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六朝志怪の誕生と展開怪を志す

怪を志す 六朝志怪の誕生と展開

A5判 382ページ 上製
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0983-6 C3022
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年03月上旬

内容紹介

歴史と宗教のあしもとで――。「怪力乱神を語らぬ」儒教の国にあって、怪異はなぜ、いかにして記録されるようになったのか。『今昔物語集』等にも影響を与えた古代中国の「志怪」について、史書の伝統や仏教伝来との関係を軸に、社会的文脈から生成過程、文体まで、初めてトータルに捉え、中国人の精神のかたちを逆照射する。

前書きなど

中国に志怪、あるいは志怪小説と呼ばれる書籍がある。「志」は言偏がついた「誌」の意味に通じる。「志怪」は「怪を志(しる)す」と訓じることができるように、怪異に関することをもっぱらしるした書籍のことである。

志怪には、たとえばこのような記事がある。

南陽郡(河南省)の宋定伯(そうていはく)が若いとき、夜道を歩いていて幽鬼に出くわした。幽鬼に「誰か」と尋ねたところ、幽鬼は「私は幽鬼だ」と名乗り、逆に聞いてきた。「お前こそ何者だ」。そこで、宋定伯は幽鬼を騙して言ってみた。「私も幽霊なのですよ」。幽鬼は尋ねた。「どこに行くんだ」。「宛(えん)の町(南陽郡の中心)まで」。「私も宛の町まで行くところだ」。一緒に数里(数キロメートル。中国の一里は、約五〇〇メートル)歩いた。また幽鬼の方から話しかけてきた。「歩くのはとても疲れる。お互いに交代で背負い合って行くというのはどうかね」。「そりゃいい」。そこで、幽鬼が先に宋定伯を背負って数里歩いた。幽鬼が言った。「お前はすごく重いな、幽鬼じゃあるまい」。「私は死んだばかりの幽鬼なので、重いんですよ」。宋定伯が今度は幽鬼を背負う番になったが、幽……

[「序章」冒頭より]

著者プロフィール

佐野 誠子(サノ セイコ)

1974年 神奈川県横浜市に生まれる
東京大学人文社会系研究科アジア文化研究専攻修了、博士(文学)
京都大学人文科学研究所助手などを経て
現 在 名古屋大学大学院人文学研究科准教授
訳 書 『中国古典小説選2 六朝志怪』明治書院、2006年

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡例
志怪年表

序 章 六朝志怪と怪異の歴史記録
1 怪を志す「小説」
2 「怪」とは何か
3 志怪はどのように位置づけられてきたのか
4 志怪のテキストについて

第I部 史の伝統の中で

第1章 志怪の文脈
――歴史書の拡大と変異の記録
1 史と志怪
2 雑伝書
3 五行志
4 変異情報の伝達と編集

第2章 志怪の系譜
――五行志との関わりを手掛かりに
1 応劭『風俗通義』における災異と怪異――志怪誕生の素地
2 干宝『捜神記』と五行志――志怪の成立
3 南朝宋時代の変異記録の行方と志怪――『宋書』五行志と『異苑』を中心に

第3章 志怪の怪
1 廟神
2 幽鬼

第II部 仏教を受け止めて

第4章 志怪における僧侶
――新たなる怪異との邂逅
1 仏教伝来と志怪への影響
2 僧侶と志怪
3 僧伝と志怪

第5章 仏教志怪の系譜
――応験記との関わりを手掛かりに
1 仏教志怪の誕生
2 『幽明録』『宣験記』と『冥祥記』――その内容の違い
3 『繋観世音応験記』の構成と他の仏教志怪
4 応験譚の南北差――佚名の文献資料を手掛かりに
5 応験記と志怪

第6章 冥界遊行の仏教化
1 僧侶の冥界遊行――慧達劉薩荷を例に
2 僧侶の冥界遊行が作られた理由
3 『冥祥記』の僧侶と『高僧伝』の僧侶

終 章 中国「小説」史への吸収
1 実録という形式と態度
2 実録という形式を用いた虚構
3 唐代における二種類の「伝」と歴史からの離脱


あとがき
引用書目
書名・作品名索引
人名索引


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