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総合的社会認識の社会学初期シカゴ学派の人間生態学の展開

初期シカゴ学派の人間生態学の展開 総合的社会認識の社会学

A5判 326ページ 並製
価格:4,400円 (消費税:400円)
ISBN978-4-87354-742-8 C3036
奥付の初版発行年月:2021年10月 / 発売日:2021年11月上旬

内容紹介

 それを退化というのか、進化というのかは分からない。だが、どのような社会も、何らかの形で変わり続ける。新型コロナウイルス感染症の拡大にともなう様々な影響は、人類史上、初めての経験ではある。しかしながら、急激な社会変動によるアノミー状態から、人々が何とか社会を立て直そうとするのは、人類史で見て、初めてのことではない。アノミー状態からの再組織化の様子や方法と、それらを分析するための理論について教えてくれるのが、初期シカゴ学派の社会学、とりわけその「人間生態学」である。初期シカゴ学派の社会学者たちが対峙したのは、近代化にともなう大きな社会変動と、そこから生じた社会解体である。生活上の危機や、そこからの立て直しについて、人々が営む社会生活や環境を見ることなく、問題を抱えているその人ばかりに注目したり、あるいは自己責任論的な視点のみに終始したりしていては、資するところは少ない。リスクの責任を個人が負う自己責任論的な風潮は、ギデンズやベックらが論じる「再帰的近代化」の過程の帰結なのかもしれない。だからこそ、自分や家族のみで何とかしようとする/させる「自助」や、生活圏を抜けきれない狭い視野や価値観の拘束から、人々を解放する視点が必要である。すなわち、人と社会のダイナミズムを扱うことができる、総合的社会認識の社会学が求められているのである。
 本書は、初期シカゴ学派のアーネスト・ワトソン・バージェス、およびエドワード・フランクリン・フレイジアらの人間生態学に関する文献を検討し、総合的社会認識の社会学の視点を引き出すことを目的とする。さまざまな二分法を扱うが、とくに、社会認識や調査における「量的調査と質的調査」、および「時間と空間」の二分法を総合する可能性に着目する。クリティカルな二元結合(異元結合)の視点を有した人間生態学は、問題の要因を的確にかつ多面的にとらえることのできる、生きた社会理論が目指されていた時代の活力を秘めている。バージェスが考察したように、人間生態学の視点は、「科学」「政策」「人間」などといった相互矛盾性を内包した概念で下支えがなされた。これまでのシカゴ学派のイメージに反して、人間生態学には、科学や人間性と結びついた政策的含意、つまり社会を望ましい方向へ導こうとする意味が含まれているのである。
 人間生態学は、狭い意味での社会学の理論というだけでなく、社会調査や社会福祉に開かれた「社会学的想像力」の展開を可能にしてくれる道具となる。それは単なる過去の遺物ではなく、現代の混沌とする社会にはびこる社会問題の要素還元主義や社会的排除の潮流に抗する視点として再び注目する価値のあるものである。

著者プロフィール

西川 知亨(ニシカワ トモユキ)

関西大学人間健康学部准教授博士(文学)
1975年生まれ。愛知県生まれ福井県育ち。京都大学文学部卒。
京都大学大学院文学研究科修士課程および博士後期課程を経て、京都大学博士(文学)。大谷大学文学部講師、大阪産業大学教養部准教授などを経て現職。

著書に、『〈オトコの育児〉の社会学―家族をめぐる喜びととまどい』(共編著、ミネルヴァ書房、2016 年)、『映画は社会学する』(共著、法律文化社、2016 年)、『変化
を生きながら変化を創る―新しい社会変動論への試み』(共著、法律文化社、2018
年)、『社会学と社会システム』(社会福祉士・精神保健福祉士養成講座)(共編著、中
央法規出版、2021 年)、『ポスト・ソーシャル時代の福祉実践』(共編著、関西大学出
版部、2021 年)などがある。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はしがき

序論―「総合的社会認識の社会学」が求められる背景―
1 はじめに
2 バージェスとフレイジアの「総合」
3 バージェスとフレイジアの略歴
4 シカゴ人間生態学の歴史の概略
5 本書の構成と概念図
6 有機的連関の解きほぐし

第1部 初期シカゴ学派の人間生態学―パークからバージェスへ―
緒論
第1章 パークとバージェスの人間生態学―概念の導入と社会学的方法論の展開へ―
1 はじめに
2 パークの人間生態学―概念の導入と空間的・質的研究の展開
3 バージェスの人間生態学―社会学的調査に向けた概念の整備
4 両者の人間生態学観―システムとしての有機体
5 シカゴ・モノグラフに見る人間生態学―概念の継承
6 まとめ―両者の相違点と展開可能性
第2章 教員としてのバージェス―「人間生態学」の講義レジュメの検討―
1 はじめに
2 「人間生態学」の講義概要とその内容
3 単位の修得としての「人間生態学」
4 まとめ

第2部 バージェスによる初期シカゴ学派の人間生態学的方法論の確立―「科学」「政策」「人間」との相互関係―
緒論
第3章 バージェスと社会調査―「科学」の意味に注目して―
1 はじめに
2 社会改良の要請と自然科学の影響
3 知識社会学的転回
4 「科学」から人間生態学へ
5 まとめ
第4章 バージェスの社会政策論―社会改良・計画・福祉の展開―
1 はじめに
2 社会改良と社会計画―1910年代から1930年代の文献より
3 社会福祉と老年社会学―1950年代以降の文献より
4 バージェスの社会政策論のインプリケーション
第5章 バージェスの「人間」概念の社会性
1 はじめに―初期シカゴ学派の「人間」概念
2 人道主義と第二次シカゴ学派
3 近代社会における人間性の表出
4 モーレスとしての「人道主義」と価値
5 エイジングの問題における人間的側面
6 まとめ

第3部 フレイジアによる初期シカゴ学派の人間生態学的方法論の成熟―その意義の明確化―
緒論
第6章 フレイジアの『シカゴの黒人家族』の検討―発掘されるシカゴ・モノグラフ―
1 はじめに
2 初期シカゴ学派とフレイジア
3 『シカゴの黒人家族』の検討
4 既存研究を超えた読解に向けて
第7章 人間生態学的方法の成熟
1 はじめに
2 黒人社会学と人間生態学に関して
3 自然地域の研究
4 時間的側面―解体と再組織化のプロセス
5 空間的側面―諸要素の分布の研究
6 まとめ―フレイジアに見る人間生態学的方法の可能性
第8章 人間生態学と社会解体論―逸脱論の源流として―
1 はじめに
2 人間生態学―ショウからフレイジアへ
3 社会的コントロール
4 社会心理学―状況の定義と生活の図式化
5 文化学習論
6 逸脱論の源流としての社会解体論
結論―人間生態学の社会学的方法論上の意義―
1 はじめに
2 初期シカゴ学派の人間生態学的方法―量/質と時間/空間の交錯
3 量的調査―地域における解体要素の増減と分布
4 質的調査―地域変容と経験の相違
5 人間生態学の社会学的方法論上の意義―社会生活の組織化に向けた基盤として

参考文献
あとがき
事項索引
人名索引


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