部会だより(電子部会)

 学術情報の電子化

 21世紀の学術コミュニケーションのメディアといえば、電子化された情報ということは間違いない。事実、世界の動向は、学術ジャーナルでは電子化に向かって急速に進んでいる。日本でもSTM分野の学会が発行している電子学術ジャーナルがJ-Stageに150誌ほど載っている。国立情報学研究所による各大学の「紀要」の電子化も進められている。しかし、世界でも日本でも、「学術書」の電子化のモデルはまだ確立していない。
 電子部会は、学術コミュニケーションの動向を調査しながら、これからの学術書のあり方を、電子化の技術的な側面、デジタル著作権問題などを実際に即して研究していこうとしている。2004年の11月には、電子書籍を発行しているパピレス、図書館にデータベースを提供している農文協、大学出版部として唯一、電子書籍を発行している東海大学出版会のそれぞれのケーススタディをした。
 それぞれまだ学術書のビジネスモデルを模索している段階であるが、学術情報が電子化に向かわざるを得ない方向性は確認された。




 関西支部だより

 大阪大学附属図書館所蔵 懐徳堂文庫――関西の文庫 2

 懐徳堂とは、大阪の町人によってその子弟の教育のために1724年に設立された学校である。中井竹山や五井蘭州らが師となり、主として漢学を教えた。門下生では富永仲基、山片蟠桃らがよく知られ、『出定後語』や『夢の代』は今も紹介されることが多い。幕末期に一時閉鎖されたが、再建され1945年の大阪大空襲によって学舎が焼失するまで続いた。教科書や著書などすべての書物(懐徳堂文庫)を納める蔵は焼失を免れたので、戦後、蔵書は大阪大学に寄贈され、文学部が中心となり、会員組織により講座などの活動も受け継がれて、240年後の現在まで続いている。大阪大学の源流の一つとされるゆえんである。
 文庫の蔵書は3万6000冊とされるが、その中には書籍をはじめとして江戸から明治、そして現在まで経営されてきた活動の記録史料も含まれているところにこの文庫の価値があると私は考えている。官学として幕府に認可された隆盛の時があり、また財政難や閉鎖の危機など、その波乱に満ちた歴史の中に、現在の大学経営が学ぶべきものがあるのではないだろうか。
 この文庫の蔵書目録は早くに完備し閲覧体制も整っていたが、これまで研究者や学生、大学管理者も十分にこれを活かしてきたとはいえない。近年、より利用を促進するためにこの文庫の案内書と言えるものが何種か作られ、さらにデジタル面からのアクセスもできるように熱心に作業が進められているのが注目される。
 大阪大学にはもう一つ、理科系の源流といわれる適塾(蘭医学塾)がある。こちらの方は、幸いなことに建物は戦災を免れたが、蔵書は残っておらず、その後、先生であった緒方家からの寄贈や1000人を越えるという門下生の子孫からの史料寄贈が今も相次いでいる。そのためまだ目録は作成の途中であるが、いずれはこれらの史料を利用できるような手段が講じられることだろう。
大西 愛(大阪大学出版会)




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