖堂を飾る人像円柱やマイクロアーキテクチャなどの豊かな造形に光を当て、時代様式を超えた新たなゴシック像を提示する。

前書きなど

パリのモンパルナス駅から鉄道で一時間ほど南西の方向に行ったところに、シャルトルの古い町がある。その大聖堂の西正面の扉口に並ぶ、とても魅力的なたたずまいを見せ多くの人々を惹きつけてきた彫刻群は、現代から九〇〇年近くさかのぼる一二世紀中頃の作品である。それは、まさにロマネスクとゴシックという二つの時代様式を分ける境界線上に位置するとされている。というのも、これらの像については、アンリ・フォシヨンの一九三一年の著作『ロマネスク彫刻』の末尾で、「私たちはひとつの発展の始まりに立ち会うのではなく、ひとつの芸術の終着点にいるのである」とされ、ゴシックの初期ではなくロマネスクの終焉に位置づけられる一方で、ヴィルヘルム・フェーゲの一八九四年の重要な著作では、ゴシック彫刻の出発点と見なされていたからだ。

これらの彫像にロマネスクの終わりを見るべきなのか。それともゴシックの始まりを見るべきなのか。この問いは、筆者がシャルトル西正面の彫刻を研究テーマに選んで以来四十年以上抱き続けてきたものであり、美術史研究……

[「序章」冒頭より/註は省略]

著者プロフィール

木俣 元一(キマタ モトカズ)

1957年 浜松市に生まれる
1980年 名古屋大学文学部卒業
1982年 名古屋大学大学院文学研究科博士前期課程(哲学専攻美学美術史専門)修了
1987年 パリ第1大学博士課程(中世考古学専攻)にて博士号取得
名古屋大学文学部助手、助教授などを経て
現 在 名古屋大学大学院人文学研究科教授、博士(文学)
著 書 『シャルトル大聖堂のステンドグラス』(中央公論美術出版、2003年)
 『ゴシックの視覚宇宙』(名古屋大学出版会、2013年)
 『芸術のトポス』(共著、岩波書店、2009年)
 『ロマネスクとゴシックの宇宙』(共著、中央公論新社、2017年)
 『古典主義再考I・II』(共編著、中央公論美術出版、2021年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 オルタナティヴなゴシック像に向けて
――排除から回収へ
1 様式論による「斬首」
2 近代におけるロマネスクとゴシックの「創出」
3 排除されたものの考古学

第I部 「ゴシック誕生」の問題系――起源創出のレトリックを問う

第1章 ロマネスクからゴシックへ?
――近代的構成物としての様式史
はじめに
1 時代様式という近代的構成物
2 「ロマネスク」概念の創出がもたらしたもの
3 連続する様式間の対立的関係――パウル・フランクルの思考
4 起源をめぐる言説
5 様式論と空間的枠組

第2章 ロマネスクでもゴシックでもないもの
――様式史の「不純物」
はじめに
1 「過渡期」の建築をめぐる言説
2 「一二〇〇年様式」の射程
3 「後期ロマネスク」

第3章 ゴシックとイル=ド=フランス
――空虚としての中心
はじめに
1 「ゴシック誕生」とモダニズム
2 パノフスキーによる「モダニスト」としてのシュジェール像
3 イル=ド=フランスと「空白地帯」
4 クリュニー第三聖堂の事例
おわりに

第II部 ロマネスクとゴシックのあいだ――人像円柱

第4章 人像円柱というロマネスク的伝統
――ゴシック彫刻の「起源」という虚構
はじめに
1 人像円柱とは何か――フォシヨンの定義をめぐって
2 ゴシック彫刻の誕生と人像円柱
3 ロマネスクにおける人像円柱
4 人像円柱と扉口側壁の構造
5 廻廊の人像円柱
6 建築における人像円柱の機能

第5章 石材に斜めから取り組む彫刻技法と人像円柱
――シャルトル大聖堂を中心に
はじめに
1 フェーゲからウィトコウアーまで
2 人像円柱の場合
3 アーキヴォルトの彫像の場合
4 浮彫の地と表面の問題

第6章 サン=タルヌー=ア=ニヴリーヌの一二世紀の彫刻
はじめに
1 物語柱頭の図像表現
2 装飾小円柱と人像円柱
おわりに

第III部 「古典主義的」ゴシック

第7章 ゴシック建築における円柱と古典主義
はじめに
1 様式論の問題
2 ゴシック建築における円柱と古典の再活性化
おわりに

第8章 コリント式柱頭
――反ロマネスクのパラドックス
はじめに
1 排除のレトリック
2 ロマネスク建築におけるコリント式柱頭
3 イル=ド=フランスとその周辺におけるコリント式柱頭
おわりに

第IV部 周縁と細部の考古学(1)――マイクロアーキテクチャ

第9章 ゴシックとマイクロアーキテクチャの問題系
はじめに
1 マイクロアーキテクチャにおける建築様式と時差
2 マイクロアーキテクチャにおける「ゴシック」

第10章 キャノピー・モティーフとその展開
はじめに
1 キャノピーの類型学
2 キャノピーの系譜学
3 キャノピーの図像学
おわりに

第V部 周縁と細部の考古学(2)――シャルトル大聖堂「王の扉口」と装飾小円柱

第11章 装飾小円柱の系譜と一二世紀の作例
はじめに
1 モニュメンタルな芸術における先行例
2 多様な芸術領域における先行例
3 一二世紀の装飾小円柱のタイプと地理的分布
4 建築における装飾小円柱の配置
5 柱身の装飾された人像円柱
6 装飾小円柱と支柱システム
7 装飾小円柱と人像円柱

第12章  シャルトル大聖堂「王の扉口」の装飾小円柱
はじめに
1 建築的枠組
2 装飾小円柱のシステム
3 扉口側壁の隅切の構造
4 シャルトルの装飾小円柱に見られる不規則性
5 装飾小円柱に加えられた変化と修復
6 装飾小円柱と王の扉口および西正面の他の彫刻との関係
7 装飾小円柱を形成する各要素の長さ
8 再構成の試み
9 各円筒形要素の記述
10 装飾モティーフ
11 彫刻技法
おわりに

第13章 ヨーロッパ北部の装飾小円柱
はじめに
1 フランスとベルギー
2 イングランドの装飾小円柱
おわりに

終 章 複数形で長いゴシック
――ひとつの処方箋として
1 様式史のマスター・ナラティヴからの脱却
2 「ロマネスクでもゴシックでもないもの」への着目
3 長いゴシック

あとがき
初出一覧

図版一覧
索引


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