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インダス 南アジア基層世界を探る

環境人間学と地域
インダス 南アジア基層世界を探る

A5判 上製
価格:6,050円 (消費税:550円)
ISBN978-4-87698-300-1 C3325
奥付の初版発行年月:2013年10月 / 発売日:2013年10月下旬

内容紹介

強大な国家権力を持たず、大河にも依存しなかった異色の古代文明、インダス。その衰退の原因は、劇的な天災でも戦争でもなく、ネットワークの崩壊だった──文理融合による学際的アプローチで、インダス文明衰退の謎に迫る。
日本隊初のインダス文明遺跡発掘調査(カーンメール遺跡、ファルマーナー遺跡)の成果も収録。

著者プロフィール

長田 俊樹(オサダ トシキ)

総合地球環境学研究所 名誉教授および客員教授
専門分野:言語学、南アジア研究、インダス文明
主著:A Reference Grammar of Mundari(東京外国語大学アジアアフリカ言語文化研究所、1992年)、『ムンダ人の農耕文化と食事文化:民族言語学的考察』(国際日本文化研究センター、1995年)、『新インド学』(角川叢書、2002年)、『インダス文明研究の回顧と展望および文献目録』(総合地球環境学研究所、2005年)、Indus Civilization: Text and Context(編著、マノハル出版社、2006年)など多数

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 南アジア基層世界とは[長田俊樹]
1 インダス文明―その特徴と遺跡分布および年代
2 インダス文明研究小史
3 インダス・プロジェクト―研究目的と研究体制
4 インダス文明の衰退原因をめぐって
(1)アーリヤ人侵入破壊説
(2)メソポタミアの貿易停止説
(3)社会的文化的変容説
(4)森林破壊大洪水説
(5)インダス川の河流変化説
(6)インダス川自然ダム水没説
(7)サラスヴァティー川消滅原因説
(8)気候変動説
5 本書の構成

第1部 自然環境を復元する

第1章 南アジアの自然環境[前杢英明]
1―1 生活の舞台としての多様な大地
(1)ヒマラヤおよびその周辺山脈
(2)ヒンドスタン平原
(3)インド半島
1―2 独特な文化を生む多様な気候
1―3 農業を支える多様な土壌
1―4 南アジアの自然環境とインダス文明
◉コラム1 インド・パキスタン周辺の活断層と歴史地震 [熊原康博・堤 浩之]

第2章 消えた大河とインダス文明の謎[前杢英明・長友恒人]
2―1 消えた大河サラスヴァティー
2―2 サラスヴァティー川をめぐる議論
2―3 消えたサラスヴァティーの謎に迫る
(1)タール砂漠と河川地形
(2)ガッガル川の氾濫原は大河の化石地形か?
(3)砂丘の年代を測る
(4)サラスヴァティーは滔々と流れる大河だったのか?
2―4 文明の盛衰と自然環境
◉コラム2 文献から見たサラスヴァティー川 [山田智輝]

第3章 海岸線環境の変化と湾岸都市の盛衰 [宮内崇裕・奥野淳一]
3―1 考古学的背景と課題
3―2 グジャラート州周辺の地学的背景
3―3 研究対象としたインダス文明期湾岸遺跡の概要
(1)ロータル遺跡(紀元前2500~1900年)
(2)カーンメール遺跡(紀元前2600~1900年)
3―4 地形発達・相対的海水準変動と港湾都市の盛衰
(1)地形発達史の復元手法
(2)地形発達からみたインダス文明期港湾都市の盛衰
3―5 相対的海水準変動の原因を探る
  ―ハイドロアイソスタシーによる地殻変動
(1)グレイシオハイドロアイソスタシーの背景と現れ方
(2)ハイドロアイソスタシーに基づく完新世の海水準変化モデリング
(3)インド北西部グジャラート付近の海水準変動復元
3―6 古代都市の運命を支配した地球規模の変動
◉コラム3 メソポタミアとの交流 [森 若葉]

第4章 南アジアのモンスーン変動をとらえる
4―1 ララ湖堆積物調査までの道 [八木浩司]
(1)実施のための許可書類の準備
(2)資材輸送のための準備
(3)ララ湖への資材人員輸送
4―2 ララ湖ピストンコアリング [松岡裕美・岡村 眞]
(1)湖沼堆積物の採取
(2)ララ湖の堆積物
4―3 湖沼堆積物の分析 [中村淳路・横山祐典]
(1)アジアモンスーンの変動
(2)湖沼堆積物の年代を測る
(3)泥から過去の気候を読み解く
(4)インダス文明の衰退原因としての夏モンスーン
◉コラム4 ララ湖はいかにしてできたのか [八木浩司]

第2部 人々の暮らしを復元する

第5章 発掘とGIS分析でインダス文明都市を探る [寺村裕史・宇野隆夫]
5―1 インダス文明遺跡の特徴と調査手法
5―2 インダス文明遺跡の地理的分布
(1)分析の目的と準備作業
(2)資料と分析方法
(3)インダス文明遺跡の分布の変遷
(4)各ステージの特色
5―3 カーンメール遺跡の発掘調査
(1)発掘調査の概要
(2)出土遺物
(3)カーンメール遣跡の性格
5―4 ファルマーナー遺跡の発掘調査
(1)居住地区の発掘調査
(2)墓地の発掘調査
(3)出土品
(4)ファルマーナー遺跡の性格
5―5 インダス文明をどのように理解するか
(1)インダス文明は南アジアの基層文化か?
(2)インダス文明の特質
(3)インダス文明の衰退とは何か?
◉コラム5 カーンメールの印章 [長田俊樹]

第6章 工芸品からみたインダス文明期の流通[遠藤 仁]
6―1 工芸品の種類と素材
(1)工芸品の種類
(2)工芸品の素材
6―2 工芸品の生産
6―3 工芸品の流通からみたインダス文明の流通システム
6―4 南アジアにおけるカーネリアン・ロード

第7章 インダス文明の衰退と農耕の役割 [スティーヴン・A・ウェーバー(訳:三浦励一)]
7―1 農耕とインダス文明
7―2 インダス文明の衰退
7―3 農耕とインダス文明期後期の人々
7―4 地域別アプローチの意義
◉コラム6 クワ科植物が結ぶインダスと南インド [千葉 一]

第8章 インダス文明の牧畜
8―1 カッチ湿原が生んだ幻のロバ―古代における野の育種 [木村李花子]
(1)湿原のからくりと移牧民―水に閉ざされた放牧場
(2)インダスへの回廊
(3)メソポタミアへの回廊
(4)異種と野生の導入
8―2 コブウシ考 [大島智靖]
(1)インド亜大陸とウシ
(2)インダス文明とコブウシ
(3)インド・アーリヤ人とコブウシ
(4)牧畜史の変化と連続―テキストとレリックを超えて
8―3 牛を伴侶とした人々―古代インドの牧畜と乳製品 [西村直子]
(1)古代インドの牧畜
(2)古代インドの乳加工
(3)土器の穴から世界を透かし見る―むすびにかえて

第9章 インダス文明に文字文化はあったのか[児玉 望]
9―1 音声言語の視覚記号化としての「文字」
9―2 ドラヴィダ語による「当て字」仮説
9―3 文字化テクストがありえたのか
9―4 南アジアの口承言語文化
9―5 インダス文字論争のゆくえ

第10章 アーリヤ諸部族の侵入と南アジア基層世界 [後藤敏文]
10―1 インド・アーリヤ語文献の資料的価値
10―2 アーリヤ諸部族の侵入とその背景
(1)インド・ヨーロッパ語族
(2)インド・イラン語派、「アリヤ」と「アーリヤ」
(3)アーリヤ諸部族のインド侵入
10―3『リグ・ヴェーダ』とアーリヤ諸部族
10―4 ヴェーダ文献群とアーリヤ諸部族東進の記録
10―5 ヴェーダ文献における借用語の問題
10―6 アーリヤ諸部族の侵出と先住諸部族

第3部 現代へのつながりを辿る

第11章 インド冬作穀類の起源と変遷[大田正次・森 直樹]
11―1 栽培コムギの成立とインド亜大陸への伝播
11―2 インドにおけるエンマーコムギとインド矮性コムギの栽培と利用の現状
(1)エンマーコムギ
(2)インド矮性コムギ
11―3 コムギの早晩性と南アジアの栽培体系
  ―インド亜大陸のエンマーコムギとインド矮性コムギはどこから来たか
11―4 作物の品種多様性と伝統的栽培
◉コラム7 「それなら知っているよ。グンドゥゴーディだよ。」
  ―インド矮性コムギ再発見の日― [森 直樹]

第12章 DNAからたどる南アジア人の系統 [斎藤成也・神澤秀明]
12―1 古代DNAの研究
(1)インダス文明のファルマーナー遺跡へ
(2)ウシとコブウシ
(3)古代DNA研究の実際
(4)ウシからヒトへ
(5)試料が悪いのか、実験の腕が悪いのか
12―2 現代南アジア人の遺伝的近縁関係
(1)現代人のDNAを比較して過去の移動を推定する
(2)インドにおける人間の遺伝的多様性
(3)古典的遺伝マーカーによる解析
(4)ゲノム規模での膨大なDNA変異の解析
◉コラム8 ファルマーナーの人骨 [斎藤成也]

第13章 多言語多文化の世界―現代南アジアから見る [大西正幸]
13―1 南アジアの言語の地理的分布
(1)インド・アーリヤ語族とイラン語族
(2)ドラヴィダ語族
(3)ムンダ語族とモン・クメール語族
(4)チベット・ビルマ語族
13―2 多言語と多文化の共存
(1)多言語共存ベルト
(2)大都市での多言語共存
(3)異言語・異文化の融合

第14章 南アジアにカースト・ネットワークを見る [長田俊樹]
14―1 わたしのインド体験
14―2 インド社会論―基本概念とその限界
14―3 サンスクリット文献とインド古代社会
14―4 多様性の指標としての言語
14―5 カースト社会と多様性

終章 新しいインダス文明像を求めて[長田俊樹]
1 アーリヤ人侵入破壊説
2 穀物倉
3 はたしてインダス文明は大河文明か
4 海上交通とインダス文明
5 ネットワーク共同体としてのインダス文明
6 インダス文明社会

あとがき
図表出典一覧
索引
執筆者紹介


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