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北海道大学総合博物館

持田 誠



 北海道大学総合博物館は、大学のメインストリートに面した旧理学部本館を利用して、1999年に発足した。ロマネスク様式やゴシック様式を加味した欧風の堂々たる外観を呈する本館は1929年(昭和4年)の建造で、北海道大学で初めての本格的な大型鉄筋コンクリート建築物である。総合博物館は、本館正面から南翼一帯を主体とした3階建てで、まだまだ手狭なスペースながら、膨大な学術標本・資料群の収蔵と、これらを用いた研究・高等教育、それに展示や普及活動が活発に行われている。
 正面玄関から中央階段を上ると、アインシュタインドームと呼ばれる吹き抜けのドーム空間がある。最上階のドーム壁面には、果物(朝)、ヒマワリ(昼)、コウモリと一番星(夕方)、フクロウ(夜)を描いた円形の陶版レリーフがはめ込まれており、昼夜の別無く学問研究に励めという想いが込められている。
 展示室は3つの大テーマに沿って構成されている。北大歴史展示と学術テーマ展示、学術資料展示である。北大歴史展示には、北大の前身である札幌農学校に関する文書や当時の学生のノートなど、建学の精神の礎となるさまざま資料が展示されている。中でも「実学の精神」コーナーには、ウサギの耳へのコールタール塗布によって作出された世界初の人口癌標本(市川厚一・獣医学)を始め、通底する農学校精神がいかに華開いて来たか、その歩みが巧みに紹介されている。
 学術テーマ展示は、北大における膨大な研究テーマからいくつかを紹介しているものである。特に興味深いのは2階の「サスティナブル・キャンパス」で、連綿と受け継がれ、発展して来た標本や器具、それに校舎の設計図面や復元模型などが所狭しと並べられ、知を生み出す母体となった多くの資料を目にしながら、研究の歩みを知ることができる。また、「ミュージアム・ラボ」として考古学の研究室と収蔵庫が公開されており、オホーツク文化研究の成果と合わせ、大学の研究室や標本庫の内部の様子を、まさに生きた状態で目にすることができる。
 学術資料展示は博物館の中核をなす展示であり、地質鉱物・化石・獣医骨格・昆虫・植物などの自然史標本が整然と展示・解説されている。3階には、長尾巧によって1933年(昭和8年)に南樺太から発掘された1400万年ほど前の大型水生哺乳類デスモスチルスの全身骨格があり、当時の発掘映像や記録写真なども残されている。また、北海道には多くの火山や鉱山が存在し北大のフィールドとなっているが、研究で収集された鉱物・原石なども多数展示されている。獣医骨格標本の展示室は、獣医学部の学生たちの手によって作られた労作だ。
 北海道大学には400万点を超す学術標本があり、その中には約1万1000点のタイプ(模式)標本が含まれている。北大は札幌農学校時代の1896年(明治29年)、松村松年によって我が国最初の昆虫学教室を設置した。以来、蓄積された昆虫標本は200万点を超え、今日も世界各国から問い合わせが絶えない。一方、1903年(明治36年)に宮部金吾により植物学教室が発足して以来、陸上植物標本庫には千島・樺太産植物を含む約35万点の●(月+昔)葉標本群が、藻類標本庫には約14万点とアジア随一の海藻標本コレクションが構築されている。このほかにも、標本に基づく分類学を重視した学風が農学校以来の北大における伝統であり、全国的に分類学が衰退の傾向にある中でも、基礎学問の研究教育が脈々と続けられてきた。総合博物館では、これらの貴重な学術標本を整理・登録し、データベースを公開するなどして、世界中からの研究利用に供している。
 一方で、こうした学術標本の多くが未整理の状態にあることも事実である。標本の整理作業は、博物館の専任教員だけでなく、代々の臨時職員や学生たち、博物館ボランティアなどの多くの人々の努力によって、地道に進められている。展示は総合博物館の顔であり、研究がその基礎となる。しかし、その根底にはさらに標本・資料の収蔵と整理という土台がある。その土台を支えるために、無名の多くの人々による絶えない労苦がある。
(北海道大学出版会)

所在地  〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
開館時間 10:00〜16:00
     (但し6〜10月は9:30〜16:30)
休館日  月曜日(月曜日が祝日の場合は連休明けの平日が休館)、
     年末年始
     この他、大学行事で臨時開館や臨時休館の場合があります。
電 話  011-706-2658
FAX  011-706-4029
URL  http://www.museum.hokudai.ac.jp/



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