デジタル出版最前線[2]

編集者がパソコンを扱うのは…


■ 今年の東京国際ブックフェアは、個人的にかなり楽しく見学することができた。バーゲン本が知れ渡ってきたのか、児童書を中心に親子連れも目立った。またネットの普及を受けて、早くも教科書出版社がeラーニング用教材作成を手がけていたことも注目しておきたい。
■(不労平)氏同様、新聞記事を読んでいたので、未來社のブースにも忘れずに立ち寄った。『出版のためのテキスト実践技法[執筆編]』の著者である西谷社長自ら販売中であり、かなりの人だかりである。期間中で700冊が売れたという。この本は、書名が示すようにコンピュータを用いた効率的な執筆について書かれている。入力されたFD原稿を取り扱う技法については、続刊が予定されている[編集編]で取り扱うという。
■ 学術専門書を扱う編集者諸氏にぜひ読んでいただきたいと思うのだが、朝日新聞記事の見出しにある「パソコンで編集費削減」は、一面的過ぎるとらえ方である。著者が強調しているのは、執筆者がもっと用字用語に意識的になり、印刷所で処理しやすいファイル形式に仕上げておくことの重要性である。結果的にパソコンで執筆の無駄を省き、原稿品質が高まるといっている。編集者の問題意識が低いことにも警告を発している。
■ かつて編集の勉強会でTeX(テフ)を取り上げたことがある。組版費が大幅に下がることから経費が削減できると発言したところ、「高い人件費の編集者が時間かけて組版しているのに、そのコストを見ていない」と反論された。あれから7年がたち時代も変わった。今ではコスト削減だけがパソコン導入の理由ではないと思っている。
■ 最近、1000頁を超える大著を翻訳出版した。訳者はキーボードを鉛筆代わりに、メモを取るようにプログラムを書き、紙よりもディスプレイで文字を読むコンピュータ研究者たちである。翻訳にあたってもパソコンとネットワークなしには進まない。
■ まず、原著者からTeXの英文データを入手し、ノートパソコンにすべてをインストールする。さらに英文段落ごとに和文翻訳を入力していけば、最後に一括処理で日本語TeX組版ができるようにプログラムを書いた。また訳語が決まっていない専門用語が多いので、事前に索引項目を辞書登録した。初期の翻訳会議では、4人の訳者と編集者のノートパソコンをネットワークでつなぎ、翻訳の方針と仕組みづくりに終始した。
■ ここまで準備してから、分厚い原著を持たず、いつでもどこでも翻訳を始めたのである。訳者の1人とは同じ路線で帰宅するのだが、車内で訳したデータを降りる間際にメールでもらったこともある。
■ 著者のFD入稿では、プリントを一緒にもらうのが原則であるが、別な仕事では、原稿と校正の受渡しをインターネットによるPDFファイルのみで行った。紙面のレイアウトを決めるスタイルファイルの設計をはじめ、すべての修正も著者が行った。みごとなTeX組版である。したがって、脱稿と校了データの入稿は同義で、このとき初めて著者からプリントを送ってもらい3日後の青焼き校正にそなえた。本ができてきたのは、それから10日後である。企画から原稿入手、製作までパソコンが不可欠な仕事であった。
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