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電気回路の基礎

電気回路の基礎

A5判 240ページ 並製
価格:2,750円 (消費税:250円)
ISBN978-4-501-11320-9 C3054
奥付の初版発行年月:2007年02月 / 発売日:2007年02月中旬

内容紹介

電子系学部の教養課程に最適のテキスト.

前書きなど

 1999年から約5年間,宇都宮大学工学部電気電子工学科で著者らはともに2年生前期の授業科目である「電気回路Ⅰ」の講義と演習を担当した.同学科では,学科専門教育科目の必修科目として,「電気回路Ⅰ〜Ⅲ」,「電気磁気学Ⅰ〜Ⅲ」を設定し,それらの教育には特に力を入れてきた.電気電子の基礎(土台)は電気回路と電気磁気学であり,それらをしっかりと習得していれば,さまざまな高度な学科専門科目(たとえば,制御工学,通信工学,電波工学など)の理解は比較的容易に行えると考えたからである.電気系の卒業生として恥ずかしくない電気回路と電気磁気学の実力を身につけてもらうために,通常の講義だけではなく,講義と同時間の演習の時間を準備し,ともすれば一方通行になりがちな大学の授業において,演習の時間を通して学生の疑問に応えられるように工夫した.また,電気回路Ⅰを受講する約100名の学生を2クラスあるいは3クラスに分け,1クラスの学生数を30〜50名程度とする少人数クラス制を導入した.さらに,電気回路と電気磁気学を集中的に学習できるように,2年生の前期に電気回路Ⅰ,Ⅱを,後期に電気磁気学Ⅰ,Ⅱを配置し,それらを順番に履修できるように,部分的に4学期制を導入した.
 以上のように,宇都宮大学電気電子工学科では,精力的に学科カリキュラムの見直しを行ってきた.教育システムの評価には時間がかかるので,電気回路と電気磁気学におけるカリキュラムの改革が本当に意味があったかどうかを判断することは現時点ではできないが,学生・教員に行ったアンケート調査では,比較的高い評価が得られている.もちろん教育システムの目的には限りがないため,同学科では継続的にカリキュラムの見直しを行っている.
 われわれは電気回路のカリキュラムについて検討してきたが,教育システムの改善と同様に,最も問題になったことは電気回路の教科書の選択であった.電気回路に関する古典的な名著は数多く存在し,われわれ電気系の教員たちはそれらの教科書を用いて電気回路を勉強してきた.しかし,それらの古典的名著の最大の問題点は,教科書がその読者に要求する前提知識のレベルがかなり高く,現在の平均的な大学生にとっては難しすぎる内容も含んでいることであった.ごく少数の,いわゆるエリートたちが大学に進学していた時代と,大学進学率が約50%で,しかも「ゆとり教育」世代の現在とでは,まったく状況が変わってしまっている.
 われわれは授業を担当していた5年間に講義ノートを作り,また演習の時間用に膨大な演習問題を作成した.それらをもとにして,できるだけ例題や演習問題の多い電気回路の教科書を作成することを目的として本書を執筆した.本書の読者の皆さんには,多数の例題や演習問題を自分の頭と紙と鉛筆を使って解いていただきたい.他人が解いた答えを定期試験直前にコピーして眺めただけでも「単位」はとれるかもしれないが,決して自分の実力にはならないだろう.そこで,章末の演習問題の解答では,単に「答え」のみを与え,その導出過程を自分自身の力で探していっていただきたい.また,大学などで教科書として採用していただいた先生用として,参考までに講義資料を準備させていただいた.出版社まで連絡をとっていただければと思う.
 本書は電気回路の最も基礎的な部分であるオームの法則,キルヒホッフの法則,交流理論(定常解析),線形回路網の解析,そして2端子対回路について解説したものである.宇都宮大学では,本書の内容をカバーする「電気回路Ⅰ」の後,電気回路Ⅱで「ラプラス変換と過渡現象」,電気回路Ⅲで「三相交流,分布定数回路」などの内容を講義している.本書を読み終えた読者は,ぜひつぎのステップへ進んで,電気回路の学習を続けていただきたい.
 本書の特徴を以下に列挙しておこう.
 ・できるだけ内容を厳選したこと—さまざまな情報を含んでいるということは本の使命の一つだろう.もちろんそのような辞書的な教科書も必要である.しかしながら,さまざまな事柄が執筆されていると,いったいその中でどれが重要であるのか,わからなくなってしまう読者も出てくるだろう.そこで,本書では著者の独断で,できるだけ重要であると思われることのみを記述した.
 ・すでに述べたように例題,演習問題を多数用意したこと.
 ・式変形をくどいくらい丁寧に記述したこと.
 ・電気電子工学に興味をもってもらうため,電気の偉人たちのエピソードなどをまとめたコラムを掲載したこと.
 ・電気回路の専門用語の英文をできるだけ記述したこと—もちろん日本語での理解が第一であるが,基本的な専門用語を英語でもいえるようにしておくことは,グローバルな国際社会において必要なことであろう.
 なお,本書では,抵抗,インダクタ,キャパシタなどの回路図として,JIS図記号の新図記号を用いた.昔,電気回路を学んだ著者らにとって,抵抗といえばギザギザマークと相場は決まっていた.とても寂しい気がするが,本書では長方形の箱で抵抗を表記した.
 本書の執筆に際して宇都宮大学電気電子工学科のさまざまな方のお世話になった.そのすべてを記すことはできないが,何名かの名前を書かせていただくことにより,感謝の意を表したい.まず,著者らが教育・研究活動を行う上で非常にお世話になった粕谷英樹氏(宇都宮大学名誉教授)に感謝する.つぎに,カリキュラム改革後の最初に演習を担当していただいた古神義則助教授には第二の著者の森とともに,何もない白紙の状態から多数の演習問題を作成していただいた.特に,古神氏には,電気回路の初学者にとって最もとっつきにくいであろう,正弦波交流について,グラフを多用した演習問題を多数作成していただいた.このような演習問題は,電気回路の他のテキストではあまり見られない本書独自の演習だと思っている.氏のご尽力に謝意を表したい.また,その後,演習を担当していただいた伊藤弘昭助手(現 富山大学),齋藤和史助手,そしてTA(ティーチングアシスタント)を勤めていただいた足立研究室,粕谷研究室の学生の皆さんに感謝する.最後に,本書を出版するにあたり,ご尽力をいただいた東京電機大学出版局の植村八潮氏と吉田拓歩氏に感謝する.
 2007年1月
 著者を代表して  足立修一


目次

第1章 電気回路の基礎
 1.1 電気はなぜ流れる
 1.2 オームの法則
 1.3 抵抗の直列接続と並列接続
 1.4 キルヒホッフの法則
 1.5 電圧源と電流源
 1.6 電力,ジュール熱,効率
 演習問題
第2章 基本的な交流回路の計算(Ⅰ)
 2.1 正弦波交流
 2.2 基本的な回路素子
 2.3 基本的な直列回路の計算
 2.4 基本的な並列回路の計算
 2.5 電力とエネルギー
 2.6 相互誘導回路と理想変成器
 演習問題
第3章 基本的な交流回路の計算(Ⅱ)
 3.1 複素数
 3.2 交流のフェーザ表現
 3.3 基本的な直列回路の計算
 3.4 基本的な並列回路の計算
 3.5 共振
 3.6 相互誘導回路の複素数表示
 3.7 電力の複素表現
 演習問題
第4章 回路網の解析
 4.1 ループ解析
 4.2 ノード解析
 4.3 例題
 演習問題
第5章 線形回路に関するさまざまな定理
 5.1 重ね合わせの理
 5.2 テブナンの定理
 5.3 ノートンの定理
 5.4 ホイートストンブリッジ
 5.5 線形回路網の双対性
 演習問題
第6章 2端子対回路
 6.1 2端子対回路のインピーダンス行列
 6.2 2端子対回路のアドミタンス行列
 6.3 伝送行列
 6.4 等価回路
 演習問題
参考文献
演習問題の解答例
索引

コラム
□アレッサンドロ・ボルタ
□ゲオルグ・ジーモン・オーム
□アンドレ・マリー・アンペール
□グスターブ・キルヒホッフ
□ジェームス・ワット
□ジェームズ・プレスコット・ジュール
□ハインリッヒ・ヘルツ
□マイケル・ファラデー
□ジョセフ・ヘンリー
□「抵抗」と「インピーダンス」
□シャルル・ド・クローン
□抵抗,コイル,コンデンサの大きさは?
□抵抗のカラーコード
□三角関数の公式
□ルネ・デカルト
□レオンハルト・オイラー
□テブナンとノートンの謎
□チャールズ・ホイートストン


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