農村発の情報をもっと豊かに
10年目を迎えた『ルーラル電子図書館』


小林 誠



 私たち、社団法人農山漁村文化協会(農文協)は、農と食・健康・教育を軸に、自然と人間が調和した社会形成をめざして、総合的な活動を展開する文化団体です。今年で創立65周年を迎えます。
 1996年からインターネット上に『ルーラル電子図書館』(http://lib.ruralnet.or.jp/)をオープンし、同じ年にCD-ROMの発行も開始しました。以来、電子出版には積極的に取り組んでいます。当初はCD-ROMを中心にユーザを増やしてきましたが、最近は新規ユーザといえばもっぱらといっていいぐらい、『ルーラル電子図書館』の会員が増えてきています。
 『ルーラル電子図書館』のコンテンツをはじめとする概要は、別表のとおりです。


『ルーラル電子図書館』(http://lib.ruralnet.or.jp/)

■収録コンテンツ(2005年4月現在)
『現代農業』
 農家向け総合月刊誌。農業技術はもとより、食生活、健康、生活全般の技術、販売・経営、地域づくりのための情報を、農家の実践を中心に提供。1985年以降の全記事を収録。記事数約27,000。
『農業技術大系』
 作物、野菜、花卉、果樹、畜産、そして全てに共通の基盤となる土壌施肥という6編63分冊の全てを収録。現場の事象を読み解き基本技術を裏付ける基礎科学・基本技術と農家事例からなる。1,500作物・家畜を網羅。農家事例は約2,600。記事数約12,000。
『病害虫の診断と防除』
 的確な診断と確実な防除法、減農薬情報までを完備した農作物の防除に関する総合情報、全27巻を収録。約350品目、3,000種の病害虫、雑草140種。記事数約6,000。
『日本の食生活全集』
 全国300地域、5,000人の話者より、大正末期から昭和初期まで、戦争による混乱、戦後の洋風化を経る以前の食生活を聞き取り。47都道府県とアイヌの食事。各県内を風土、生業の違いから、いくつかの食文化圏に分けて構成し、四季折々、朝昼晩の献立と、珍しい晴れ食・行事食を記録。記事数約21,000。
『食品加工総覧』
 各地の試験研究機関や食品企業で進む素材開発や新商品開発、安全・安心で経費のかからない加工技術の研究、さまざまな加工販売事例など、食品加工をめぐる動きをとらえた食品づくりの大百科。記事数約1,500。
『ふるさと学習・食農教育』
 隔月刊『食農教育』をはじめとして、遊びや観察・実験、調理・加工に関する単行本の記事などを収録。記事数約4,000。

■料金 年間24,000円(2,000ページまで。超過分については1ページあたり10円)


 ごらんのとおり、農業関係が中心となっていますが、食生活や環境、教育の分野へも広がりをもった、「自然と人間が調和した社会づくりのための総合的な情報センター」として構築され、拡充が行われています。

 「農業の情報」とは……

 農業は農作物や家畜が相手、つまり自然が相手の仕事です。ということは、いつでもどこでも同じ条件下にあるような生産はあり得ません。同じ農家の田畑でも、場所によって土壌や日当たり、水はけ等々、同じ条件ではありません。
 農家にしても、年齢や性別が異なれば体力もさまざま。第一、やりたいことがちがうのですから、同じ気象条件にあっても、どんな手を打つのかはちがってきます。たとえば、作物に病気や害虫による被害の恐れが出たときでも、様々な対応が考えられます。全国一律の普遍的な技術、普遍的な対策というようなものがないのが農業です。農業技術は常に農家の個性とともにあり、したがって様々な情報が必要とされるのです。
 『現代農業』をはじめとした電子図書館に収められたコンテンツは、そうした要請に応える、農家の発想で書かれた記事がその多くを占めています。
 また、現代の農業は、品種、肥料、農薬、機械など、さまざまな資材活用の上に成り立っており、自然を相手にするといっても、それらを的確に使いこなしていかなくては安定的な生産は望めません。さらに最近は「安全・安心」「環境保全型農業」に関しての情報も様々に行き交っており、それらの日々新たに生成される情報に対して常にアンテナを張っていくことも要請されています。現代の農業では他の産業に劣らず、情報に対する姿勢が経営を大きく左右するのです。このデータベースは新しい記事によって日々メインテナンスがされているので、最新の情報が得られます。
 一方、最新情報とともに、過去の情報もたいへん貴重であるというのが、農業情報の特徴です。何年に一度という異常気象や災害に関しての記事はもとより、生きものである作物や家畜の本性は、数年で変わるようなものではありません。このごろでは、古い品種の復活や、伝統農法の見直しも盛んにされるようになってきました。そういう意味で、20年前からの記事を網羅しているということは、たいへん大きな強みです。

 電子出版で高まる魅力

 厖大な数の記事の中から、目的の記事を即座に読むことができる。検索こそデータベースの活用の最大の醍醐味です。
 しかも前述のように、農家の個性と関わる情報ということになると、検索のしかたも辞書のような単純な引き方ではなく、全文検索やいくつかの条件を組み合わせての複合検索が必須です。
 検索のキーワードが的確でないと、最適な記事が得られないこともありますが、その点では、熱心な読者ほど、適切なキーワードが浮かんでくるということがあります。
 そして、ひとつの検索結果に触発されて、さらに新しいキーワードを思いつくということもよくあります。たとえば、「米ヌカ除草」(米ヌカの除草効果に着眼した技術で、減農薬・無農薬栽培ではとても高い関心を呼んでいる)の記事を読めば、米ヌカそのものの成分なども気になります。そこで「米ヌカ」をキーワードにして検索すると、それを使った堆肥をはじめたくさんの記事がでてきますが、中には、健康にいい米ヌカの食べ方の記事もあって、それが家族の話題になったりもする。このように検索によって、新たな発見が得られます。
 とくに生産と生活が切り離せない農家の情報では、常にそういうことが起こります。生産の場面でも、生活の場面でも使えるキーワードが、農業ではどこにでもころがっているのです。
 農業に関わる情報は、電子化され、データベース化されることによって、その価値が飛躍的に高まるのです。

 自ら情報を編集し発信するユーザも

 先に、農業の情報の多様さに触れましたが、それは、ユーザが情報を自ら編集するということにもつながります。多くのユーザは、閲覧した記事を印刷し、テーマ毎にまとめて、いつでもどこでも読めるようにしています。あるいは同じパソコンで資料を作成し、記事をスクラップしています。つまり、自分に必要な情報を編集して、自分のための「本」を作っているのです。
 また、最近は農家が自分の生産物を直売所やインターネットで、直接消費者に販売するというケースが増えてきていますが、そんなときに役立てる人も出てきています。消費者に対しての情報発信がますます重要になってきている現在、データベースを活用しようという機運が少しずつ出てきているようにも思われます。
 さらに、この6月からは、自治体や農協などの団体ユーザに対して、電子図書館をベースとした独自な情報発信を進めていただけるような新たなサービスも始まります。
 これは、団体独自のURLやロゴとともに、地元に密着した情報を発信していただこうというもので、テキストや画像を組み合わせたページを、ワープロ感覚で誰にでも簡単に作成できるツールも合わせてご提供します。作成するページから特定の記事へのリンクを設定したり、検索を実行したりすることで、情報発信のレベルアップを図ることが可能となっています。
 というわけで、一見、IT技術とは距離のありそうな現場ですが、私たちは、農業・農村こそ電子出版がもっとも活躍できる場なのではないかと考えています。
 最近は「食育」や「定年帰農」という言葉が出てきたように、これまでになく食べものや農業・農村への関心が高まっており、それに伴って会員の幅も少しずつ広がってきています。
 今後、農村発の情報が、都市住民にとってもますます大切になっていくものと思われますが、そうした課題に応えるべく、この電子図書館の充実を図っていく所存です。
 最後に本誌との関連で、大学での利用について触れておきます。現在、東京農業大学と帯広畜産大学では、キャンパス内のネットワークに接続されている端末からであれば、認証なしで閲覧ができるようになっています。いわゆる学術文献ではなく、実際の現場で読む記事がオンラインで使える貴重なデータベースということから、その他の大学でも、導入を検討しているところが増えています。
(社団法人農山漁村文化協会 地域形成センター・電子編集部)



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