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近世貨幣と経済発展

近世貨幣と経済発展

A5判 456ページ 上製
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0965-2 C3033
奥付の初版発行年月:2019年10月 / 発売日:2019年10月上旬

内容紹介

「三貨制」史観を塗り替える画期的労作――小額貨幣の流通は、庶民の生活水準の上昇を示す指標である。銭貨や藩札などの需要面に注目し、多様性とダイナミズムを内包する日本各地の実態を分析、東アジアにおける徳川経済の先進性を実証する。

前書きなど

経済発展の推移をみる際の基本的な経済指標として、まず一人あたりGDP(国内総生産)が計測され、それから生活水準の動向をうかがうことが一般的である。関連して、市場経済化や海外交易の度合い、物価・賃金や富の配分状況などが模索されることになる。さらに近年注目を集めているK.ポメランツ『大分岐』では、それらを方向づける重要な条件として生態環境にも目を向けるようになった。たしかに一国の経済発展を促進したり抑制したりする条件はさまざまであり、何が主因で何が付随的な発展要因なのかは、それぞれの地域、時代により多様であろう。その際、諸説を検討すると、見逃せない重要な要因が欠落していることに気が付く。それは貨幣の役割である。

本書はその貨幣の役割に注目し、近世日本の経済発展について検討するものである。

近世日本の経済発展と貨幣の関係を考察するに際して、近年あきらかにされている具体的な研究成果をあらかじめ見ておこう。一橋大学経済研究所を中心におこなわれた最近の推計によれば、人口一人あたり平均GDPの推移にかんして、つぎのような状況が提示されている。1990年のアメリカにおけるドルの購買力を基準として測った2010年の日本の一人あたりGDPは2万1935ドルだったが、1600年のそれは667ドルと、現在のわずか約3.0%にすぎなかった。それでも国際連合が計測する、今日最低限の生活を維持するための所……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

岩橋 勝(イワハシ マサル)

1941年 名古屋市に生まれる
1964年 滋賀大学経済学部卒業
1967年 大阪大学大学院経済学研究科博士課程中途退学
    大阪大学助手、松山商科大学(現、松山大学)専任講師・助教授・教授を経て、
現 在 松山大学名誉教授、経済学博士(大阪大学)
著訳書 『図説 日本経済史』(共著、学文社、1972年)
    『近世日本物価史の研究』(大原新生社、1981年)
    『近代成長の胎動(日本経済史2)』(共著、岩波書店、1989年)
    『東予社会と住友――その史的特質と共生的関係』
    (編著、松山大学総合研究所、2002年)
    『日本のお金の歴史 江戸時代』(ゆまに書房、2015年)
    ジェームス・I・ナカムラ『日本の経済発展と農業』
    (共訳、東洋経済新報社、1968年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 本書の視角と課題

第I部 貨幣流通から見る近世日本経済

第1章 近世経済の制度的枠組み
はじめに
1 徳川の平和――制度的安定
2 市場規模拡大のための諸制度
3 経済インセンティブの成立
むすび

第2章 近世経済発展と貨幣
はじめに
1 石高制のなかの貨幣
2 近世貨幣の多様性と統合化
3 小額貨幣と経済発展
むすび

第3章 近世銭相場の変動と地域比較
はじめに
1 東日本の銭相場
2 西日本の銭相場
むすび

第4章 徳川時代の貨幣数量
 ――金・銀・銭貨在高の推移――
はじめに
1 金銀貨在高の推移
2 銭貨在高の推移
3 徳川期三貨流通量の推移――むすびにかえて

第5章 近世の日本・中国・朝鮮における貨幣経済化
はじめに
1 3国の貨幣制度と流通貨幣の推移
2 データの整備方法
3 貨幣経済化の3国比較
むすび

第II部 近世紙幣論

第6章 近世紙幣の流通実態
はじめに
1 近世紙幣の研究視角
2 藩札の流通実態をめぐる課題
3 藩札の流通持続期間と流通基盤
4 近世私札の流通実態
5 小額貨幣不足打開のための藩札・私札のコラボレーション
6 近代紙幣への日中比較――むすびにかえて

第7章 伊予松山藩札流通と銭匁勘定
はじめに
1 松山藩の藩札流通政策
2 松山藩領における銭匁遣い
3 藩札価格維持の要因――むすびにかえて

第8章 藩札信用獲得の一条件
 ――熊本藩領を事例として――
はじめに
1 熊本藩札と銭預り
2 熊本藩領の取引価値基準と銭匁内実
3 熊本藩領内流通貨幣の実態
4 銭匁遣い化と銭預り定着の要因――むすびにかえて

第9章 出雲松江藩札と連判札
 ――藩札と私札のコラボレーション――
はじめに
1 松江藩領内流通貨幣の実態
2 松江藩領内札遣いの実態
3 連判札の発行と流通
4 松江藩札と連判札――むすびにかえて

第III部 近世貨幣の流通実態――銭貨を中心として

第10章 銭遣い経済圏と銭匁遣い
はじめに
1 銭札発行分布から見る銭遣い経済圏
2 銭匁遣いの実態
3 三貨制のなかでの銭遣いの意義――むすびにかえて

第11章 東北地方の貨幣流通
 ――津軽地方の銭匁遣いを中心として――
はじめに
1 津軽地方の銭匁遣い
2 津軽地方の貨幣流通実態
3 秋田地方の貨幣流通実態
4 若干の考察――むすびにかえて

第12章 土佐における八銭勘定
はじめに
1 売券類に見る基準貨幣と流通貨幣
2 八銭勘定の成立と実態
3 土佐における貨幣流通実態
むすび

第13章 九州地方の銭遣い
 ――豊後日田地域金融取引における基準貨幣を中心として――
はじめに
1 豊後日田と千原家の概況
2 千原家金融取引証文の基準貨幣
3 日田地方の流通貨幣――むすびにかえて
補論 九州各地の銭遣い事情

終 章 近世貨幣と経済発展

あとがき
初出一覧
図表一覧
索 引


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