歩く・見る・聞く――知のネットワーク30

国際子ども図書館

松崎真理



 平成14年5月、国立国会図書館の支部として「国際子ども図書館」が開館した。わが国初の国立の児童書専門図書館の誕生である。上野の森の奥、公園の喧噪も届かなくなるあたりにたたずむその建物は、明治39年に日本初の国立図書館として創建されたもの。ルネサンス様式の代表的な明治期洋風建築として、東京都選定歴史的建造物に指定されている。
 煉瓦造りの重厚な洋館の、左方に突き出たガラスボックスがエントランスである。このガラスボックスは、建物の裏手中庭側にも壁面をすっぽり覆うように設置されていて、光がたっぷりと差し込むラウンジとなっている。元は外壁だった部分を今は内壁として身近に見ることができ、なかなか興味深い。この図書館の魅力の一つは、当時の建物を最大限に保存して利用しているところだろう。漆喰の内壁、柱や天井の装飾、そしてシャンデリア。雰囲気がありとても美しい。
 ひとしきり建物を堪能したところで、いざ閲覧室へ。まずは1階の「子どものへや」へ向かう。入り口から部屋をのぞくと、ゆるやかにカーブした書架が目に入る。部屋の中央に丸いベンチがあって、それを囲むように円形に書架が配置されているのだ。その書架の外側には、歴史・くらし・宇宙・生き物・環境・スポーツなどの図鑑や読み物が並び、内側には絵本や物語が並んでいる。円形のためぐるりと見渡せるし、とぎれることなく次々と本をたどっていける。そして何より堅苦しさを感じないのがいい。カウンターで尋ねてみると、この部屋の本は、子どもたちに自由に手にとってもらうために、納本制度で収集した本とは別に新たに購入したそうだ。長く読み継がれてきたスタンダードなものや情報の新しいものを中心に集められ、その数は約8000冊という。久しぶりに子どもの本に囲まれてみると、なつかしく楽しい気分になる。それはおそらく私がファミコン世代とはいえ、ゲームの前にまず本に親しんできた経験があるからだろう。子どもの読書離れが言われて久しいが、テレビもゲームも携帯電話も当たり前になった今では、本は数ある選択肢の一つでしかないのかもしれない。しかし、ベンチに座り思い思いの姿勢で本の世界に没頭している子どもたちの姿を見ると、きっかけさえあれば本の魅力自体は変わることなく受け継がれていくと感じる。この部屋の隣の「おはなしのへや」では、子どものための絵本の読み聞かせやおはなし会が毎週土曜日曜に開催されているという。たくさんの本に触れたりおはなしを聞くことで、子どもたちにその楽しみが伝わるといい。
 エントランス横の吹き抜けを、大階段でぐるりと上ると、2階は調査研究のための資料室。国立国会図書館と同様、18歳以上が利用対象となっている。所蔵する国内外の児童書や関連資料、図書約20万冊、逐次刊行物約1600誌などのうち、過去2年分が開架されていて、それ以前の資料は書庫に保管されている。これらの資料に加え、児童書を扱う他の国内主要機関の蔵書があわせてデータベース化されていて、その30万冊を超える資料を「児童書総合目録」によって検索し、閲覧・複写のサービスを受けることができる。この児童書総合目録は、電子図書館サービスとして上記URLからもアクセス可能だ。
 3階には、子どもの本や文化に関する展示が行われる「本のミュージアム」と、パソコンで世界の絵本などを閲覧できる「メディアふれあいコーナー」。ヘッドフォンをつけパソコンをいじる子どもたちは、なにやら楽しげでほほえましい。
 技術の進歩とともに、「本」は紙だけでなくデジタルデータという形もとるようになったが、私たちの知的欲求を満たし、楽しみを与えるその魅力は変わらない。図書館とは、あらゆる媒体による資料を収集・保存することによって、後世へ知を継承していくためにある。新旧の建築意匠を備えたこの図書館で、かつて自分が手にしてきた本を同じように夢中で読み、新たなメディアを楽しんでいる子どもたちの姿に、確かに続く未来が見えたような気がした。
(東京電機大学出版局)

所在地  〒110-0007 東京都台東区上野公園12-49
開館時間 9:30〜17:00
休館日  月曜日、5月5日を除く国民の休日・祝日
     年末年始、資料整理休館日
休室日  2F「第一・第二資料室」:日曜日
     3F「本のミュージアム」:展示会準備期間
電 話  03-3827-2053(代表)
     03-3827-2069(録音テープによる案内)
FAX  03-3827-2043
URL  http://www.kodomo.go.jp/



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