イギリス歴史人口学研究 社会統計にあらわれた生と死
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0954-6 C3022
奥付の初版発行年月:2019年06月 / 発売日:2019年07月上旬
人口・家族の動態の復元で世界を牽引し、政治・経済・文化の解明に決定的な影響を与え続けたイギリス歴史人口学の史料・方法とその実践的応用をトータルに叙述、公衆衛生や疾病などの最新の分析も加え、英国社会の新たな全体像に迫った著者渾身のライフワーク。
歴史人口学(démographie historique ; historical demography)とはどのような学問分野なのであろうか。あらゆる角度から人間の営みを時の経過の中で解明しようとする諸々の歴史研究に伍して、歴史人口学は何を明らかにしようとするのであろうか。固有の分析用具・思考様式を持つ領域なのであろうか。今日までの社会科学の歴史において、歴史人口学はどのような位置を占めてきたのか、そして、固有の領域として自立してきた背景とは何なのであろうか。歴史人口学は、端的に言えば、社会を構成する基層の一つは人口と家族であるという視点に立って、人口と家族の動向が社会・経済・政治・文化などの諸側面に作用し、後者の変化がまた人口・家族に影響を与えるという相互作用を歴史的に解明することを目指している。過去の人間の営みとその結果の根底にあるものをじかに対象として選び、諸個人の行動様式を科学的に追究し、その成果を他の歴史的局面に照射することによって、社会・経済・文化などのメカニズムをより鮮明にすることを目指す領域である。言い換えれば、特定の環境の枠組みの中で生きる生物としての人間集団の生命現象を、時の経過を通じて検討することが歴史人口学の内容である。
歴史人口学が人口学の単なる一分野から自律した領域として登場するきっかけの一つとなったのは、1960年にストックホルムで開催された第11回歴史科学国際会議(The International Committee of Historical Sciences ; Comité International des Sciences Historiques)におけるフランス国立人口学研究所のルイ・アンリによる講演「歴史的人口研究の最近における発展」であろう。このセッションは「歴史の方法」をテーマに設けられたものであり、講演の中で、アンリは近世以降……
[「序章 歴史人口学とはなにか」冒頭より]
安元 稔(ヤスモト ミノル)
1941年 大連市に生まれる
1970年 慶應義塾大学大学院経済学研究科博士課程修了
現 在 駒澤大学名誉教授
著 書 『イギリスの人口と経済発展――歴史人口学的接近』(ミネルヴァ書房、1982年)
Industrialisation, Urbanisation and Demographic Change in England(名古屋大学出
版会、1994年)
『近代統計制度の国際比較――ヨーロッパとアジアにおける社会統計の成立と
展開』(編著、日本経済評論社、2007年)
『製鉄工業都市の誕生――ヴィクトリア朝における都市社会の勃興と地域工業
化』(名古屋大学出版会、2009年)
The Rise of a Victorian Ironopolis, Middlebrough and Regional Industrialization
(Woodbridge, Boydell and Brewer, 2011)
目次
序 章 歴史人口学とはなにか
―本書のねらいと構成―
第Ⅰ部 史料と統計制度
第1章 人口動態統計記録の系譜
―教区登録制度から世俗身分登録制度へ―
1 教区登録制度の変遷
2 1836年「登録法」と身分登録本署の設立
第2章 人口静態統計制度の展開
―近代センサスの生成過程―
1 センサス以前の人口静態統計
2 1801年第1回センサス
3 1841・1851年近代センサスの成立
第Ⅱ部 イギリス歴史人口学の世界
第3章 出生から結婚まで
1 出生力の動向と産業革命期の人口増加
2 ヨーロッパに固有の結婚・家族形態
第4章 移動、そして生の終着点へ
―近代における人口の流動性と死亡―
1 人口移動
2 乳幼児死亡・成人死亡と平均余命
第Ⅲ部 近代イギリスにおける生と死
第5章 出生・結婚、老年と終末期
1 産科医の症例記録から見た出産
2 19世紀工業都市における結婚・世帯形成と人口再生産
3 救貧院の歴史人口学――貧困・疾病と家族関係
第6章 19世紀工業都市の疾病と死亡
―工業化・都市化と環境破壊―
1 都市と農村の死亡率
2 人口集積・過密と感染症の流行
終 章 近代イギリス史研究と歴史人口学
注
付 録
引用史料・文献一覧
あとがき
初出一覧
図表一覧
索 引