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改革開放の源流をさぐる毛沢東時代の経済

毛沢東時代の経済 改革開放の源流をさぐる

中兼 和津次:編, 林 幸司:著, 寳剱 久俊:著, 厳 善平:著, 羅 歓鎮:著, 唐 成:著, 甲斐 成章:著, 加島 潤:著, 峰 毅:著, 丸川 知雄:著
A5判 312ページ 上製
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-1031-3 C3033
奥付の初版発行年月:2021年07月 / 発売日:2021年07月上旬

内容紹介

現代中国のブラックボックスを開く――。破壊的だったとされる毛沢東時代。ではなぜその後、急速な発展をなしえたのか。人民公社、重化学工業優先、三線建設など、当時の制度・政策の効果をはかり、現在への「遺産」を問う。歴史的視野のもと、冷静な経済学的分析をくわえた画期的著作。

前書きなど

アメリカの中国経済研究者として著名なバリー・ノートンは、改革開放後に高成長した中国経済は、経済発展のために2つの遺産を過去から受け継いだと言う。1つは新中国建国前の伝統中国からの遺産である。たとえば市場に根差した私営企業は、計画経済と階級闘争を信奉する毛沢東時代にひどく抑圧されてきたが、それでもその伝統は地下水のように流れ続けていたのであり、1978年以降政府が脱毛沢東化と改革開放に政策の舵を大きく切るや否や、この伏流水が私営企業や郷鎮企業となって再び地上に噴出したといえる。もう1つの遺産は毛沢東時代からのもので、一定の積極的効果を持った正の遺産もあったが、大混乱と大きな犠牲をもたらした大躍進政策や文化大革命といった負の遺産があったと言う。

現在は過去との連続の上に立っている。開発経済学では開発開始前の過去の状況や過去から受け継いだ遺産を「初期条件」と呼ぶが、毛沢東時代に採られた政策や制度が改革開放後の現在にどのような遺産をもたらしたのか。それはそれ以前からの遺産をこわしてしまわなかったのか。すなわち、改革開放の初期条件とはどのようなものだったのか。それを検討するために、その時代に特徴的ないくつかの政策や制度を取り上げ、それを現在の地点に立って評価してはどうか、そうした問題意識をもって共同研究を重ね、編んだものが本書である。

毛沢東時代は一面から見ればきわめて特異な時代だった。本書でも触れる1950年代末の大躍進期や1966年から始まる文化大革命期は、多くの犠牲者を出した、世界史的に見ても異常な時期だった。経済的に見ても、この時代は他に類を見ない独特な政策や制度が実施された特異な時代だった。たとえば、ほとんどすべての農民を組織し共産主義社会を夢見た人民公社制度、また農民、……

[「まえがき」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

中兼 和津次(ナカガネ カツジ)

1942年、北海道に生まれる。1964年、東京大学教養学部卒業。アジア経済研究所調査研究部研究員、一橋大学経済学部教授、東京大学大学院経済学研究科教授、青山学院大学国際政治経済学部教授等を経て、現在、東京大学名誉教授、経済学博士。主著、『毛沢東論』(名古屋大学出版会、2021年)、『開発経済学と現代中国』(名古屋大学出版会、2012年)、『体制移行の政治経済学』(名古屋大学出版会、2010年)、『シリーズ現代中国経済1 経済発展と体制移行』(名古屋大学出版会、2002年)、『中国経済発展論』(有斐閣、1999年、アジア太平洋賞大賞・国際開発研究大来賞)、『中国経済論』(東京大学出版会、1992年、大平正芳記念賞)

林 幸司(ハヤシ コウジ)

成城大学経済学部教授。主著:『近代中国民間銀行的誕生』(中国・社会科学文献出版社、2019年)

寳剱 久俊(ホウケン ヒサトシ)

関西学院大学国際学部教授。主著:『産業化する中国農業――食料問題からアグリビジネスへ』(名古屋大学出版会、2017年)

厳 善平(ゲン ゼンヘイ)

同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授。主著:『ミクロ・データからみる現代中国の社会と経済』(勁草書房、近刊)

羅 歓鎮(ラ カンチン)

東京経済大学経済学部教授。主著:『中国の教育と経済発展』(共著、東洋経済新報社、2008年)

唐 成(トウ セイ)

中央大学経済学部教授。主著:『中国政治経済の構造的転換』(共著、中央大学出版部、2020年)

甲斐 成章(カイ ナリアキ)

(徐濤)関西大学経済学部教授。主著:『中国の資本主義をどうみるのか――国有・私有・外資企業の実証分析』(日本経済評論社、2014年)

加島 潤(カジマ ジュン)

慶應義塾大学経済学部教授。主著:『社会主義体制下の上海経済――計画経済と公有化のインパクト』(東京大学出版会、2018年)

峰 毅(ミネ タケシ)

社会人中国経済研究者(東京大学経済学博士)。主著:『中国セメント工業発展の歴史――一帯一路の先兵か』(セメント新聞社、2020年)

丸川 知雄(マルカワ トモオ)

東京大学社会科学研究所教授。主著:『現代中国経済』(有斐閣、2013年)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

まえがき

序 章 経済実績とその背景
はじめに
1 経済成長の実態
2 構造変化
3 成長と変動のメカニズム
4 制度的・政策的背景
おわりに

第1章 毛沢東の政治経済学、鄧小平の経済学
はじめに
1 毛沢東政治経済学の特徴
2 毛沢東の経済目標
3 鄧小平の経済学
おわりに――毛沢東政治経済学を評価する

第2章 新民主主義から社会主義改造へ
――重慶市の事例を中心に
はじめに
1 共産党の土地接収政策――建国初期の「接収」と「管理」
2 工商業聯合会の組織
3 組織機関としての重慶市工籌会
4 利益集約機関としての重慶市工籌会
5 五反運動・公私合営化と同業者団体の終焉
おわりに

第3章 人民公社(1)
――生産費調査からみた集団農業経営
はじめに
1 毛沢東時代の農業組織と農産物流通制度
2 生産費調査にみる農業経営の特徴
3 農業純収益の要因分解と仮想的賃金の推計
おわりに

第4章 人民公社(2)
――会計資料からみた生産隊と農家
はじめに
1 江蘇省靖江県および同県新橋人民公社の概況
2 X生産隊の会計資料について
3 X生産隊の構成と性質
4 X生産隊の農業とその構造変化
5 国・公社・農家間の分配構造
6 農家間の経済格差と農村貧困のメカニズム
おわりに

第5章 水利建設
――治水・灌漑事業と労働蓄積
はじめに
1 水利建設の歴史的展開
2 水利建設の数量的評価
3 労働蓄積による水利建設
おわりに

第6章 農村金融
――資金移転からみた国家銀行と農村信用社
はじめに
1 農村における金融システムの形成
2 農村における金融的資金の流れ
おわりに

第7章 重化学工業
――傾斜的工業化政策とその評価
はじめに
1 重化学工業化の歴史的背景
2 重化学工業化の展開
3 重化学工業化の遺産と評価
4 もう1つの遺産――改革開放の胎動
おわりに

第8章 軽工業
――社会主義工業化と繊維産業
はじめに
1 1949年以前の繊維産業
2 社会主義工業化政策と繊維産業
3 改革開放政策と繊維産業の長期的展開
おわりに

第9章 農村工業
――肥料・セメント工業からみた「五小工業」政策
はじめに
1 肥料工業にみる五小工業
2 改革開放後の肥料工業
3 毛沢東時代と改革開放後のセメント工業
おわりに

第10章 毛沢東時代の中国社会
――「上海小三線」での生産と生活
はじめに
1 毛沢東時代の孤立社会
2 上海小三線の展開と生産活動
3 孤立社会における生活
4 撤収後の状況
おわりに

終 章 改革開放の初期条件とは何か
はじめに
1 経済発展と体制移行における初期条件とは
2 改革開放は伝統社会と毛沢東時代から何を引き継いだのか
3 毛沢東時代の経済制度と政策をどう評価すべきか
おわりに――残された課題

あとがき
図表一覧
索引


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