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戦後国際民族移動の比較研究引揚・追放・残留

引揚・追放・残留 戦後国際民族移動の比較研究

A5判 352ページ 上製
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-0970-6 C3031
奥付の初版発行年月:2019年12月 / 発売日:2019年12月上旬

内容紹介

日本人引揚やドイツ人追放をはじめとする戦後人口移動の起源を、ギリシア=トルコの住民交換を画期とする近代国際政治の展開から解明するとともに、東西の事例を冷戦やソ連の民族政策もふまえて世界史上に位置づけ、地域や帝国の枠組みをこえた引揚・追放・残留の知られざる連関を浮かび上がらせる。

前書きなど

おわりのはじまり
1945年5月、ドイツが連合国に降伏し、同年8月、日本も連合国に無条件降伏して、第二次世界大戦が終結した。戦闘や空襲の恐怖からときはなたれ、戦勝国の人びとのもとには平和な日々が戻った。だが一方、敗戦国や解放されたはずの旧帝国圏では、敗戦や解放からはじまったものがあった。戦勝国による占領、旧植民地での解放後のガヴァナンスをめぐる争い、植民地独立を勝ちとるための新たな戦争、新体制への影響力をめぐる列強の覇権争い、等々である。

同時に民間の人びとの間では、様々な形の暴力が発生した。敗戦国の人びとへの略奪のほか、女の闘いは戦争が終わってから始まるとの言葉に象徴されるような、敗戦国の女性たちへの凄まじい性暴力が生じ(上野ほか2018)、また、「裏切り者」へのリンチ等が起こった(藤森2016)。

さらには、それまで住んでいた土地からの移動を強いられた人びとや民族がいた。それは、居住地(祖国)を追われて移動(流浪)を強いられ、安住の地を求めて難民化した無数の民族マイノリティ(少数民族)の群れであった。同時に、戦後の国境線変更によって新たな国境の外側に住むことになった、かつ……

[「序章」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

蘭 信三(アララギ シンゾウ)

上智大学総合グローバル学部教授
主 著 『「満州移民」の歴史社会学』(行路社、1994年)
    『帝国以後の人の移動――ポストコロニアリズムと
     グローバリズムの交錯点』(勉誠出版、2013年)他

川喜田 敦子(カワキタ アツコ)

中央大学文学部教授
主 著 『東欧からのドイツ人の追放――20世紀の住民
     移動の歴史のなかで』(白水社、2019年)
    『ドイツの歴史教育』(新装復刊、白水社、2019年)他

松浦 雄介(マツウラ ユウスケ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部教授
主 著 『記憶の不確定性――社会学的探究』(東信堂、2005年)他

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 章 引揚・追放・残留の国際比較・関係史に向けて
はじめに――なぜいま引揚・追放・残留か
1 戦争と民族マイノリティ
2 東アジアにおける引揚研究の展開と限界
3 グローバル・スタディーズとしての引揚/追放研究
4 本書の構成

第I部 引揚・追放・残留の国際的起源

第1章 引揚・追放・残留と民族マイノリティ問題
 ――戦後東アジアを手がかりに
はじめに――民族マイノリティ問題としての引揚・追放・残留
1 民族マイノリティ問題の歴史的背景
2 ヨーロッパにおける民族マイノリティの保護と追放
3 ソ連における民族マイノリティの保護と追放
4 戦後東アジアにおける追放政策――日本人と「非日本人」の追放
5 戦後東アジアにおける2つの「残留」――中国朝鮮族と在日朝鮮人
おわりに――民族マイノリティ問題を考える指標

第2章 戦争と民族強制移動
 ――国際平和の処方としての民族移動の歴史
はじめに
1 第一次世界大戦と民族自決による平和
2 第二次世界大戦と民族強制移動
3 戦後の民族強制移動
おわりに

第3章 第二次世界大戦後の人口移動
 ――連合国の構想にみるヨーロッパとアジアの連関
はじめに――敗戦国の戦後人口移動
1 住民移動の決定過程
2 住民移動の構想枠組とその変化
3 米国の構想とその特徴――日独の事例の位置づけ
おわりに

第II部 欧 米

第4章 フランス植民地帝国崩壊と人の移動
 ――最終局面としてのアルジェリア戦争
はじめに
1 フランス植民地引揚史のなかのアルジェリア
2 引揚・統合・記憶
3 ディアスポラと残留――引揚以外の軌跡
おわりに

第5章 ポルトガル帝国の崩壊と引揚
 ――南部アフリカ植民地
はじめに
1 アフリカ植民地への入植
2 アフリカ植民地からの引揚
3 引揚がポルトガル社会に及ぼした影響
おわりに

第6章 難民支援戦略の起源
 ――アメリカによるインドシナ介入
はじめに
1 難民退避作戦が浮上する冷戦の文脈
2 フランス撤退にともなう難民退避
3 慈善団体の介入とヴェトナム・ロビーの設立
おわりに

第III部 日 本

第7章 性暴力被害者の帰還
 ――「婦女子医療救護」と海港検疫のジェンダー化
はじめに
1 先行研究と検疫という観点
2 引揚女性に対する検疫と医療
3 医療救護のアクターと活動内容
4 「児」の人種化
おわりに

第8章 引揚者と炭鉱
 ――移動と再移動、定着をめぐって
はじめに――引揚者にとって炭鉱はいかなる場所だったか
1 送還と引揚の交錯点としての炭鉱
2 炭鉱に集う引揚者たち――一時的に身を寄せる場所として
3 炭鉱に定着した引揚者――他者を包摂する機制
おわりに

第9章 「引揚エリート」とは誰か
 ――沖縄台湾引揚者の事例から
1 「引揚エリート」研究の対象と方法
2 沖縄台湾引揚者と「引揚エリート」
3 引揚遅延と「引揚エリート」
4 川平朝申と2つの植民地
おわりに

第IV部 日本帝国圏

第10章 帝国後の人の移動と旧宗主国・植民地間の相互作用
 ――日本とヨーロッパの事例の比較から
はじめに
1 英語圏における研究動向
2 引揚研究――日本とヨーロッパの事例の比較
3 在朝日本人・在日朝鮮人の引揚問題と社会間の相互作用
4 米国の「戦後処理」政策における在朝日本人・在日朝鮮人の引揚問題
おわりに

第11章 韓国における戦後人口移動と引揚者の初期定着
 ――戦後日本との比較史の観点からの試論
はじめに
1 日韓両国の差異と比較研究の問題
2 解放後の人口流入規模と流入者の集団的性格
3 帰還者の初期定着実態と米軍政の対策
おわりに

第12章 残留の比較史
 ――日ソ戦後のサハリンと満洲
はじめに
1 日ソ戦争時の人の移動
2 占領から前期集団引揚へ
3 冷戦期からポスト冷戦期へ
おわりに

終 章 国際人口移動の新たな理解のために
1 第二次世界大戦後という時代――歴史学的観点からの連関の解明
2 国民国家の語りをいかに相対化するか
3 脱植民地化の文脈のなかで考える――時代を超えた比較可能性
4 実証的な比較研究の深化に向けて

あとがき
索 引


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