里海フィールド科学 京都の海に学ぶ人と自然の絆
価格:2,970円 (消費税:270円)
ISBN978-4-8140-0445-4 C3045
奥付の初版発行年月:2022年10月 / 発売日:2022年10月下旬
人々の生活圏のごく近くに位置し、暮らしと深く関わる身近な海として親しまれる里海。その多様性と生産性はどのようにしてもたらされるのか。日本海の天然の良港、舞鶴湾の奥に位置し50年にわたりフィールド科学の拠点となってきた京都大学舞鶴水産実験所が、里海で築かれてきた人と自然の強固な絆とその恵みを未来につなぐ方策を探る。
山下 洋(ヤマシタ ヨウ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 特任教授(京都大学名誉教授)
1983年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了,農学博士。専門は沿岸資源生物学。水産研究所時代はヒラメ・カレイ類などの初期生態を研究,京都大学では森里海連環学の基盤づくりと,ニホンウナギやスズキなど両側回遊性魚類の生態を研究してきた。
益田 玲爾(マスダ レイジ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 教授
1995年東京大学農学系研究科博士課程修了,博士(農学)。専門は魚類心理学。魚類の行動を飼育下で観察し,潜水目視調査により海の生態系の謎に迫る研究を展開。環境DNA も調査ツールとする。著書に『魚の心をさぐる』がある。
甲斐 嘉晃(カイ ヨシアキ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 准教授
2004年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了,博士(農学)。専門は魚類分類学で,特にメバル科,カジカ科,クサウオ科など寒帯性魚類を扱っている。また,日本海を中心とした海産魚類の系統地理や表現型の進化について興味を持って研究を進めている。主な著書は Fish Diversity of Japan(Springer)など。
鈴木 啓太(スズキ ケイタ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 助教
2010年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了,博士(農学)。専門は沿岸・河口域生態学。学生時代は有明海,ポスドク時代は北極海,現在は丹後海をフィールドにする。特にプランクトンや仔稚魚の生態と気候変動の関係に興味がある。
高橋 宏司(タカハシ コウジ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 助教
2012年京都大学大学院農学研究科博士後期課程修了,博士(農学)。専門は,魚類や水生無脊椎動物を対象とした,認知科学や認知生態学。特に,学習に注目して水生生物の行動・心理・認知について,水産学・行動生態学・比較心理学の側面から研究を実施している。
邉見 由美(ヘンミ ユミ)
京都大学 フィールド科学教育研究センター 舞鶴水産実験所 助教
2018年高知大学大学院黒潮圏総合科学専攻修了,博士(学術)。専門は海洋共生生態学。水槽実験や野外採集により甲殻類の巣穴に共生するハゼ類の生態を明らかにしてきた。現在は造巣性甲殻類の分類や生態研究にも取り組んでいる。
目次
まえがき[益田玲爾]
第1章 里海を支える環境と基礎生産
1‒1 気象と海象─季節変化と長期変化[笠井亮秀]
1 丹後海・由良川水系の気象
2 由良川
3 由良川河口域
4 丹後海
1‒2 栄養塩と植物プランクトン─由良川・丹後海の相互作用[渡辺謙太]
1 由良川流域の土地利用と栄養塩
2 塩水遡上と由良川下流域の基礎生産
3 丹後海沿岸域の基礎生産
4 河口沿岸域における鉄の動態
5 川・海の相互作用と生物生産
1‒3 海藻と海草─海の森の多様なつながり[八谷光介]
1 海藻や海草とは
2 京都での藻場研究
3 人と海の共生に向けて
より深く学びたい人のための参考図書・引用文献
第2章 動物プランクトンの細やかな環境応答
2‒1 カイアシ類と浮遊卵仔魚─逆らわず流されず[鈴木啓太]
1 動物プランクトンとは
2 カイアシ類の分布
3 浮遊卵仔魚の輸送
4 関心から始まる
2‒2 アミ類─魚類成育場を支える鍵生物[秋山 諭]
1 砂浜浅海域におけるアミ類の重要性
2 丹後海浅海域におけるアミ類の生産
3 温暖化の影響
2‒3 クラゲ類─特異な生活史と大発生[鈴木健太郎]
1 クラゲとは?
2 生態系における役割
3 人間との関わり
4 鉢クラゲ類の生活史
5 鉢クラゲ類の大発生とその原因
より深く学びたい人のための参考図書・引用文献
第3章 ベントスの知られざる生活史と多様性
3‒1 日本海のベントス─多様性と漁業[佐久間 啓]
1 ベントスについて
2 日本海のベントス
3 漁業資源としてのベントス
3‒2 腹足類を中心とするベントスの生態─遺伝子解析によるアプローチ
[井口 亮・喜瀬浩輝]
1 日本海における遺伝子解析の研究事例
2 他の海域での最新の遺伝子解析技術を用いた研究事例
3 日本海におけるベントス遺伝子解析の展開
3‒3 重要水産資源マナマコ─持続的な利用に向けて[南 憲吏]
1 生活史
2 舞鶴湾のナマコ漁業
3 資源調査の適期
4 天然採苗手法の開発
5 成体の分布と天然採苗への影響
6 マナマコ資源の回復と管理
3‒4 エビ・カニ類の役割─里海を支える生き物たち[邉見由美]
1 日本海のカニ類・京都府のカニ類
2 日本海のエビ類・京都府のエビ類
3 生態系エンジニアとしての造巣性エビ類
4 日本海におけるエビ・カニ類研究のこれから
3‒5 エビ類の生活史戦略と遺伝的多様性─川から深海まで[藤田純太]
1 両側回遊性エビ類の海洋幼生分散と遺伝的多様性
2 非回遊性種ミナミヌマエビの遺伝的多様性
3 深海エビの生活史戦略─クロザコエビ類をモデルとして
4 エビ類の生活史進化と多様性創出機構
3‒6 アカガイ資源の保全と増殖に向けて─七尾湾を例に[仙北屋 圭]
1 七尾湾
2 七尾湾のアカガイ
3 七尾湾の水温の長期変化
4 アカガイの斃死と浅海域の海底環境
5 水槽実験による斃死の再現
6 アカガイ資源の保全と増殖
より深く学びたい人のための参考図書・引用文献
第4章 魚類の生態と里海の利用
4‒1 日本海の魚類の分布─深海から浅海まで[甲斐嘉晃]
1 日本海の浅海性魚類相
2 日本海を回遊する浅海性魚類
3 日本海の深海性魚類
4 遺伝子から見た日本海の魚類
4‒2 潜水調査でみた魚の生態─魚類相の季節変化と長期変動[益田玲爾]
1 舞鶴湾の魚類相の季節変化と長期変動
2 原発温排水による局所温暖化に対する魚類の応答
3 津波後の海に見る魚類相の大規模撹乱後の回復
4 里海の回復と保全に向けての展望
4‒3 魚の学習能力─認知能力と生態そして栽培漁業へ[高橋宏司]
1 里海に棲む魚類の認知能力
2 マアジの沿岸加入に伴う認知能力の変化
3 マダイの釣りに対する認知能力
4 栽培漁業のための認知研究
5 魚類の認知研究から考える里海の魚とヒトの共存
4‒4 海と川をつなぐ魚─スズキ稚魚の河川利用生態[冨士泰期]
1 いつ・どのように河川を利用する?
2 どのような個体が河川を利用する?
3 何のために河川を遡上する?
4 個体群の何割が河川を利用する?
5 環境改変がスズキ個体群に及ぼしうる影響
4‒5 若狭湾に暮らすハゼ類─その多様性と固有性[松井彰子]
1 若狭湾はハゼ類の宝庫
2 若狭湾のハゼ科魚類相
3 若狭湾のハゼ類の遺伝的集団構造
4 若狭湾の里海に暮らすハゼ類の保全
より深く学びたい人のための参考図書・引用文献
第5章 里海の恵みを未来につなぐ
5‒1 海の京都の漁業─持続的な資源管理・商品開発・人材育成[谷本尚史]
1 漁業種類と漁獲魚種
2 資源管理の新展開
3 定置網漁業漁獲魚種の有効利用,高品質化への取り組み
4 漁業の担い手確保
5 水産資源の持続的な利用に向けて
5‒2 初めて分かった遊漁の経済的価値─釣り人目線で海の資源を考える[寺島佑樹]
1 沿岸魚介類資源がもたらす生態系サービス
2 京都府丹後海における遊漁
3 文化的サービスとしての遊漁の経済的価値
4 供給サービスとしての漁業の経済的価値
5 わが国における文化的サービスの経済的価値の増大
6 世界における資源利用・管理の現状
7 日本における資源利用・管理の現状と課題
8 遊漁を活用した地域振興
5‒3 里海保全における水産認証制度の可能性─生産者と消費者をつなぐ[鈴木 允]
1 国際水産認証制度(MSCとASC)の歴史と評価基準
2 国際認証の対象範囲と里海
3 ローカル認証による里海の保全
4 里海保全に向けた認証制度の活用
5‒4 魚・二枚貝からみた里海の再生─都市圏の海,大阪湾からの報告[山本圭吾]
1 大阪湾という海
2 大阪湾の環境変化と低次生態系における生物生産の推移
3 淀川感潮域におけるヤマトシジミ増殖の試み
4 大阪湾から見えてくる都市と里海のあり方
5‒5 森から海までの生態系のつながりと沿岸生物─森里海連環学のすすめ[山下 洋]
1 森里海連環学と里海
2 由良川・丹後海水系
3 川が運ぶ物質と海への影響
4 川と海を行き来する魚類
5 健全な森里海連環にむけて
より深く学びたい人のための参考図書・引用文献
クローズアップ舞鶴
1 沿岸観測─変わらぬ方法と変わりゆく環境 [鈴木啓太]
2 全国公開実習の魅力[邉見由美]
3 歴代の教育研究船「緑洋丸」[鈴木啓太]
4 淡水性エビ類の研究を通じて学んだ川の見方[八谷三和]
5 標本館─世界に先立つ40万点の魚類標本 [甲斐嘉晃]
6 魚市場調査─多様性を見つめ水産業のリアルを聞く[田城文人]
7 学生生活と研究の思い出[金子三四朗]
8 飼育棟─魚と人の育つところ [益田玲爾]
里海トピック
1 急潮と定置網の被害[舩越裕紀]
2 海底湧水と沿岸域の生物生産[杉本 亮]
3 マダイとクロダイの紫外線適応[福西悠一]
4 クラゲを食べる魚たち[宮島(多賀)悠子]
5 若狭湾はケハダウミヒモ類の宝庫[齋藤 寛]
6 若狭湾からの宝物「ぐじ」[横田高士]
7 エイ類の多様性[三澤 遼]
8 「丹後とり貝」─初夏を彩る極上の味覚 [谷本尚史]
9 若狭のサバと鯖街道─大衆魚のエースが歩む道 [多賀 真]
BOX 1 DNAから分かること─最新の分析手法とフィールド研究への応用[甲斐嘉晃]
BOX 2 里海における研究者と漁業者の協働─宮津湾のマナマコに学ぶ[澤田英樹]
BOX 3 環境DNA─1杯のバケツ採水から探る魚の生態[村上弘章]
BOX 4 日本の栽培漁業─その歩みと展望[和田敏裕]
あとがき[山下 洋]
謝辞
用語解説
索引