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近代期における開拓と農村地域空間形成北海道開拓の空間計画

北海道開拓の空間計画 近代期における開拓と農村地域空間形成

B5判 374ページ 上製
価格:17,600円 (消費税:1,600円)
ISBN978-4-8329-8217-8 C3052
奥付の初版発行年月:2015年02月 / 発売日:2015年03月中旬
発行:北海道大学出版会  
発売:北海道大学出版会
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内容紹介

近代北海道の地域空間形成のルーツを探るべく,北海道の開拓とは何か,地域形成の空間計画とは何かを問うた論考。2013年度日本建築学会賞受賞の研究である。
 明治以降の歴史の変遷のなかで,現在の北海道に残る最大の地域資源といえるものは幾何学的な区画の中に展開する耕地と防風林の存在である。その美しい景観は,わが国最大の農耕地でもある。日本の近代化とは国民国家の建設を目標に殖産興業や富国強兵に表される都市づくり,産業施設の建設が中心となってきたが,実は近代期においてわが国の開拓,農村づくりも盛んに行われ,新たな原野開墾等による農地の増大は100万haを超え,これは現在の日本の耕地面積の1/4 近くに達する。規模の大きい原野開墾が実施された地域は北海道が主となるが,明治期の原野開墾事業は全国に拡がる。中でも東北・北関東には北海道開拓と同様に農村の原野開拓が基盤となり,地域・都市形成が始まったエリアがかなり見られる。日本の近代の地域史とは都市の歴史だけでなく実は都市+農村の計画史として書かれるべき地域が多いのである。 
本書は北海道開拓を中心とする日本近代の開拓と農村計画の空間研究と地域(都市+農村)の計画史にまたがる一連の論考である。農村地域空間を歴史的形成のなかで捕らえる新しい方法論(地域空間をレイヤー構造で分析する手法)を展開しながら,歴史の中に埋もれていたともいえる日本近代の農村計画を拾いだすことに成功して,従来の通説を問い直しながら北海道開拓での屯田兵村と殖民区画が,日本近代期における非常に優れた農村計画手法であったことを初めて明らかにしている。また東北・北関東地域の原野開拓についても,従来北海道開拓との関連性について関心のもたれることのなかったが,すぐれた農村計画の手法を有し,北海道開拓と多くの同時性,共通性をもつものであることを明らかにしている。
本書のもう一つの柱である農村計画の分野は,戦後我が国の農地面積の大幅な縮小や日本農業の構造的な問題が山積するなか,計画学として有効な計画の方法論を示し得ない状況が続いている。本論文は農村地域空間を歴史的変遷のなかで捕らえる新しい方法論を展開するなかで,貴重な日本近代の農村計画の手法を拾いだすことに成功している。その方法は計画学としての展望を見いだせないでいる農村計画分野において,その計画手法を再構築する新しい可能性を示している。本書は北海道を中心とする日本近代期の開拓,地域空間の計画史研究の新しい地平を切り開くとともに,計画学としての地域,農村計画の再構築への研究的貢献をなすものである。

著者プロフィール

柳田 良造(ヤナギダリョウゾウ)

1950年 
徳島市に生まれる
1975年
北海道大学工学部建築工学科卒業
1981年
早稲田大学大学院理工学研究科博士課程
単位取得満期退学
1983〜2001年
(株)柳田石塚建築計画事務所代表
2001〜2008年
プラハアソシエイツ株式会社代表
2008年〜
岐阜市立女子短期大学生活デザイン学科
教授
博士(工学)

主な業績
2013年度日本建築学会賞受賞
「近代期における開拓と農村地域空間形成の研究」

論文
「北海道開拓における殖民区画の計画原理と集落デザイン」日本建築学会計画系論文集Vol.635,2009
「近代期における開拓・農村地域空間形成の研究―北関東・東北・北海道での開拓の比較分析を通して」日本建築学会計画系論文集Vol.673,2012,他

建築作品
「ニセコ生活の家」,1999「もみじ台の家」,2000「山鼻コーポラティブハウス」,2001「発寒ひかり保育園」,2002「旧岐阜県庁舎+岐阜大医学部跡地保全活用計画」,2010,他

主要著書
『シリーズ地球環境建築・専門編1 第二版』彰国社(2010,分担執筆),『シリーズまちづくり教科書・第1巻まちづくりの方法』丸善(2004,分担執筆),『日本の都市環境デザイン第1巻北海道・東北・関東編』建築資料研究社(2003,分担執筆)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

口絵

序章 研究の目的と方法
1.  研究の目的
  地域空間形成の「基層」/ 地域空間形成における計画と成熟  
2.  研究の方法
地域空間のレイヤー構造での分析 / 具体的研究方法  
第1章 明治初期開拓の地域空間形成
1.  明治以前の北海道開拓の底流
アイヌの空間認識 / 江戸期における「蝦夷地」の空間認識と開拓
2.  明治初期の開拓政策
開拓使の誕生 / 開拓使の開拓方針  
3.  開拓初期の地域空間形成の流れ
札幌本府計画と市街区画 / 初期移住村 / 屯田兵村  
4.  明治初期開拓事業の意味
開拓地と集落立地 / 移住地での集落形態 / 入植地の農地区画の規模 / 開拓入植での団体性・共同体の重要性 / 入植開拓地での農業基盤確立のための副産物 / 開拓入植のための基盤・交通網整備の重要性 / 都市と農村の計画的連続性 / 市街地の空間構成のモデルの確立  
第2章 屯田兵村の配置計画の骨格パターン
1.  屯田兵村形成とその時代背景
創設期(明治6〜15年) / 確立期(明治15〜23年) / 展開期(明治23〜29年) / 終焉期(明治29〜37年)
2.  屯田兵村の選地と国見
屯田兵村の選地の4つの目標 / 『屯田兵本部長永山将軍北海道全道巡回日記・上下』に見る土地選定の考え方 / 土地の選定調査と国見  
3.  屯田兵村の選地と国見
給与地の分割給与 / 給与地を樹林地へ / 屯田兵村において意図した営農形態 / 給与地配置の意図  
4.  配置パターンの分類
密度による配置パターンの分類 / 軸と区画による配置計画のパターンの分類 / 屯田兵村における配置計画の決定要因  
第3章 屯田兵村のルーラルデザイン
1.  ルーラルデザインとしての屯田兵村を考える意味
2.  屯田兵村のデザイン手法
地形との応答と調整のデザイン / 基軸と領域性 / 基礎単位としての耕宅地のデザイン / 生活領域のまとまりに対応した空間計画 / 中心ゾーンの計画と空間形態 / 樹林地と防風林の計画とデザイン / 精神的よりどころの配置 / 共有地の配置  
3.  ルーラルデザインとしての計画原理
4.  屯田兵村の空間構成モデル
第4章 屯田兵村での地域空間の形成と成熟
1.  屯田兵村での地域空間形成の意味
2.  地域の開拓拠点の形成
3.  土地利用の継承と成熟・変容
農村的土地利用の事例 / 農村と市街地的土地利用の事例 / 市街地的土地利用の事例
4.  空間構成の継承と変容・成熟
領域性とまとまりの継承と変容 / 道路パターンと軸性の継承と成熟・変容 / 区画の継承と成熟・変容 / 中心ゾーンの継承と成熟・変容 / 屯田兵村における地域空間形成の基層としての計画原理  
第5章 殖民区画制度の誕生
1.  殖民区画制度誕生期の北海道と取り巻く状況
北海道への移住拡大の時代背景 / 移住拡大を担った北海道庁の誕生  
2.  開拓地の土地処分の方法
3.  殖民地選定調査
4.  殖民区画制度の成立
トック原野への十津川移民の入植 / トック原野での土地区画のデザイン / トック原野に続く土地区画のデザイン / 殖民区画の制度的規定  
5.  殖民区画での疎居・密居問題と代替案の可能性
疎居・密居問題 / 殖民区画の実施体制 / 新渡戸稲造の殖民区画への代替案  
6.  殖民区画による密居制の実施
殖民区画による密居制の実施事例 / 密居論の展開  
7.  殖民区画制度での集落計画の欠如とその理由
第6章 殖民区画制度による地域空間の形成と成熟
1.  土地制度
北海道土地払下規則 / 北海道国有未開地処分法  
2.  土地処分の進行と大土地所有
土地処分の急進 / 土地処分の進行における大規模処分地の増大 / 北越殖民社による小作農場のモデル / 北海道小作条例草按 / 大規模小作農場の功罪  
3.  殖民区画による地域空間の形成
鷹栖原野 / 当別・篠津原野 / 更別原野  
4.  殖民区画での市街地形成
殖民区画図段階で計画された市街地 / 入植の進展後に形成された市街地  
5.  殖民区画の計画の意味
広域秩序─「地」の形成 / 空間形成の時間空間の集積と計画の持続力 / マニュアル化された計画デザインと現場性 / 疎居的な集落形成 / 地域環境の制御と共有地の存在 / 農村市街地の形成  
第7章 都市と村落・基層構造の持続性
1.  開拓の進展に見る地域空間形成の基層構造
明治10年までの開拓の地域空間 / 明治20年までの開拓の地域空間 / 明治30年までの開拓の地域空間 / 明治40年までの開拓の地域空間 / 開拓期の地域空間形成における市街地と村落の基層構造  
2.  計画原理の相互関係
屯田兵村と市街地 / 殖民区画と市街地 / 屯田兵村と殖民区画  
3.  基層の計画原理
計画とデザイン / 自然地形との対応と親和 / よりしろと場所 / リザベーション / 都市と農村の相関・相補性  
4.  基層構造の規定力
広域性─地と図 / 空間形成の時間の集積と計画持続力─インフラの規定力 / 基準と現場性 / 地域空間のスケール  
補章 近代期における北関東・東北・北海道での比較
1.  奥羽越列藩同盟諸藩士族の移住開墾
開拓の前提としての原野 / 移住開墾のための移住地選択と移住条件 / 移住地の土地区画と農村計画  
2.  士族授産開拓
士族授産開拓の入植地と成立条件 / 士族授産開拓の開拓地の計画デザインと土地区画  
3.  大規模経営農場開拓
大規模経営農場開拓の入植地と成立条件 / 那須野ヶ原の開墾事業と土地区画 / 肇耕社の格子状市街地区画 / 農場経営と環境形成

参考文献
表・図・写真リスト
あとがき
事項・人名索引
地名索引


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