一つの市民権と二つの祖国 ローマ共和政下イタリアの市民たち
価格:6,270円 (消費税:570円)
ISBN978-4-8140-0376-1 C3022
奥付の初版発行年月:2022年01月 / 発売日:2022年01月下旬
前4世紀半ばよりローマはイタリアの諸民族を支配下に収め、半島に帝国支配を構築するが、その道は平坦ではなかった。イタリア支配の鍵を自治都市と投票権なき市民権に求め、限られた史料をもとに帝国の原型が形成される過程を追う。
毛利 晶(モウリ アキラ)
1947年京都市に生まれる。
神戸大学大学院人文学研究科名誉教授。文学修士(西洋史学,東京大学),Dr. phil.(ラテン文献学,マールブルク大学)
主な著書・訳書
『カサエル 貴族仲間に嫌われた「英雄」』(山川出版社,2014年)
リウィウス『ローマ建国以来の歴史3,4』(京都大学学術出版会,2008年,2014年)
目次
凡例
序 章 イタリアとローマ
1.一つの市民権と二つの祖国
2.同盟市戦争
3.イタリア半島のローマ化
4.ラテン人戦争(前341―338年)
5.ラテン人戦争の戦後処理
6.本書の構成と課題
第一部
第1章 ムーニキピウムとムーニキペースの起源
はじめに
第1節 史料上の問題
1.二つの系統の史料
2.フェーストゥスの『言葉の意味について』
3.『言葉の意味について』の構成
4.パウルスの『摘要』
第2節 ムーニケプスとムーニキピウムの語義に関する史料
1.基本史料
2.フェーストゥスと『摘要』で二つの項が置かれている場所の特異性
3.フェーストゥスの写本
4.codex Farnesianusの第8帖を証言する2本の手書きコピー(WとX)
5.WとXの特徴
6.WとXが証言するFの第8帖(Q VIII)
7.schedae Laeti(Letoの紙片)
8.パウルスの摘要を証言する写本
9.パウルスの摘要でMunicepsとMunicipiumが置かれている場所
第3節 史料(第2節の1)の解釈
1.法学者の所見
2.セルウィウスの所見とパウルスが4番目に挙げるムーニケプスの定義
3.パウルスの摘要に残るムーニキピウムの定義
第4節 歴史的背景
1.古ラテン人
2.ウォルスキー族とカンパーニア人
3.ローマに居留した人々
おわりに
第2章 投票権なき市民権(civitas sine suffragio)の起源
はじめに
第1節 カエレはいつローマ国家に併合されたか
1.カエレへの投票権なき市民権(civitas s.s.)の附与
2.カエレとの戦い
3.カエレとの休戦
4.カエレの併合
第2節 ラテン人戦争の戦後処理と投票権なき市民権の附与
1.ラテン人戦争の戦後処理
2.リーウィウスの叙述と投票権なき市民権
3.投票権なき市民権に関する学説
4.カプアの騎兵に附与された市民権
5.ラテン人戦争の戦後処理と投票権なき市民権の附与
6.ラテン人戦争以前の投票権なき市民権
第3節 カンパーニアへの進出と投票権なき市民権
補説 「カエレ人の表(Tabulae Caeritum)」について
はじめに
第1節 カエレ人の表に関する史料
1.Gellius, Noctes Atticae XVI, 13, 7
2.Strabo, Geographia V, 2, 3
3.ホラーティウスの古注(ad Ep. I, 6, 62: Caerite cera)
4.Pseudasconius, ad Cic. In Divin. 8(p.189 Stangl)
第2節 カエレ人の表と投票権なき市民
第3節 「カエレ人の表」という呼称の由来
第二部
第3章 ローマ市民権とケーンスス(戸口調査)
はじめに
第1節 ラテン人とケーンスス
1.リーウィウスの第9ペンターデを証言する写本
2.リーウィウスが伝える三つの事例
3.ターミノロジーの問題
4.事例[A]と[B]で帰国を命じられた人々
第2節 ラテン人のローマからの追放と移住権
1.移住権――Mommsen説とTibilettiによる批判
2.ラテン人がローマの民会に参加した事例
3.Mommsen説の論拠(ローマに住むラテン人の相続とケーンスス登録)
4.ローマに移住したラテン人に市民権を認める法
5.古ラテン人とラテン植民市の市民
6.ローマに移住したラテン人が市民権を得るための条件を定めた法
7.前187年と前177年の措置で対象となった「ラテン人」
8.ラテン人のケーンスス登録
9.前187年の措置と前177年の措置の違い
10.ラテン人戦争以降に建設されたラテン植民市
第3節 ケーンススと市民権
1.「トリブスからの追放」をめぐる論争
2.ケーンススの表への登録と市民権
3.ケーンススの「分散化」
4.ラテン植民市で行われたケーンスス
5.ローマに居留する古ラテン人の法的地位
おわりに
第4章 ガーイウス・グラックスの改革とイタリアの同盟市
はじめに
第1節 アッピアーノスとプルータルコス:史料としての問題点
1.グラックス兄弟の改革の史料
2.アッピアーノスの『内乱史』
3.プルータルコスの『ガーイウス・グラックス伝』
第2節 ガーイウス・グラックスの市民権法
1.フルウィウス・フラックスの市民権法
2.ガーイウス・グラックスの市民権法に関する史料
3.リーウィウス・ドルーススの逆提案
4.ガーイウス・グラックスの市民権法に関する学説史
第3節 ガーイウス・グラックスの改革のクロノロジー
1.ガーイウス・グラックスの護民官職
2.ガーイウス・グラックスのアーフリカ滞在の期間
3.ユーノーニア建設を語る史料
4.リーウィウス系の史料とリーウィウスの『縮約』の存在
5.ユーノーニアが建設されたのは何時か
6.リーウィウス系以外の史料が伝えるユーノーニア建設の年代
7.ガーイウスの法廷改革
8.市民権法
まとめ
第4節 不法取得返還請求法とイタリアの同盟市民
1.Tabula Bembina
2.Lex agr. Bemb.の制定年
3.Tabula Bembinaの表面と裏面
4.陪審審判人の選出方法
5.Lex rep. Bemb.の制定時期
6.キケローが伝えるアキーリウス法
7.Lex rep. Bemb.はアキーリウス法か?
8.不法取得返還請求訴訟で勝訴した原告への報奨
9.勝訴した非ローマ人原告とローマ市民権
おわりに
第5章 ガーイウス・グラックス以降の不法取得返還請求法
はじめに
第1節 文献史料から知られる不法取得返還請求法の制定年
1.アキーリウス法
2.グラウキアの護民官職
3.グラウキアが元老院議員となったのはいつか
4.セルウィーリウス(グラウキア)法にもとづいて設置された法廷
5.セルウィーリウス(グラウキア)法の制定年
第2節 碑文に残る不法取得返還請求法の同定
1.frag. Tarent.とLex Lat. Bant.
2.立法と宣誓条項
3.碑文に残る宣誓条項
4.Lex Lat. Bant.は不法取得返還請求法か
5.frag. Tarent.の法とLex lat. Bant.の同定
第3節 不法取得返還請求訴訟で勝訴した原告に与えられる報奨
1.『コルネーリウス・バルブス弁護演説』の中のセルウィーリウス法
2.frag. Tarent.が定める報奨
3.frag. Tarent. が報奨として市民権の選択を認めた者の範囲
第4節 イタリア同盟市民とローマ市民権
1.同盟市戦争の原因論
2.同盟市戦争
エピローグ
参考文献
あとがき
付録(略語一覧・地図)
索引(人名・事項)