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翻訳論の冒険

翻訳論の冒険

A5判 384ページ
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-13-080152-2 C3082
奥付の初版発行年月:2023年09月 / 発売日:2023年09月中旬

内容紹介

多くの文学翻訳、翻訳論で知られる第一人者が「翻訳になぜ理論が必要か」を、多くの実例を用いて解説する。翻訳はAIで「できてしまう」時代は、しかし翻訳すべき「内容」とは何か、その「正しさ」とは何かがより深く問われる時代でもある。翻訳の質への問い、翻訳の喜びへと読者をいざなう書。

著者プロフィール

山本 史郎(ヤマモト シロウ)

東京大学名誉教授、順天堂大学健康データサイエンス学部特任教授。1954年生まれ。1997年東京大学大学院総合文化研究科教授、2019年昭和女子大学国際学部特命教授。『東大の教室で「赤毛のアン」を読む』(東京大学出版会、初版2008年、増補版2014年)、『東大講義で学ぶパーフェクトリーディング』(DHC、2010年)、『名作英文学を読み直す』(講談社選書メチエ、2011年)、『読み切り世界文学』(朝日新聞出版、2015年)、『翻訳の授業』(朝日新書、2020年)ほか。翻訳に『ホビット ゆきてかえりし物語』(原書房、1997年)ほか同シリーズ、ブレンダン・ウィルソン『自分で考えてみる哲学』(東京大学出版会、2004年)など。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに
I 翻訳になぜ理論が必要か
01 イントロダクション――翻訳論はなぜ必要か
翻訳法を教えてくれる本
翻訳模擬戦
直訳か意訳か
翻訳論の森の中へ
アイデアの冒険
02 世界にはどんな翻訳論があるのか
翻訳論の濫觴
ユージン・ナイダの等価論
形式的等価
動的等価
ナイダの言語思想
テクスト言語学とスコポス理論
概念の膨張、そして消滅
トゥーリーの記述的翻訳研究
ルフェーブルと文化の研究
ヴェヌティの倫理的な翻訳理論
等価消滅後に光明はあるのか)
03 まず、翻訳を定義してみよう
翻訳とはなにか
翻訳のもっとも素朴な定義
汎翻訳論
「翻訳」の対象はなにか
ヤーコブソンの翻訳論
類似という概念
どこが似ているのか
カフカの『変身』
どれくらい似ているのか
ホラー小説から実存主義小説へ
類似概念の含意すること
04 日本の「翻訳」とは何だったのか
明治翻訳ことはじめ
漢文訓読は翻訳か
英文訓読の罪
岩野泡鳴の直訳擁護
岩野流の日本語
野上豊一郎の『翻譯論』
関口存男のやるかたなき憤懣
橋口稔のバランスのよい翻訳論
北御門二郎の「物自体」
分裂する翻訳基準
シュライアマハーの明察
05 形か意味か[1]――西欧の逐語訳
形と意味
逐語訳は何のために存在するか
言語の組み合わせの4タイプ
言語ペアのタイプと逐語訳
『タンタンの冒険旅行』
『ハムレット』
西欧における言語形式へのこだわり
06 形か意味か[2]――日本の「逐語訳」
日本の逐語訳
逐語訳は「中国語の部屋」
シンタグマの乱れ
翻訳は何を表現するか
言語の改良
言語の形式は透明なもの
日本語に関係代名詞は存在するか?
公理系の宣言
日本独自の翻訳研究の道
新たな翻訳理論の枠組みへ向けて
07 そもそも、意味とは何だろう
命題論理学
「概念」とは何を意味するか
文法とは何だろう?
「文法」への疑惑
英文法三態
接続詞への存在論的疑問
言い間違い
言語は道具である
文の意味と発話の意味
意味空間
08 意味を伝える、とは
等価の含意するもの
コンポーネントとしての意味
コーディングモデル
再び意味とは何か
言外の意味
すてきに錯乱した墓碑銘
マラプロピズム
発話の解釈
アドホックな当座理論
「言語」の消滅
反論にこたえる
死んだ言語から生きた言葉へ
09 関連性理論とは何か
コンテクスト
Relevanceとは何か
人間は意味を求める動物である
命題としての意味
話し手の意味
想定と推意
ANDの意味
いくつかの重要な考え方
明意と暗意
記述的用法と解釈的用法
根源的レベルの「解釈的用法」
類似とは何か
類似を定義する
心の表示と類似概念
絶対に忘れてはならないこと
10 いよいよ、翻訳とは何だろう
ここまでの流れ
ガットの先見の明
翻訳は想定の再現か
言語間の解釈的用法?
翻訳は原作の奴隷か
新しい翻訳の理論
書かれたものへの応用は妥当か
翻訳の三角形
想定
翻訳概念の拡張
翻訳における類似概念
ケーススタディ1
ケーススタディ2
段落の構造が語る暗意
まとめ
天翔ける翻訳
11 文学テクストを翻訳するということ
情報を伝える文章
目的が訳を決める
テクストの特徴
実用テクストは翻訳論の対象ではない
文学とは文を楽しむの謂なり
文学テクストとは何か
言語は道具である
ボアズ=バイアーの認知文体論
文体とは意図なり
文体的特徴の捉え方
慣用句の非日常化
有標か無標か
リファテールの文体論
「有標」の真の意味
『変身』
『羅生門』の夜の底
零度のテクスト
文体翻訳のモデル
「文体」についての補足
暗意の選択
翻訳論の課題
12 さあ、理論の応用に漕ぎ出そう
ジャンルの問題
解釈と創造性をめぐって
II 翻訳の実例を見る
01 文学翻訳の実践へ――冒険の見取り図
用語について
英文和訳から翻訳へ
翻訳から作品の創造へ
英語の文体
フォーマル度
文体の操作と関連性理論
02 翻訳推敲のワークショップ――『たのしい川べ』
投獄されたヒキガエル
第1稿
第2稿
最終稿
何でもない文章だが……
異様な表現に注目する
理想の翻訳
03 視点・声・心理劇を翻訳する――『床の下のこびとたち』
小人の視点
ヒソヒソ声
主客逆転の心理劇
4つのポイント
2つの映画ヴァージョン
メディアを超えた「翻訳」
04 物語の意味を翻訳する――『ホビット』[1]
「意味」へのこだわり
演技する言葉
主客逆転
ガンダルフの奇妙な英語(1)
主人公の心の振幅
ガンダルフの奇妙な英語(2)
物語の論理
まとめ
05 物語の仕掛けを翻訳する――『ホビット』[2]
気取った口調
場違いなビルボのセリフ
文体の落差
高級なジョーク
特異な口調
文化的常套句
英雄詩の文体
ほのめかし
原文の対比を日本語で表現する
文体の実験場
06 仕掛け翻訳のバリエーション――スターン、ディケンズ、トールキン、O・ヘンリー、モンゴメリ
Tristram Shandy
A Christmas Carol
The Hobbit
The Clarion Call
Anne of Green Gables
文学教育と翻訳論の教育
07 明治日本の天才たち――福澤諭吉、夏目漱石、森鷗外
福沢諭吉の翻訳
柳父章の分析
福沢訳の成立を再現する
ベッドに合わせて脚を切る
夏目漱石の名人芸
森鷗外の翻訳工房
『病院横丁の殺人犯』
ドイツ語版は英語テクストの写像
天才たちの言語理解
平易で明晰な文体への変換
「原作」を見抜いた鷗外の慧眼
字句や文法は眼中になく
先覚者たちの翻訳
08 短編翻訳のポイント――イエイツ、マンスフィールド、デ・ラ・メア、ブラッドベリー、ポー
The Heart of the Spring(
A Doll’s House
The Missing
A Sound of Thunder
The Fall of the House of Usher
09 書き換えられた『源氏物語』――ウェイリーとサイデンステッカー
『源氏物語』
『橋姫』
暗意から明意への転換
英語の意味空間へ
ミニマリズムの美学
ウェイリーvs.サイデンステッカー
英語小説のレトリック
サイデンステッカーの物語の形
文学的規約の力
優劣はあるか?
10 言語が変わると物語が変わる――『赤毛のアン』『羅生門』『新聞紙』『コンビニ人間』
『赤毛のアン』
マリラの成長
書き換えられた『赤毛のアン』
羅城門から羅生門へ
日本文学の紹介
物語のアイデンティティを捉えた訳
完全な英語小説
原作へのリップ・サービス
文化を翻訳する
コンビニは音の世界か?
言葉の壁と英米文化への書き換え
11 映像に翻訳する――『ホビット』『チョコレート工場の秘密』『ふしぎの国のアリス』
翻訳の3つのカテゴリー
ビルボの葛藤――格式か冒険か
価値の振り分け
ジョークの訳
ユーモアからファンタジーへ
映像化されたジョーク
ナンセンスからファンタジーへ
ナンセンスからセンスへ
スラップスティックという「センス」
ナンセンスは訳せるか
まとめ
12 メディア間の翻訳を考える――『ジェイン・エア』から映画、児童書、語学教科書へ
Jane Eyreの物語
Jane Eyreの謎
Janeのジレンマ
シャーロット・ブロンテのジレンマ
映像メディアへの翻訳
原作に寄り添っているBBC版
怪異な物語に衣替え
目が演じる心の葛藤
心に蘇る過去のシーン
4つの映画版で行なわれていること
児童書への書き換え
オペラ版『ジェイン・エア』
リトールド版への変容
翻訳論の課題
あとがき


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