〈体育会系女子〉のポリティクス 身体・ジェンダー・セクシュアリティ
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-87354-732-9 C3036
奥付の初版発行年月:2021年03月 / 発売日:2021年03月下旬
「女らしくしろ」「女になるな」
日本の女子選手たちは、男子選手ならば経験することのない、こうした矛盾した要求を突きつけられる。なでしこジャパン、女子レスリング……2000年代以降、かつて「男の領域」とされたスポーツで活躍する女子選手の姿をメディアで多く目にするようになった。
強靭な身体と高度な技能、苦しい練習を耐えるタフな精神力や自律が要求されるエリートスポーツの世界。その中でも「男らしいスポーツ」とされるサッカーとレスリングの世界で活躍するたくましい「女性アスリート」たちはどう語られたのか。メディアの語りから見えてくる「想像の」日本人の姿とは。そこに潜むコロニアリティとは。また、トランスジェンダーへの差別が絶えない社会で、トランスジェンダーやシスジェンダーでない選手たちは、女子スポーツの空間や「体育会系女子」をめぐる言説とどのように折り合いをつけ、スポーツ界に居場所を見出してきたのだろうか。
本書は、日本の女子スポーツ界を取り囲む家父長制的、国民主義的、異性愛主義的、そしてシスジェンダー主義的言説を明らかにし、抑圧の構造に迫る。同時に、その抑圧的環境を創造的に克服してきた選手たちにスポットライトを当てることで、「生きることのできるアイデンティティ(livable identity)」、そしてより多くの可能性に開かれた主体性(subjectivity)のあり方を探る。
井谷 聡子(イタニ サトコ)
井谷聡子(いたに さとこ)
1982年生まれ。2015年トロント大学博士課程を修了。現在、関西大学文学部准教授。専門はスポーツとジェンダー・セクシュアリティ研究。著作に「男女の境界とスポーツ規範・監視・消滅をめぐるボディ・ポリティクス」『思想』(岩波書店)。「〈新〉植民地主義社会におけるオリンピックとプライドハウス」『スポーツとジェンダー研究10』(日本スポーツとジェンダー学会)など。
目次
はじめに
第Ⅰ部 いくつかの前提
第一章 本研究の位置付けと理論的枠組みの検討
1 スポーツとセクシュアリティ
2 国民、身体、ジェンダー
第二章 「男性的」スポーツをする日本女子選手の主体へのアプローチ
1 「男性的」スポーツ―なぜサッカーとレスリングか
2 理論と解釈の枠組み
3 研究方法
第Ⅱ部 メディア言説構築
第三章 男性的スポーツと女子選手の言説構築とそのトラブル
1 マイナーな存在からヒーローへ
2 規範的言説構築―異性愛主義と性別二元制
3 再意味化―変化する「女らしさ」とスポーツの関係性
4 再引用・撹乱・修復―女性のマスキュリニティを規範化する
第四章 「日本人」の身体をめぐる言説とコロニアリティ
1 コロニアリティ(植民地性)
2 帝国主義の時代と不安な身体
3 小さな身体に宿る強い精神
4 米国と女子サッカー
5 女性選手の進化
6 倫理的なでしこと植民地主義的健忘症
7 3.11となでしこジャパン
第Ⅲ部 言説の物質化と身体、主体性
第五章 スポーツと性差別、ジェンダー規範との折衝
1 スポーツとの出会い
2 サッカーとレスリング選手のジェンダー化された主体の構成
3 体育会系女子―女性アスリートの規範的マスキュリニティ
4 「女になるな」
5 モノ・身体・主体性
第六章 シスジェンダー主義、トランス嫌悪、規範的トランス言説との折衝
1 マイノリティ主体をどう語るか
2 同一化、脱同一化、規範的トランス言説への抵抗
3 シスジェンダー中心主義、トランス嫌悪、「男のスポーツ」言説の狭間で
4 体育会系女子から「トランス」へのカミングアウト
終章 スポーツ・フェミニズム・クィア
1 トランス選手とフェミニズム
2 スポーツをクィアする
3 スポーツからジェンダーをクィアする
参考文献