変化のなかの大学出版部

山口 雅己



 2005年4月の定時総会・幹事会を経て、日本大学出版部協会第8代目の幹事長に就任の運びとなった。新米幹事長としてご挨拶申しあげるとともに、協会活動あるいは大学出版部の今後について、考えるところを申し述べたい。

 協会の現状と法人化の実現

 結成以来42年、本協会の目的あるいは現在にいたる足跡は、多くの人びとにより語り継がれてきた。これについて繰り返すことはしないが、最新の(かつ残念な)報告として、放送大学教育振興会が2005年3月末をもって退会し、加盟出版部数が28となったことをお伝えしなくてはならない。一方で、弘前大学出版部を中心に、本協会の兄弟組織的な意味合いをもつ「大学出版連絡会議」を組織しよう、との動きもあるし、個々の大学に出版部をつくりたい、あるいは大学出版部を立ちあげたので、協会に加盟したい、というご相談もいくつか寄せられている。
 また、「大学出版」第64号に掲載された前幹事長・渡邊勲氏の「近未来の実現可能な構想」の追記にある臨時総会での決議に加え、本協会を有限責任中間法人化する構想は冒頭に示した定時総会において最終的に承認され、2005年7月1日の登記実現を目指し、具体的な作業が進行中である。28の加盟出版部すべてが、有限責任中間法人の「設立時社員」となることを快諾くださったことに感謝したい。なお、法人化後の新名称は「有限責任中間法人 大学出版部協会」となることを付記しておきたい。

 大学出版部の価値

 大学出版活動が今後どう変化していくか、以下で考察するが、別の機会に発表したことと一部重複することを、あらかじめお断りする。
 まず、その設立の動機あるいは目的を鑑みれば、大学出版部は(一般的に)利潤を求めるものではないと言える。ただし、これは大学出版部が出版事業によっていくらでも欠損を出してよい、という意味では決してない。財団法人、学校法人、任意団体等の場合、利潤を出す必要はないにしても、すくなくとも財政的に自立し、おもに書籍の販売収入によって組織を「存続」させることが求められている。では、大学出版部と「商業出版社」との違いは何か。
 アメリカ大学出版部協会(AAUP)のウェブサイトに「大学出版部の価値」なる一文が掲載されている。同協会のレジエ前会長の諮問に対する、アーマト(現会長、ミネソタUP)、コーン(カンサスUP)、ショット(デュークUP)3名が連名で寄せた回答と思しきものである。本文はあまり長くはないが、付録として「大学出版部と社会」、「大学出版部と学問」、「大学コミュニティのなかの大学出版部」の3つのパートに24の提言がまとめられている。
 紙幅の関係で詳細は省略するが、「大学出版部と社会」ならびに「大学出版部と学問」に9つずつまとめられた提言は、アメリカにおいてはともかく、日本における大学出版部の役割と、学術書・専門書を出版する「商業出版社」の役割との違いを決定づけるものではない。敢えてひとつ挙げるとすれば、「若手研究者が初めて執筆する学術書の出版を(制度として)奨励する」ぐらいではないだろうか。

 大学の変化と大学出版部

 大学出版部と「商業出版社」の違いは、つまるところ、「母体大学との結びつき」に収斂する。そして、わが国の大学をとりまく環境が、ここ数年にわたり激しい変化にさらされていることは言を待たない。
 とくに少子化による学生数の減少は、国公私立の区別なく、大学の生存競争に拍車をかけている。一部の大学で導入されているAO入試は、学生数の確保には有効であろうが、入学試験手数料収入に影響を与えかねない。
 これらの財務的な問題とは別に、一部の大学では、既存の出版チャネルを介さない情報発信システムの開発が進められている。新聞でも報道されたが、東京大学・京都大学・大阪大学・早稲田大学・慶応義塾大学・東京工業大学が連携して、それぞれの授業科目の講義ノートや教材などを、ネット上で無償で公開するプロジェクト(オープンコースウェア)がこの6月より開始された。こういった大学の変化・新しい動きに対し、大学出版部は何をなすべきであろうか。
 アーマトらによる前述の提言の23番目を以下に紹介し、この一文を終えることにしよう。「大学出版部のスタッフは、知的財産、学術コミュニケーション、および出版のプロセスについての指針を与えることにより、教職員や学校法人の運営者のために、学内の専門家としての役割を果たす。」
(日本大学出版部協会幹事長・東京大学出版会専務理事)



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