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実践と研究のダイアローグ一歩進んだ日本語教育概論

一歩進んだ日本語教育概論 実践と研究のダイアローグ

西口 光一:監修, 神吉 宇一:編・著, 嶋津 百代:編・著, 森本 郁代:編・著, 山野上 隆史:編・著, 義永 美央子:編・著, 大平 幸:著, 佐川 祥予:著, 高橋 朋子:著, 西野 藍:著, 林 貴哉:著, 藤浦 五月:著, 藤原 智栄美:著, 松尾 慎:著, 羅曉勤:著
A5判 278ページ 並製
価格:2,860円 (消費税:260円)
ISBN978-4-87259-801-8 C3080
奥付の初版発行年月:2024年03月 / 発売日:2024年04月上旬

内容紹介

日本語を学ぶことの先にある、社会づくりを視野に入れた日本語教育へ――
日本人と外国人双方にとってより良い社会を実現するために、日本語教育ができることは何か。

本書は教育実践と研究活動を切り離すのではなく、両者を往還することで、新しい日本語教育の創造を試みる。
実践と研究のあり方を考え、日本語教育についての基本的な視点や姿勢を理解することを目指す入門的概説書。
執筆者たちが自身の研究テーマを当該分野との出会いから紹介し、研究動向を含めてわかりやすく解説する。

第1部「理論編」では主として研究の視点から日本語教育にアプローチする。
第二言語習得研究におけるインタラクション、学習者オートノミー、対話とコミュニケーション、ナラティブとアイデンティティ、相互行為、日本語教育政策といった各トピックにおける研究に触れ、それぞれのトピックがどのように実践につながるかを論じる。

第2部「実践編」では専門家としての執筆者たちの視点から、実践への関わりや実践のありようについて紹介する。
海外における教育、難民・子供・就労者を含めた日本在住の外国人の生活に応じた学習支援、多文化共生のまちづくり、多文化間共修などの実践について触れ、それぞれの実践と研究的知見の関連や、実践と研究の往還のあり方について論じる。

著者プロフィール

西口 光一(ニシグチ コウイチ)

広島大学森戸国際高等教育学院特任教授、(公社)日本語教育学会会長。国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了。博士(言語文化学)。
日本語教育の企画、リソース制作・システム開発、コース・コーディネーション、教員研修。
専門分野は、言語哲学と日本語教育学。
著書に『メルロ=ポンティの言語論のエッセンス―身体性の哲学、オートポイエーシス、対話原理―』(福村出版、2022年)などがある。

神吉 宇一(カミヨシ ウイチ)

武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。
元日本語教育学会副会長、元文化審議会国語分科会委員、文化庁地域日本語教育アドバイザー、江東区社会福祉協議会副会長。
専門分野は日本語教育学・言語教育政策・地域日本語教育。
著書に『日本語学習は本当に必要か―多様な現場の葛藤とことばの教育―』(明石書店、2024 年、共編著)などがある。

嶋津 百代(シマヅ モモヨ)

関西大学外国語学部教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得退学。博士(言語文化学)。
学内では日本語教師養成に携わり、学外では「日本語教師教育者ネットワーク」を立ち上げ、日本語教師・教師教育者の専門性向上のための活動を続けている。
専門分野は日本語教育学・教師教育学・ナラティブ研究。
著書に『ナラティブでひらく言語教育―理論と実践―』(新曜社、2021 年、共編著)などがある。

森本 郁代(モリモト イクヨ)

関西学院大学法学部・言語コミュニケーション文化研究科教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得満期退学。博士(言語文化学)。
大学生・大学院生に対する日本語教育と大学院での日本語教師養成に携わる。
専門分野は会話分析。
近年は、多様な人々による「話し合い」に関心を持ち、大学生のアクティブラーニングにおける話し合い能力の育成から、まちづくりの話し合い、裁判員裁判の評議の話し合いなどを対象に研究を進めている。
著書に『自律型対話プログラムの開発と実践』(ナカニシヤ出版、2012 年、共編著)などがある。

山野上 隆史(ヤマノウエ タカシ)

公益財団法人とよなか国際交流協会常務理事兼事務局長。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得退学。修士(言語文化学)。
「居場所」「エンパワメント」「簿飛びアップの組織づくり」などをキーワードに、多文化共生のまちづくりに携わっている。
著書に『外国人と共生する地域づくり―大阪・豊中の実践から見えてきたもの―』(明石書店、2019 年、公益財団婦人とよなか国際交流協会編集、牧里毎治監修)などがある。

義永 美央子(ヨシナガ ミオコ)

大阪大学国際教育交流センター教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程単位取得退学。博士(言語文化学)。
大学・大学院留学生対象の日本語教育や、日本語教師研修などに携わっている。
専門分野は応用言語学、日本語教育学。
著書に『[改訂版]日本語教育の歩き方―初学者のための研究ガイド―』(大阪大学出版会、2019 年、共著)などがある。

大平 幸(オオヒ ラサキ)

四国大学全学共通教育センター講師。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
留学生対象の日本語教育や、外国人就労支援者や団体と連携した外国出身者が働きやすい職場環境を作るための活動に携わっている。
専門分野は、日本語教育、第二言語習得研究、職場のコミュニケーション研究。
論文に「日本語学習者における複数のジャンルの獲得―複言語・複文化主義の視点からみえてくるもの―」『複言語・複文化主義とは何か―ヨーロッパの理念・状況から日本における受容・文脈化へ―』(くろしお出版、2010 年)などがある。

佐川 祥予(サガワ サチヨ)

静岡大学国際連携推進機構講師。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
大学・大学院留学生対象の日本語教育に携わっている。また、タイで実践コミュニティに関するフィールドワークを行っている。
専門分野は、ナラティブ研究、相互行為分析、日本語教育学。
著書に『相互行為能力の諸相―共構築・ナラティヴ・自己形成―』(溪水社、2022 年)がある。

高橋 朋子(タカハシ トモコ)

近畿大学グローバルエデュケーションセンター教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
外国ルーツの子どもたちや移民の言語教育をテーマに、夜間中学や地域の小中学校、母語教室に携わっている。
専門分野は社会言語学、年少者の言語教育。
著書に『中国帰国者三世四世の学校エスノグラフィー―母語教育から継承語教育へ―』(生活書院、2009 年)などがある。

西野 藍(ニシノ アイ)

国際基督教大学教養学部日本語教育課程レクチャラー。大阪大学大学院言語文化研究科博士前期課程修了。修士(言語文化学)。
リベラルアーツ教育を行う大学で「外国語」及び「第1 言語/ 継承語」としての日本語教育に携わり『タスクベースで学ぶ日本語 中級』(スリーエーネットワーク、2022/23 年)執筆。
専門分野は日本語教育学・教師教育学・第二言語習得研究。
著書に『文化と歴史の中の学習と学習者―日本語教育における社会文化的パースペクティブ―』(凡人社、2005 年、共著)などがある。

林 貴哉(ハヤシ タカヤ)

武庫川女子大学文学部日本語日本文学科講師。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
在日ベトナム人コミュニティでの地域活動や、日本語教員養成などに携わっている。
専門分野は応用言語学、在外ベトナム人研究。
論文に「マイナー文学としての『ベトナム難民少女の十年』―漢語を拠りどころにローカルな声を生きる―」(『アジア太平洋論叢』24 号、2022 年、共著)などがある。

藤浦 五月(フジウラ サツキ)

武蔵野大学グローバル学部日本語コミュニケーション学科准教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
専門分野は日本語教育学・社会言語学。
大学における日本語教師養成、アカデミック・ジャパニーズ教育などを担当。日本語母語話者も含めた初年次教育にも携わり、カリキュラム・教材開発を行っている。
著書に『大学生のための表現力トレーニング あしか―アイデアをもって社会について考える―(レポート・論文編)』(ココ出版、2016年、共著)などがある。

藤原 智栄美(フジワラ チエミ)

立命館大学政策科学部教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
専門分野は日本語教育学・社会言語学。
大学の留学生の日本語教育、学部生への異文化間教育を実践している。
論文に「敬語(不)使用の意識と相互交渉―多元文化社会において日本語第二言語話者の敬語観をいかに捉えるか―」『ことばの「やさしさ」とは何か―批判的社会言語学からのアプローチ―』(三元社、2015 年)などがある。

松尾 慎(マツオ シン)

東京女子大学現代教養学部教授。大阪大学大学院言語文化研究科博士後期課程修了。博士(言語文化学)。
多文化社会コーディネーター(多文化社会専門職機構認定)。
2014 年にVilla Education Center をビルマ出身難民当事者とともに立ち上げ、以来、日本語学習や生活のサポートに携わっている。
専門分野は地域日本語教育、多元文化教育。
著書に『多文化共生 人が変わる、社会を変える』(凡人社、2018 年、編著)などがある。

羅曉勤(ラギョウキン)

後期課程修了。博士(言語文化学)。
台湾で大学生と大学院生対象の日本語教育などに携わっている。近年、日本語教育における持続可能社会作りに関するワークショップをデザイン・開催。
専門分野は日本語教育、ビジネスにおける異文化コミュケーション。
著書に『日本學指南』(五南、2023 年、共編著)、『台湾高等教育での日本語人材育成における実践研究―今を生き・未来につながる教育を目指して―』(瑞蘭、2020 年)などがある。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに



第1部 理論編



第1章 日本語教育者の責任としての実践と研究のダイアローグ─教育実践と研究実践のポリフォニー(西口光一)

はじめに

1 課題としての研究と実践の乖離

2 研究と実践のダイアローグに向けて

3 21世紀初頭の日本語教育者

4 むすび



第2章 母語話者主義を超えた言語学習とは─VUCAの時代における批判的認識の重要性(義永美央子)

1 はじめに

2 第二言語習得研究におけるインタラクション研究

3 VUCAの時代における言語の学習・教育

4 「母語話者」「非母語話者」の再考

5 学習者オートノミーと教師の役割

6 学び方を学ぶ─学習者オートノミーを育む授業の実践

7 おわりに



第3章 日本語教育における言語観の再検討─自他関係に支えられる発話行為とナラティブ的現実(佐川祥予)

1 はじめに

2 ことばとは何か─LSヴィゴツキーとMMバフチン

3 物語るという行為

4 言語活動の実践現場



第4章 ナラティブとアイデンティティ─自分の世界を創造するために(嶋津百代)

1 ナラティブと私

2 ナラティブとアイデンティティ─私たちの価値観と世界観

3 ナラティブとアイデンティティを研究する

4 日常にナラティブを見つける

5 おわりに─私のことばの教育、ナラティブとともに



第5章 会話分析で何がわかるのか─「当たり前」を創り出す相互行為のリアリティ(森本郁代)

1 はじめに

2 会話分析とは何か

3 会話分析に対する疑問

4 日本語教育と会話分析の接点

5 おわりに



第6章 日本語教育政策研究は何をめざすのか─人文学としての日本語教育学と学際性(神吉宇一)

1 私と研究の関わり

2 日本語教育政策への注目

3 これまでの日本語教育における政策研究

4 日本語教育に対する人々の関心と政策的な目的

5 日本語教育政策研究の展望

6 おわりに



第2部 実践編



第7章 海外の日本語教育支援と教師派遣─教師が現地に飛び込む意味(西野藍)

1 はじめに

2 私の歩み

3 タイの日本語教育と日本からの支援

4 複線径路等至性アプローチ(TrajectoryEquifinalityApproach,TEA)

5 海外日本語教育にまつわる教育実践と研究実践の往還とは



第8章 海外の大学における活動ベースの日本語教育─未来を共創する日本語人材育成をめざして(羅曉勤)

1 VUCA時代における海外高等教育機関の日本語教育の可能性とは

2 実践研究について

3 実践結果

4 今後の課題



第9章 難民的背景をもつ人々との日本語活動─安心、安全に学び合える場をともにつくる(松尾慎)

1 はじめに

2 日本における難民の受け入れ

3 難民に対する公的な日本語教育の実情

4 難民的背景をもつ人々に対する日本語教育─VEC日本語活動

5 学び合いの場としての日本語教育の可能性

6 活動におけるコーディネーターの役割

7 事業の継続と拡大、組織の安定化

8 おわりに



第10章 在日外国人の人生・生活に注目した実践─日常生活の中に日本語教室を作る(林貴哉)

1 はじめに

2 エスノグラファーとしての言語学習者

3 実践を行った地域日本語教室の紹介

4 日本語教室のデザイン

5 地域日本語教室における相互文化的な交流

6 人生・生活に寄り添った研究と実践



第11章 外国にルーツをもつ子どもたちへの言語教育─すべての子どもが希望をもって学校に通える社会をめざして(高橋朋子)

1 はじめに

2 小学校でのフィールドワーク

3 外国ルーツの子どもたちをめぐる研究背景

4 おわりに



第12章 共に創る「職場の日本語Can-dostatements」─「コミュニケーションの失敗」のその先にある景色を求めて(大平幸、藤浦五月)

1 はじめに

2 私の大学院生時代、私の0地点─教室で学んだ日本語が使えない

3 私の院生時代─「やりたいことゼロ・教育経験ゼロ」からの手探り

4 実践─「職場の日本語Can-dostatements」の開発とワークショップ

5 ワークショップ─現場からコミュニケーションを創る試み

6 プロジェクトであることの意味─研究と実践のダイアローグ



第13章 多文化共生のまちづくり─国際交流協会、行政、研究の対話から(山野上隆史)

1 今の実践

2 研究との出会い

3 多様な外国人との出会い

4 実践の現場から施策の企画立案の現場へ

5 多様な実践をつないで進めるために

6 コロナ禍における外国人の生活などへの影響に関する調査研究を行って

7 今後に向けて



第14章 多文化間共修と日本語教育の往還─社会を創る協働的な学びのために(藤原智栄美)

1 はじめに

2 多言語・多文化社会としての日本社会が抱える課題─その改善に向かうために

3 多文化間共修が生み出す学びの特徴

4 多文化間共修の学びをデザインする─実践の事例と課題

5 日本語教育を多文化間共修に活かす─知見・実践がもたらす視点

6 空間を超えて拡がる共修─さらに深化する学びの機会の創出へ

7 おわりに



参考文献


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