第7回
ヴィリニュス・ブックフェア
&バルチック・ブックフェア報告


依田 浩司



 出版文化国際交流会の要請で、2月23日(木)〜26日(日)の4日間にリトアニアで開催された第7回ヴィリニュス・ブックフェア&バルチック・ブックフェアに派遣専門家として参加してきました。リトアニアはバルト三国の一つで、面積は6万5300平方キロメートル(北海道の約8割の広さ)、人口は約343万人(横浜市の人口とほぼ同じ位)。首都はヴィリニュス(Vilnius)。第二次世界大戦中にヨーロッパからアメリカに逃れるユダヤ人に、日本通過のビザを発給した杉原千畝が日本領事館領事代理として赴任していた国でもあります。

 ヴィリニュス・ブックフェアとバルチック・ブックフェア

 ヴィリニュス・ブックフェアは今年で7回目の開催となります。会場はヴィリニュス郊外にあるLITEXPO(Lithuanian Exhibition Centre)です。ヴィリニュス市内から車で10分くらいのところにあり、各ホールの大きさは東京国際ブックフェアが開催されている東京ビッグサイトの半分くらいの大きさでした。主催者はLITEXPOとLithuanian Associciation of Publishers and public organisaitionです。出展社数は375社で、4日間で55200人の来場者でした。
 会場では国内の出版社や書店が販売ブースを出展しています。そこでは、10%ほどの割引販売をしており、書籍を安く購入できることを目当てに来場する人も多く見られました。また、中学生や高校生が社会科見学の一環で来場する姿も見られました。
 バルチック・ブックフェアはバルト三国が持ち回りで開催しているブックフェアで、今年はリトアニアの担当です。バルチック・ブックフェア開催年は海外からの参加国が増えるそうで、昨年7カ国だった参加国は、今年はリトアニア・ラトヴィア・ドイツ・ポーランド・ベラルーシ・日本・ロシア・スロヴァキア・オーストリア・スウェーデン・イスラエルの11カ国でした。各日にテーマが設定されており(括弧内がその日のテーマです)、開場時間は1日目(DAY OF LIBRARIES)と3日目(EXTRAORDINARY MEETING)が10時から19時、2日目(LONG FRIDAY)が10時から21時、4日目(FAMILY DAY)が10時から17時でした。特に忙しいと感じたのは、2日目と3日目で、3日目が忙しいのは日本の東京国際ブックフェアと似ています。

 前日設営

 2月22日午前10時に日本大使館を訪ね、大床泰司臨時代理大使と担当の瀬戸はるかさんに挨拶をしました。大使からは「今回の事業は、文化交流の一環で大変期待している。寄贈先の希望があったら教えてほしい」と言われましたので、「学術書は大学図書館へ、児童書やコミックは子どもが集まる図書館へ寄贈していただきたい」とお願いしました。
 大使に挨拶後、ブックフェアのアテンダントをお願いしているヴィオレタ・デヴェナイテさん、アグネ・ステポナヴィチューテさんを紹介されました。ヴィオレタ・デヴェナイテさんはヴィリニュス大学で数学の修士号を取得して、早稲田大学に学部と修士課程(日本語学)の2回の留学経験があります。現在、ヴィリニュス大学で日本語を教えています。アグネ・ステポナヴィチューテさんは宮崎大学へ1年間留学経験があり、昨年の愛知万博のリトアニア館でアテンダントを務めた経験があります。
 打ち合わせ後、ブックフェア会場のLITEXPOへ移動して設営に取りかかりました。日本からのダンボール14箱約550冊の書籍と、日本大使館が現地で購入した日本に関する書籍30冊を日本ブースに展示しました。日本ブースはアルファベットの「J」の字を逆さにしたような構成で、「日本語」「学術書」「日本文学」「日本文化」「現地で購入可能な書籍」「折り紙」「児童書」「コミック」の8つのコーナーを作成しました。

 会期中の仕事

 22日の10時より展示ホール2階のイベントホールで開会式がおこなわれました。まずブラザオスカス大統領が「リトアニアでは読書人口が減少していると言われているが、読書量がその国の発展に寄与していると思う。図書館の予算減少問題を解決したい」という挨拶をおこないました。続いてプルディニコヴァス文部大臣が「今年は11カ国より参加があり、遠く日本からも参加してくれて感謝している」と日本からの参加を評価してくれました。文部大臣の挨拶の後、大統領と文部大臣が子どもを交えてテープカットをおこない、開会式は和やかに終了しました。
 日本ブースには開会式終了後からたくさんの人が訪れてくれました。日本に観光で来たことがある初老の男性や、国際交流基金の図書寄贈プログラムによって書籍が寄贈されたゲデュミノ工科大学附属図書館の副館長がブースを訪れて、楽しそうに展示書籍を閲覧していきました。
 1日目の終了後、ヴィリニュス旧市街のゲディミナス城横にある工芸博物館で開会記念パーティーがおこなわれ、大使と出席しました。博物館のなかで立食パーティーをおこなうという発想には驚きましたが、展示品を見ながら談笑できるというのはなかなか凝った趣向だと感じました。
 会期中の主な仕事は展示した書籍の閲覧や、また書籍の翻訳希望者への出版社やエージェントの紹介、購入希望者へのインターネットを利用した購入方法の紹介、あとは折り紙の実演をおこないました。来場者の一番の希望は「展示書籍を買いたい」というものでした。展示書籍は会期終了後に大使館へ一旦納められて、そこから各地の図書館や学校に寄贈されることになっており、来場者に販売することはできません。「販売できません、見るだけです」と答えたときの残念そうな顔は今でも印象に残っています。東京大学出版会の本で人気があったのは『日本美術の歴史』『江戸の動物画』『A History of Showa Japan』などです。「バブル経済についての研究書を見たい」「セラミック工学についての書籍はないのか」などと、専門的な質問も受けました。宮崎駿のアニメ映画のフィルムブックを熱心に読んでいく男性や、楽しそうに鶴を折っていく親子連れなどでブースは終日賑わいました。
 折り紙の折り方の本は老若男女に人気がありました。折り紙は鶴が一番の人気で、折り紙の実演をやっていると、見物の人だかりができました。若年層はマンガやアニメの本に、中高年層は日本文化や庭園、木造建築の本に興味を持っていました。現地で「ポケットモンスター」や「ドラゴンボール」のTVアニメや、宮崎駿のアニメ映画が放映されているからでしょうか。庭園は龍安寺の石庭や、バルコニーの木造建築の写真集に人気がありました。
 現地の出版社や書店のブースでは作家がサイン会やトークショー等をおこなっており、サインをもらうのを楽しみにしている来場者が多く見られました。

 リトアニアの出版事情

 日本文学で有名なものはある程度、リトアニア語に翻訳されています。三島由紀夫や村上春樹、鈴木光司の翻訳作品がブックフェア会場の書店ブースや市内の書店で販売されていました。
 学術出版では、ヴィリニュス大学出版部やヴィリニュス教育大学出版部といった大学出版部も活動しており、教科書や学術書の刊行をおこなっています。教科書の装丁は地味なものが多く、学術書の初版部数はかなり少ない模様です。書店の規模は、日本の駅前にあるような個人経営の書店の規模でした。ヴィリニュス大学内の書店もそれほど大きくありませんが、在庫量は多かったです。棚卸中で棚をじっくり見ることはできませんでしたが、三島由紀夫や村上春樹の翻訳本が並んでいました。

 終わりに

 前日設営から数えるとまる5日間、朝から晩まで働き通しで大変でしたが、日本から遠く離れた北欧で、熱心に日本の書籍を食い入るように見る人たちを見て、本に携わる仕事に就いていて良かったと、リトアニアまで来て良かったと、つくづくと感じました。東京国際ブックフェアの「大学出版部協会」のブースの設営や管理の仕事をおこなった経験が非常に生きたと思います。一出版社としての営業ではなく、「日本」や「日本の出版社」の営業を担うことができたというのは、またとない経験でした。今回参加した経験をこれからの営業活動や大学出版部の活動に生かしていきたいと考えています。アテンダントの2人も、来場者からのひっきりなしの問い合わせの応対で大変だったようですが、流暢な日本語と機転でずいぶん助けられました。リトアニア大使館の方々や、国際交流基金、出版文化国際交流会のみなさんにこの場を借りてお礼を申し上げたいと思います。
(東京大学出版会販売部)



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