プロモーション戦略

須永 慶祐



 マーケティングからプロモーションへ

 大学出版におけるマーケティングとは「読者とのコミュニケーション」であるといえよう。大学出版の目的は「研究成果の発表としての学術書の刊行、効果的な教育を援けるすぐれた教科書の刊行、および大学における研究成果の社会への普及をはかる啓蒙書・教養書の刊行」とある。この目的において、読者との接点の探求、読者層の拡大の意味でマーケティングを援用することが可能であろう。
 プロモーション戦略は「マーケティングミックス(マーケティング要素の組合せ)の4P」という基本的なツール(Product(製品)、Price(価格)、Place(流通)、Promotion(プロモーション))を用いたマーケティング活動を支える一要素である。この4Pを戦略的かつ整合的に用いて活動していくことがマーケティング活動である。
 プロモーション戦略は人的販売・販売促進・PR(Public Relations)・広告の4つで構成され、これらを適切に運営していくことが肝要である。プロモーションとはエンドに存在する読者だけでなく、取次・書店等の流通に対しても、ひいては組織構成員をも対象とするものであり、その接点である「媒体」を活用して実施していくものである。

 人的販売

 営業による販売や直接的なコミュニケーションを基に商品を販売することを意味する。直接ユーザーと情報交換を行うためニーズ(顕在要求)やウォンツ(潜在欲求)を把握しやすく、それらに対する提示も行いやすい。人的販売においては、各営業担当の能力差・個人差によって販売業績の優劣や情報の認識に差異が生まれること、人件費等のリスクから積極的な活用は限度があることに注意したい。

 販売促進

 セールスプロモーションと言われることも多く、広義にプロモーションの計画全体を指すこともあるが、ここでは販売促進物の作成やイベントのことを示す。販売促進の対象は購買者、流通、社内というように分類することができる。購買者についてはポスター、DM、PR誌等を活用することが一般的である。これらは広告の領域と重なる部分が多いので、目的を明確にして相互に協力、あるいは差別化して活動することが望まれる。流通に対しては、新刊情報の送付やパンフレットの作成、書店向けポスターやPOPなどの製作により、商品認知・商品理解の促進及び流通とのコミュニケーションの促進を図っていく必要がある。
 社内向け販売促進は、事業規模によって差が出やすい取り組みである。マニュアルや社内報がそのツールとなるが、これらを営業担当者だけではなく、社内スタッフの全員が商品への理解を持ち、意思の統一や販売知識を向上につなげることが目的となる。こういった活動は、コーポレートガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令順守)にも影響を与えるため、企業活動の一環としても積極的に取り組むべきであろう。

 PR(Public Relations)

 PRは、社会的利益という観点から、自社の企業活動が有用であるという情報を提供する活動である。そのため、対象者は読者よりも広く捉える必要がある。PRの対象者を「ステークホルダー(利害関係者)」と呼ぶことがあるが、定義は各社によって異なる。商品案内のパブリシティ(ニュースリリース)や企業広告もPRの分野とされるが、近年ではPR活動はより広い範囲で考えられているため、ステークホルダーに対してのアプローチの方法が問われる。総じて、商品を通じて社会的利益を提供できるのか? という対話の手法がPR活動である。

 広告

 プロモーション戦略の基盤が広告コミュニケーションであり、表現計画(クリエイティブ)と媒体計画(メディア)から構成される。新聞・雑誌・ラジオ・テレビのようなマスメディア広告が理解しやすい。以上の「4マス」にインターネット広告を含めて「5マス」といい、さらにインターネット広告はモバイル広告と併せて「インタラクティブメディア」とされる。一般的な広告手法にはこれ以外にも、交通広告や屋外広告を示すOOH(アウトオブホームメディア)等がある。

 Webサイトの活用

 プロモーション戦略に必要なマーケティングデータの収集には、Webサイトの積極的な活用が最適である。Webサイトは利用者のニーズに対して様々な顔を持つ。書店として、企業情報の提供元として、就職希望先として等々。いずれもコーポレートコミュニケーションの重要な表現の場としてWebサイトは機能する。
 Webサイトでは様々なニーズやウォンツを収集することができる。ページビューやクリック回数という基本的なアクセスに関する情報から、ヤフージャパンやグーグル等の検索ポータルから読者が検索し、Webサイトを訪問するきっかけとなったキーワード、Webサイトに滞在した時間や経路、アクセス元の地域等々の情報も得ることが可能である。これらの収集情報を基に、アーカイヴした実績値の比較など、マーケティングデータの分析が可能となる。

 リサーチ

 プロモーション戦略は、サイクルさせて発展的に行う必要がある。短期的・断続的なデータは信頼性を欠き、分析を鈍らせるため、効果的な施策を生みにくくさせてしまう。Webサイトの運用と併せて、プロモーション戦略の実施の前後にリサーチを行い、評価を加えると、その後の明確な指標として次の活動へ活かすことが出来る。
 リサーチはB to C色の強い商材において利用され、また費用的に高額なイメージと、費用対効果の観点からリサーチの実施は困難であるという判断をされるケースは多い。しかし自社データの評価は、企業活動に不可欠なものである。社内のアンケートやグループインタビューもリサーチの一環である。本格的な調査についても昨今では、インターネットリサーチを用いることで、小規模の設問にも対応し、安価にリサーチを行うことが可能となっている。

 取り組み事例

 筆者は現在、マーケティングミックスからプロモーション戦略の実施まで、トータルプロモーションとしての提案を行っている。大学出版においても、広告目的とターゲットを明確にし、マーケティングデータと到達率の設定をもとにメディアを選定することが重要である。そのためにも、Webサイトの活用やリサーチの実施が必要であると考えている。
 事例として「リスティング広告の継続的な利用」を紹介する。リスティング広告(検索連動型広告)とは、ヤフージャパンやグーグル等の検索エンジンポータルにおいて、ユーザーが検索を行った検索結果の表示画面に広告を出稿するものである。これにより、いつ・どこから・どのようなキーワード・広告文から顧客が訪れたかというマーケティングデータが蓄積される。さらに書籍を購入した場合には、その読者がどういった経路で購入に至ったかを分析・アーカイヴできる。この継続的な運用により、月別や前年同月等のデータとの比較や、他のプロモーション(新聞媒体等)との連動効果の測定も可能となる。
 提案の理由としては、まずマーケティングデータをプロモーション戦略に具体的に活用していくスキームを確立できるということ、インターネットの特性であるデータの取得・保存・比較が容易であることが挙げられる。
 こうしたリスティング広告による施策を行う際には、それに対応したWebサイトであることが求められる。リスティング広告を出稿しても成果指標が出し難いWebサイト構造であったり、アクセス解析が機能していなかったり等の問題がWebサイトに発生すると、収集するデータの精度が鈍る結果を及ぼしてしまう。
 これに対してとうこう・あいでは、『HONDANA』という出版社専用のWebサイトシステムを提供し、効果的なWebサイト運営の一助となるよう努めている。前述のリスティング広告を効果的に運用する構造に加え、出版に特化したWebサイトシステムのため、出版社のWebサイトに求められる機能を多数搭載している。例えば、一書籍一ページの自動生成、検索エンジンで検索されやすいページの生成(SEO対策)、類書の提示、書籍検索等。運営についても管理方法や書誌情報入力が簡便で、取次への新刊案内書誌データの送信が行える。そのため、更新作業の再編から業務の効率化や作業分担が期待できる。

 総論

 大学出版にはB to B、B to C両方の側面があり、また出版物の数だけ個別のターゲットが存在する。そのため、マーケティングデータを基にターゲットを設定してプロモーションを行い、その結果を次回に反映させていくといったプロセスにまで手が回らないというのは正直な所だろう。しかし経験則やプロモーション会議においても同様のプロセスを踏んでいるに違いないので、それをより共有・整理しやすくするものがマーケティングの役割と考えればよいだろう。
 プロモーション戦略を明確にして実施していけば、大学出版という専門性は、ロングテール理論の考えからプラスに作用する。その優位性とマーケティングによる顧客分析・顧客対応のデータといった情報の集積が、ブランディングが困難である思われる大学出版の重要な要素となり、顧客の拡大と将来的な成長の礎となる。
 そのためには各大学出版がそれぞれの特性を最大限に活かし、マーケティング活動を行い、最適なプロモーション戦略を実施していくことが求められる。
((株)とうこう・あい営業開発部)

(参考資料)
大学出版部協会 http://www.ajup-net.com/
『広告ビジネス入門』社団法人日本広告業協会



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