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工場と学校をむすぶもの技能形成の戦後史

技能形成の戦後史 工場と学校をむすぶもの

A5判 258ページ 上製
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1038-2 C3033
奥付の初版発行年月:2021年09月 / 発売日:2021年09月中旬

内容紹介

高度成長期の高校進学率上昇が職業教育・職業訓練に与えたインパクトとは? 企業内養成施設、公共職業訓練所、工業高校、各種学校などで起こった劇的な変遷を分析。「役に立つ」「即戦力」を歴史的に問い直し、実践に根ざした教養教育を考える。

前書きなど

戦後日本の教育システムは、アメリカによる対日占領政策の一環として実施された教育改革によって大きな変化を経験した。変革の最大のポイントは、義務教育の6年から9年への期間延長と、それ以降の中等・高等教育を含めた男女共学化であった。

戦前は初等教育・義務教育を除いて男女別学であったのが、戦後は基本的に中等・高等教育を含めて男女共学が主流となった。戦前の場合、尋常小学校での義務教育を終えた後、中等教育機関に進学しない児童は満12歳で(尋常小学校に接続する2年間の高等小学校[義務教育ではなく、男女別学で、初等教育に位置づけられていた]を出た場合は14歳で)就業することになった。工場労働者最低年齢法は14歳未満の児童の就労を禁止していたため、尋常小学校を卒業した後数年間は家事手伝いなどをし、その後他所で就労する場合も多かった。

1940年で中学校・高等女学校・実業学校などの義務教育に接続する中等学校への進学率は28%(男女計)であり、義務教育のみを修了して社会に出る児童が圧倒的多数派であった。戦後になると50年の高校進学率は43%(男子48%、女子37%)であったが、その後高度経済成長がこうした状況を大きく変えた。高校進学率は55年52%(男子56%、女子47%)、65年71%(男子72%、女子70%)、75年92%(男子91%、女子93%)と推移し、高度成長が終わる70年代半ばには高校への「全入」が実現するとともに、進学率の男女間格差……

[「序章」冒頭より]

著者プロフィール

沢井 実(サワイ ミノル)

1953年生。1978年、国際基督教大学教養学部卒業。1983年、東京大学大学院経済学研究科第二種博士課程単位取得退学。現在、南山大学経営学部教授、大阪大学名誉教授、博士(経済学)。主著、『日本鉄道車輌工業史』(日本経済評論社、1998年)、『通商産業政策史9 産業技術政策』(通商産業政策史編纂委員会編、経済産業調査会、2011年)、『近代日本の研究開発体制』(名古屋大学出版会、2012年、日経・経済図書文化賞、企業家研究フォーラム賞受賞)、『近代大阪の工業教育』(大阪大学出版会、2012年)、『近代大阪の産業発展』(有斐閣、2013年)、『八木秀次』(吉川弘文館、2013年)、『マザーマシンの夢』(名古屋大学出版会、2013年)、『機械工業』(日本経営史研究所、2015年)、『帝国日本の技術者たち』(吉川弘文館、2015年)、『日本の技能形成』(名古屋大学出版会、2016年)、『久保田権四郎』(PHP研究所、2017年)、『見えない産業』(名古屋大学出版会、2017年)、『海軍技術者の戦後史』(名古屋大学出版会、2019年)、『現代大阪経済史』(有斐閣、2019年)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 技能形成の両輪
――職業訓練と職業教育
はじめに――高卒現業員の誕生
1 戦後日本の職業訓練・職業教育の概観
2 戦後の多能工を支えるもの――本書の構成

第1章 中教審による職業教育再編の模索
――高校進学率上昇の衝撃
はじめに
1 職業訓練・職業教育の課題――第20特別委員会の審議過程
2 後期中等教育の拡充整備に向けて――中間報告の発表
3 後期中等教育の多様化――最終答申
おわりに

第2章 職業訓練政策をめぐる力学
――新職業訓練法の成立まで
はじめに
1 高度成長と訓練多様化への要請――1968年中央職業訓練審議会答申
2 不足する技能労働者――経済諸団体からの要望
3 権利としての職業訓練――労働組合の対応
4 国会審議――多能工養成と「教養」の涵養
5 職業訓練法の全面改正
6 1971年労働省「職業訓練基本計画」
おわりに

第3章 高度成長と企業内養成教育の変容
――富士製鉄の事例を中心に
はじめに
1 新規中卒者養成教育の持続と変容――室蘭製鉄所
2 高卒者訓練への転換――釜石製鉄所
3 高卒現業員の増加による教習所廃止――広畑製鉄所
4 多能工・万能工の重視とその変容
おわりに

第4章 中小零細企業での技能形成
――事業内共同職業訓練と「職人」たち
はじめに
1 職業訓練の実施状況
2 大阪府の事例
3 町工場での修行と遍歴――小関智弘の場合
4 旋盤工の技能形成――Iの場合
5 独立と砲丸製造――辻谷政久の場合
6 多能工と金型・軸受製作――藤本朝詔の場合
おわりに

第5章 高卒技能者時代の到来
――学歴・職業関係の変容とその影響
はじめに
1 ホワイトカラー職種から技能工へ――高卒技能者採用の諸段階
2 中卒養成工制度の揺らぎ
3 高卒現業員採用の展開
4 高卒技能者採用にともなう人事制度の変化
5 高卒技能者の養成訓練
6 高卒技能者の定着率と意識
7 高卒の工程・生産管理・生産技術専門要員の増加
おわりに

第6章 変わりゆく工業高等学校
――卒業生の軌跡と直面する諸問題
はじめに
1 中堅技術者候補から現場管理者へ
2 普通科志向・大学進学率の上昇とその影響
3 工業高校の対応と模索
おわりに

第7章 公共職業訓練の変遷と苦闘
――高校進学率上昇への対応
はじめに
1 高度成長への展開――大阪府における職業訓練所の変遷
2 問われる存在意義――大阪府立職業訓練所の実態と課題
3 大阪総合職業訓練所の活動
4 高度成長の終焉と役割の変化――他県の状況
おわりに

第8章 各種学校の量的拡大と発展
――もうひとつの学校における実務能力・技能の養成
はじめに
1 高度成長期における各種学校の動向
2 各種学校規程の制定と乱立の抑止
3 一条校化の模索と変化への対応――専修学校の誕生
4 各種学校の実像――国家資格・技能検定への傾斜
おわりに

終 章 高校進学率の上昇と技能形成の変貌


あとがき
図表一覧
索引


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