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情報学の新たな地平災害報道とリアリティ

災害報道とリアリティ 情報学の新たな地平

A5判 218ページ 上製
価格:2,860円 (消費税:260円)
ISBN978-4-87354-747-3 C3036
奥付の初版発行年月:2022年02月 / 発売日:2022年02月上旬

内容紹介

報道の危機が叫ばれて久しい。そうしたなかで災害報道も苦境に瀕している。被災の現実を迅速に伝えようとしても、逆に被災者に迷惑をかけてしまう事態がネットにさらされ、「マスゴミ」と揶揄される始末である。情報の伝え手と受け手の信頼関係が底抜けしている。徒労感や閉塞感が充満している。情報テクノロジーが高度化すればするほど、情報空間は貧しくなってきているとさえいえる。
こうした事態を真摯に受け止めるとき、これまでに何度も議論の俎上に載せられてきた「災害報道のベターメント」の問題に関して、解決に向けたあらたな一歩を踏み出すためには、虚心坦懐に理論の立脚点を問いなおしたり、実践上のアプローチを替えてみたりすることが求められるのではないか。これが、本書の核となる問題意識である。
満身創痍の災害報道に対する処方には、特効薬はない。しかしだからといって、場当たり的な対症療法に終始するのではなく、根本治癒を目指したものでなければならない。
そこで本書では、まず「情報」の特性を再定義して、コミュニケーションモデルを描き直し、リアリティの水準から論を興す、新たな地平に立つことにした。人々の命を救う緊急報道、人々の命を支える復興報道、人々の命を守る予防報道の三局面に関して、災害報道のありかたをトータルにまなざす視座を確立しようとしている。
そのねらいは、本書の構成を外観すれば容易に理解されるであろう。第Ⅰ部は、理論編。情報学の観点から、本書のキーコンセプトであるリアリティとは何なのか説明している。第Ⅱ部は、分析編。第Ⅰ部で抉出したセオリーで、現況の災害報道の課題点を再整理してみせる。そして第Ⅲ部は、実践編。空理空論を言い放しにするのではなく、筆者自身が尽力しているプロジェクトを例に、「災害報道のベターメント」の勘所を探索している。理論と実践を往還すること。理論を実践で鍛え上げ、実践を理論で彫琢すること。これこそがいま、問題解決型のアカデミズムにおいてもジャーナリズムにおいても求められている。
自然災害・社会災害が頻発する現代社会において、災害報道をめぐる根本問題にメスを入れることは、すでに待ったなしの状況にある。ただしそこで、短絡した発想を持ちこんで事態の上書き・上塗りをするのであれば、かえって混乱の渦を激しくする逆機能を起こすにちがいない。大胆に、かつ冷静に。「災害報道学」(Disaster Journlism)の礎石となることを目指した待望の書が、ようやく世に放たれる。

著者プロフィール

近藤 誠司(コンドウ セイジ)

近藤誠司(こんどう せいじ)
1994年、NHKに入局。約20年間、ディレクターとして災害報道などに携わる。
NHK神戸放送局「震災メッセージ」シリーズの企画・制作で、総務省消防庁の「防災まちづくり大賞」(消防科学研究センター理事長賞)を受賞。NHKスペシャル「メガクエイク 巨大地震 ~KOBE 15 秒の真実~」(2010年)で、科学技術映像祭・内閣総理大臣賞、中華人民共和国・国際科学教育番組コンクール・銀獅子賞を受賞。
2013年、京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻(博士後期課程)指導認定退学、博士(情報学)。翌年NHKを退職し、関西大学社会安全学部安全マネジメント学科の助教となる。2015年、同准教授。現在に至る。2018 年、日本災害情報学会・廣井賞(社会的功績部門)受賞。2020年、ぼうさい甲子園グランプリ。2020年・2021年、ジャパン・レジリエンス・アワード(教育機関部門)金賞を受賞。
人と防災未来センター・リサーチフェロー、日本災害復興学会理事(副編集委員長)、日本災害情報学会理事(編集委員幹事)、社会貢献学会理事、地区防災計画学会幹事などを務める。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序章 災害報道研究をひらく
1 満身創痍の災害報道
2 対症療法ではなく根本治癒を
3 本書の構成

第Ⅰ部 災害報道研究の理論
第1章 災害報道の定義
1 災害報道の基本3機能
2 災害報道の基本4象限
第2章 災害報道研究史を概観する
1 災害報道研究の布置
2 マスコミ研究における災害報道研究のプレゼンス
3 災害情報研究のなかの災害報道研究の動向
第3章 災害報道研究の新たな理論モデル
1 コミュニケーション・モデルズからの示唆
2 減災の正四面体モデルの特長と限界
3 リアリティの地平
4 メディア・イベントにおけるリアリティの共同構築モデル

第Ⅱ部 災害報道の局面別の再検討
第4章 緊急報道の分析
1 メディア・イベントとしての東日本大震災
2 東日本大震災の緊急報道のリアリティ分析
(1)第1フェーズにおける映像内容の分析結果
(2)第1フェーズにおける呼びかけコメントの分析結果
(3)第2フェーズにおける映像内容の分析結果
(4)第2フェーズにおける呼びかけコメントの分析結果
(5)第3フェーズにおける映像内容の分析結果
(6)第3フェーズにおける呼びかけコメントの分析結果
3 リアリティを高める糸口を探求する
(1)情報の「ローカリティ」の早期確保の必要性
(2)リアリティ・ステイクホルダーとしての役割認識の必要性
(3) 災害情報をめぐる基本フォーマットからの逸脱の可能性
第5章 復興報道の分析
1 メディア・イベントとしての四川大地震
2 四川大地震の復興報道のリアリティ分析
(1)「カネ」という数値:寄付金の額をめぐるリアリティ
(2)「時間」の数値:被災者に一方的に提示される期限のリアリティ
(3)「ヒト」の数値:死者のカウントアップのリアリティ
3 リアリティを重ねる糸口を探求する
第6章 予防報道の分析
1 メディア・イベントの構成員に着目する
2 防災番組の登場人物分析
(1)「NHKスペシャル」の内容分析
(2)「クローズアップ現代+」の内容分析
3 リアリティを深める糸口を探求する

第Ⅲ部 理論と実践の往還
第7章 実践事例1:災害報道版クロスロード
1 災害報道版クロスロードの開発
2 災害報道版クロスロードの実際
3 災害報道版クロスロードのポテンシャリティ
第8章 実践事例2:早期避難の呼びかけ―広島モデル―
1 呼びかけの呼びかけ
2 呼びかけの呼びかけの新展開
3 広島モデルのポテンシャリティ
第9章 実践事例3:KOBE虹会
1 溶け合うことばたち
2 他者との交歓
3 共同性のポテンシャリティ

第Ⅳ部 到達点からの展望
第10章 COVID-19とインフォデミック
1 インフォデミックの情況
2 インフォデミック禍のリアリティ
(1)真偽の未定性・不定性
(2)分断と連帯
(3)可視化と不可視化
3 情報のワクチノロジー
終章 リアリティのリアリティ
あとがき
索引


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