飲食朝鮮 帝国の中の「食」経済史
価格:5,940円 (消費税:540円)
ISBN978-4-8158-0940-9 C3022
奥付の初版発行年月:2019年02月 / 発売日:2019年02月中旬
牛肉、明太子、ビールなど、帝国による「食」の再編は日韓の食文化を大きく変えた。収奪論をこえて、帝国のフードシステムの歴史的意義をはじめてトータルに解明、生産・流通から植民地住民の身体に与えた影響まで、帝国の統治にはたした「食」の決定的な役割を浮かび上がらせる。
本書の課題は、日本帝国の中での植民地朝鮮の食料経済史を考察し、在来の食料産業の再編と新しい食料産業の移植がいかに進められ、地域内の需要を満たし、さらに帝国内外への輸移出をも成し遂げたのかを明らかにすることである。それを通じて、植民地と本国との食文化交流を支える産業的基盤や植民地統治の財政基盤の一面が明らかになるとともに、独立後の韓国経済に対してこれらが有する強い規定力が示されるだろう。
人間は生存のために一定の栄養を定期的に摂取し、身体の成長と維持を図らなければならない。すなわち、食生活は生存の基本条件であるから、それを満たすべく、食料の取得・分配をめぐる社会経済単位が構築されてきた。フィールドハウスによれば、食物は「生物学的な側面の他に、多くの社会的な意味」をもっている。その維持が不可能となり、食料危機が生じると、大正期日本の米騒動に象徴されるような内外の不安が起こり、もしこれが調整できなければその社会は崩壊に向かっていく。それを避けるために、通常は食料増産に加えて、貿易、経済援助などを通じて外部から足りない食物を調達するか、それが困難であった場合、ジャガイモ大飢饉時のアイルランドの……
[「序章」冒頭より/注は省略]
林 采成(イム チェソン)
1969年 韓国・ソウル市に生まれる
1995年 ソウル大学校農業経済学研究科修士課程修了
2002年 東京大学大学院経済学研究科博士課程修了
2004年 韓国培材大学校外国語大学専任講師
同助教授、ソウル大学校日本研究所助教授等をへて、
現 在 立教大学経済学部教授、博士(経済学)
著 書 『戦時経済と鉄道運営――「植民地朝鮮」から「分断韓
国」への歴史的経路を探る』(東京大学出版会、2005年)
『華北交通の日中戦争史――中国華北における日本帝国
の輸送戦とその歴史的意義』(日本経済評論社、2016年)
目次
地 図
序 章 食料帝国と朝鮮
1 「食料帝国」としての日本と朝鮮――研究課題
2 植民地近代化論と植民地収奪論を超えて――既存研究
3 フードシステムと帝国の形成・崩壊――分析視角
4 本書の構成
第Ⅰ部 在来から輸出へ
第1章 帝国の朝鮮米
―“colonizing the rice”―
はじめに
1 稲作の日本化と産米増殖
2 朝鮮米の移出と流通
3 米穀消費と代替穀物
おわりに
第2章 帝国の中の「健康な」朝鮮牛
―畜産・移出・防疫―
はじめに
1 畜産と取引――「粗笨」農業の必須条件
2 輸移出とその使途――半島の牛から帝国の牛へ
3 検疫と獣疫予防――「健康な」朝鮮牛の誕生
おわりに
第3章 海を渡る紅蔘と三井物産
―独占と財政―
はじめに
1 専売の実施と蔘業の発達――人蔘の耕作・収納から紅蔘の製造まで
2 三井物産の独占販売と紅蔘の専売収支
おわりに
第Ⅱ部 滋養と新味の交流
第4章 「文明的滋養」の渡来と普及
―牛乳の生産と消費―
はじめに
1 「文明的滋養」の導入とその経済性
2 「文明的滋養」の普及とその需給構造
3 社会問題としての「文明的滋養」と生産配給統制
おわりに
第5章 朝鮮の「苹果戦」
―西洋りんごの栽培と商品化―
はじめに
1 優良品種の普及とりんご収穫の増加
2 果樹生産性の向上と地域別生産動向
3 りんごの輸移出と市場競争
4 果樹業者の組織化と出荷統制
おわりに
第6章 明太子と帝国
―味の交流―
はじめに
1 明太の漁労と魚卵の確保
2 明太子の加工と検査
3 明太子の流通と消費
おわりに
第Ⅲ部 飲酒と喫煙
第7章 焼酎業の再調合
―産業化と大衆化―
はじめに
1 朝鮮酒税令の実施と焼酎醸造場の整理
2 酒精式焼酎の登場と黒麹焼酎への転換
3 カルテル統制と酒精式焼酎会社の経営改善
おわりに
第8章 麦酒を飲む植民地
―舶来と造酒―
はじめに
1 新しい飲酒文化としての麦酒とその普及
2 内地麦酒会社の進出計画と朝鮮総督府の麦酒専売案
3 内地麦酒会社の朝鮮進出とその経営――朝鮮麦酒と昭和麒麟麦酒
おわりに
第9章 白い煙の朝鮮と帝国
―煙草と専売―
はじめに
1 総督府の産業育成と煙草専売の実施
2 煙草専売の経済効果――耕作、製造、財政
3 戦時下の朝鮮煙草と帝国圏
おわりに
終 章 食料帝国と戦後フードシステム
1 朝鮮の食料から帝国の食料へ――市場としての帝国
2 在来と近代の併存――植民地在来産業論の可能性
3 総督府財政への寄与――国家収入としての食料システム
4 食料供給と植民地住民の身体――体格変化の一背景
5 戦時経済と食料統制――需給調整の成立
6 食料経済の戦後史への展望――「連続・断絶論」を超えて
あとがき
注
参考文献
図表一覧
索 引
関連書
湯澤規子著『胃袋の近代―食と人びとの日常史―』