初版本、ナンセンスなフェティシズム

ほぼ日刊イトイ新聞/糸井重里発行
『金の言いまつがい』


酒井道夫



 私はこの本の初版を所有し損ねている。残念ながら「第2刷」なのである。「2006年12月31日 第1刷発行、2006年12月31日午後 第2刷発行」。ちなみに『銀の言いまつがい』の方は、「2007年1月1日 第1刷発行」。大晦日の31日を発行日とするような慣行があるのかどうか、またその日の午後に第2刷発行なんて、そんなのってあり?
 この2冊のアートディレクションを担当しているのが祖父江慎氏だから、彼一流のジョークなのかもしれないけど、その真相は? 本作りの現場に不案内なくせに、やたら変型にしたり用紙や印刷に凝る不遜なデザインを私は好まないのだが、祖父江慎氏の手にかかれば話は違う。この2冊を並べると『銀の言いまつがい』の背が前につんのめっている。ここまでやるか!? 愛のないデザインは陰惨だが、愛があれば何でもあり。
 「大好きっ! もっとやって! もっとやって!」
 彼の「まつがい」仕事では、これに先行して『伝染るんです。(1)−(5)』(吉田戦車著、小学館、1990-94)の装丁がある。このシリーズの存在に気づいたのは、刊行開始後、すでに相当時が経ってからだった。慌てて買い集めてはみたものの、どうしても第(4)巻だけが入手できずほとんど諦めていたら、吉祥寺駅付近ガード横の小さい書店で、1冊だけ店晒し状態で遭遇! カラー印刷の腰巻き付きで、そこに俳優・高嶋政宏氏がニッコリと笑みを浮かべて待っていた。だから言うのだけど、この本は全巻揃いでなくては意味がない。それも1冊でも帯を失っていたら価値がない。ただ、全巻にわたって落丁乱丁裁断ミス印刷ミスの満艦飾。素人にも判る「まつがい」だけでなく、相当な専門家でも見落とすほどのかなり深い楽屋オチまで数えたら、一体どれたけの「まつがい」が盛り込まれているのか分からない。
 『金の言いまつがい』に「第1刷」は存在するのか?
 はたまた、今後「まつがい」本の第3弾はあるのか?
(武蔵野美術大学)



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