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商業社会における想像力美学イデオロギー

美学イデオロギー 商業社会における想像力

A5判 376ページ 上製
価格:6,930円 (消費税:630円)
ISBN978-4-8158-0966-9 C3097
奥付の初版発行年月:2019年10月 / 発売日:2019年10月下旬

内容紹介

個々人が自らの情念にしたがって利益を追求する社会は調和しうるのか――この政治経済学の問いは、あからさまに美学的であり、しかも近代英国の道徳哲学からロマン主義文学までを貫く根本問題だった。テクストの精読により、イデオロギーの構造と展開を批判的に跡づけ、思想史と文学研究を編みなおす画期的労作。

前書きなど

本書の目的
本書は、長い18世紀のイギリスの思想家・小説家・詩人たちのテクストを「美学」というキーワードを軸に読解することによって、この時代のイギリスの理論的・文学的な言説が取り組んでいたイデオロギー的な問題をあきらかにするこころみである。美学という言葉は、もともとはドイツの哲学者アレクサンダー・バウムガルテンが使い始めた用語であり「感性に関する学」という意味である。だが、イギリスには美学という言葉が流布する以前から、のちに美学と呼ばれるようになる問題機制に関する幅広い探究の流れがあった。それは想像力の中に、理性に比肩するような普遍性を持つ判断能力を見出そうとする努力である。こうした探求をおこなったイギリスの文人たちは、美や道徳の規準を理性で説明することを拒否し、それを「内的感覚」、「道徳感覚」、「趣味」といった想像力に属する能力によって説明しようとした。理性によって論証できない感性に関わる事象に関する意見の一致を説明することこそ美学の中心的な課題である。重要なのは、18世紀イギリスで書かれたこれらの美学以前の美学の特徴は、政治的・経済的な問題とのつながりをけっして隠していないことである。というよりもむしろ、この時代のイギリスの美学はあからさまに政治的な課題に対する応答として書かれていた。最近の美学イデオロギー批判は、無関心(没利害的)であることを標榜する美学理論が政治的利害と共犯関係にあったことを暴露しているが、18……

[「序論」冒頭より/注は省略]

著者プロフィール

大河内 昌(オオコウチ ショウ)

1959年生
1983年 東北大学文学部卒業
1987年 東北大学文学研究科博士課程中退
東北大学文学部助手、山形大学人文学部教授などを経て
現 在 東北大学文学研究科教授、博士(文学)
訳 書 ポール・ド・マン『理論への抵抗』(共訳)国文社、1991年
    フレドリック・ジェイムソン
    『アドルノ――後期マルクス主義と弁証法』(共訳)
    論創社、2013年
    ジョージ・スタイナー『むずかしさについて』(共訳)
    みすず書房、2014年ほか

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序 論
本書の目的
本書の構成
本書の方法論

第I部 道徳哲学における美学

第1章 シャフツベリーにおける美学と批評
情念という問題
美と徳の同一化
熱狂としての徳
情念の規制
洗練と批評
美学と批評

第2章 趣味の政治学
 ――マンデヴィル、ハチソン、ケイムズ――
趣味とは何か
マンデヴィルとイデオロギー
ハチソンと徳の美学化
ケイムズと神の摂理
結 論

第3章 ヒュームの趣味論
イギリス趣味論の政治的背景
ヒュームの2つの顔
趣味とは何か
「趣味の規準について」
正義と想像力
政治と虚構
想像力の統制

第4章 ヒュームの虚構論
リアリズム小説という逆説
虚構と現実の区別
現実に内在する虚構
ヒュームの虚構論とリアリズム小説

第5章 ヒューム、スミスと市場の美学
社会理論と美学
想像力の両面的地位――ヒュームの例
想像力の両面的地位――スミスの例
『国富論』における貨幣論
商業社会と想像力

第6章 バークの崇高な政治学
 ――『崇高と美の起源』から『フランス革命の省察』へ――
美学と政治
バークの崇高論
バークのフランス革命論
バークの反形而上学
想像された身体
政治の美学化

第7章 身体の「崇高な理論」
 ――マルサスの『人口論』における反美学主義――
身体の登場
政治論争の中の『人口論』
ゴドウィンの完成可能性
限界としての身体
統計学という修辞法
人口という崇高な対象
『人口論』と美学イデオロギー

第8章 市民社会と家庭
 ――メアリー・ウルストンクラフトの『女性の権利の擁護』――
フェミニズム、急進主義、反美学主義
本質主義の批判
階級と性の問題
家庭と徳
女子教育という問題
社会契約と性的契約

第II部 文学における政治・法・商業

第9章 家庭小説の政治学
 ――リチャードソンの『パミラ』――
家庭小説と女性の徳
女性の徳と交換価値
愛の不随意性
家庭小説の役割

第10章 徳と法のあいだ
 ――リチャードソンの『クラリッサ』――
女性的な徳
『クラリッサ』における法と倫理
道徳と想像力
『クラリッサ』における法の介入

第11章 商業社会の英雄譚
 ――『序曲』におけるワーズワスの記憶術――
個人的叙事詩という逆説
商業の問題
過去の再記述
文学の社会的使命

第12章 ワーズワスと崇高
ピクチャレスクと崇高
ワーズワスと崇高
蛭取り老人における崇高と労働
盲目の乞食
乞食の「物語」と言語的崇高

第13章 『フランケンシュタイン』と言語的崇高
アレゴリー化できないもの
『フランケンシュタイン』と崇高美学
18世紀イギリスの崇高美学
言語がもたらす崇高
言語的崇高と物質性の問題

第14章 コールリッジの『文学的自叙伝』
 ――商業、文学、イデオロギー――
はじめに
『文学的自叙伝』と断片性の問題
読者と市場原理
商業主義への批判
象徴の役割
ロマン主義のイデオロギー

第15章 コールリッジの政治的象徴主義
 ――『政治家必携』における修辞法とイデオロギー――
美学、政治、ロマン主義
二項対立の機能不全
象徴、時間、歴史
政治学としての解釈学
象徴の自己解体
象徴と美学イデオロギー

第16章 国家を美学化するということ
 ――コールリッジの後期作品における文化理論の形成――
文化という問題
美学化された国家
コールリッジの商業観
商業と文学
国家の理念
政治学としての解釈学

あとがき

主要参考文献
索 引


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