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 キリスト教世界における救い・罪・霊性〈叫び〉の中世

〈叫び〉の中世 キリスト教世界における救い・罪・霊性

A5判 364ページ 上製
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1040-5 C3022
奥付の初版発行年月:2021年09月 / 発売日:2021年09月下旬

内容紹介

中世ヨーロッパは叫び声に満ちていた――。修道士や「敬虔な女性たち」の内心の叫びから、異界探訪譚が語る罪人の悲鳴、さらには少年十字軍や鞭打ち苦行運動に伴う熱狂まで、キリスト教世界に響き渡る多様な〈声〉に耳を傾け、霊性史・感情史の新生面を切り拓く気鋭の力作。

前書きなど

――昼の一二時になると、全地は暗くなり、それが三時まで続いた。そして三時に、イエスは大声で「エロイ、エロイ、ラマ、サバクタニ」と叫んだ。それは「わが神、わが神、どうして私をお見捨てになったのですか」という意味である。

これは十字架上のイエス・キリストの言葉である。受肉し、人間となったイエスは、受難で死ぬ間際、神に向かって大声で〈叫び〉を上げている。この箇所に端的に表れているように、困難な状態・危機的な状態において、人間は神に向かってしばしば〈叫び〉を上げる。人間が神に何かを訴える際には、捧げものをしたり、派手な儀式を執り行ったり、静かに祈ったりと様々な方法があるが、その中でも〈叫び〉は、身ひとつで行う素朴で根源的な方法だと思われる。

ヨーロッパの中世とは、紀元五〇〇年から一五〇〇年までのおよそ千年にわたる時代である。この時代のヨーロッパの人々は基本的に、神を信じ、死後の〈救い〉を希求するキリスト教徒であった。本書はその「キリスト教世界」としての中世を、〈叫び〉を通して見てゆこうとするものである。

だが、神のような超越的存在に向かって助けを求め「叫ぶ」ことが人間にとって根源的な行為の一つであるとして、それは「キリスト教」や「中世ヨーロッパ」に限ったことではなかろう。それでは、中世キリスト教世界を〈叫び〉に注目して見てゆくことの意義はどこにあるのだろうか。中世における〈叫び〉の重要性を示すため、ま……

[「はじめに」冒頭より/註および傍点は省略]

著者プロフィール

後藤 里菜(ゴトウ リナ)

1986年、愛知県豊橋市に生まれる(横浜市に育つ)。2009年、東京大学教養学部卒業。2019年、東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程単位取得退学。現在、立教大学ほか非常勤講師、博士(学術)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

はじめに

第1章 救いの叫び、罪の叫び

A 日常的信心業、聖なる世界との繋がりにおける〈叫び〉
1 〈祈り〉と〈叫び〉
(1)修道士――神への〈祈り〉、文字上の〈叫び〉
(2)一般信徒――必死の〈祈り〉と〈叫び〉
2 聖人崇敬、奇跡の実現と〈叫び〉
(1)聖人、聖なるものへの素朴な〈叫び〉――聖人崇敬の現場から
(2)神及び守護聖人への訴え――修道院の典礼的儀式「叫び」
3 異教の「残滓」と〈叫び〉
まとめ

B 悪魔と罪人の〈叫び〉
1 悪魔と悪魔憑きの〈叫び〉
(1)激しい〈叫び〉を症状とする悪魔憑き、狂人、悪魔
(2)真実を叫ぶ悪魔憑き
2 煉獄・地獄の〈叫び〉
(1)異界探訪譚の煉獄・地獄と〈叫び〉
(2)『トゥヌクダルスの幻視』――罪深い魂たちの悲痛な〈叫び〉にあふれた地
(3)『聖パトリックの煉獄』――罪人の悲痛な〈叫び〉とキリストの名の〈叫び〉
(4)『エインシャムの修道士の幻視』――罪人の〈叫び〉の継続
3 異界からの来訪
(1)エルカン軍団
(2)罪人や悪魔の来訪と〈叫び〉の消滅
まとめ

結び

補論1 中世の音楽と〈叫び〉

第2章 「敬虔な女性たち」の叫び
――「新たな聖なる〈叫び〉」の展開

A 盛期中世以降の〈霊性〉の展開と「敬虔な女性たち」の台頭
1 霊性史の枠組み
(1)一般信徒を含む霊性史
(2)一二世紀後半から一三世紀の転換期と新たな宗教生活
2 「敬虔な女性たち」の〈霊性〉とその展開
(1)〈女性的霊性〉とは何か
(2)「敬虔な女性たち」とは誰か

B 新たな〈霊性〉と「聖なる〈叫び〉」の変容
1 救いと聖性の〈叫び〉
(1)神への〈祈り〉と〈叫び〉
(2)聖性の有無への反応の〈叫び〉
2 罪と贖いの〈叫び〉
(1)罪人・罪と〈叫び〉
(2)受難のイエス・キリストと〈叫び〉――反応、共感、追体験
3 神から与えられる〈叫び〉
(1)神からの使命として――コルトーナのマルゲリータ
(2)聖母の慈悲を伝えるものとして――マージェリー・ケンプ

結び

補論2 感情の〈叫び〉を追って

第3章 集団的宗教運動と〈叫び〉

A 十字軍運動の中の一般信徒――神の〈叫び〉、神への〈叫び〉
1 十字軍と「神の思し召し」の〈叫び〉
(1)十字軍研究とウルバヌス二世の演説
(2)「戦争の叫び」と十字軍の〈叫び〉
2 少年十字軍と〈叫び〉
(1)少年十字軍とその参加者
(2)フランスの少年十字軍
(3)ドイツの少年十字軍
まとめ

B アレルヤ運動、鞭打ち苦行運動――〈身体〉の宗教運動と〈叫び〉のゆくえ:一三世紀から一四世紀
1 アレルヤ運動(一二三三年)の〈叫び〉
2 鞭打ち苦行運動と〈叫び〉の展開
(1)中世キリスト教世界の鞭打ち業と兄弟会
(2)第一期鞭打ち苦行運動(一二六〇年)
(3)第二期鞭打ち苦行運動(一三四九年)
3 北イタリアと北ヨーロッパの地域差をめぐって
まとめ

C ジェズアーティ会の運動とビアンキ運動――〈救い〉への「過程」となる〈叫び〉:一四世紀後半
1 ジェズアーティ会の運動
(1)ジェズアーティ会の生い立ち
(2)ジェズアーティ会の信心業と〈叫び〉
2 ビアンキ運動
(1)運動の意図とあらまし
(2)ビアンキの〈霊性〉と〈叫び〉の意味――ビアンキのラウダから
まとめ

結び

補論3 絵画から見る世俗の〈叫び〉

おわりに

あとがき

参考文献
索引


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