カワウが森を変える 森林をめぐる鳥と人の環境史
価格:3,960円 (消費税:360円)
ISBN978-4-8140-0379-2 C3045
奥付の初版発行年月:2022年03月 / 発売日:2022年03月中旬
漁業に損害を与え森を枯らす害鳥か、良質な肥料を提供し人々に親しまれる益鳥か。日本に広く分布するカワウは、地域や時代によって人との関係性が変わる不思議な鳥である。その背景には地域ごとの歴史があり、地元の人が育んできた自然管理の技術があった。鳥類生態学、森林生態学、歴史民俗学、環境社会学の4視点で動物と人の未来のあり方を提言する。
亀田 佳代子(カメダ カヨコ)
滋賀県立琵琶湖博物館上席総括学芸員、博士(理学)
専門:鳥類生態学
主著:『保全鳥類学』(分担執筆)京都大学学術出版会,2007.『流域環境評価と安定同位体──水循環から生態系まで』(分担執筆)京都大学学術出版会,2008.『Seabird Islands: Ecology, Invasion, and Restoration』(分担執筆)Oxford University Press, 2011.『Lake Biwa: Interactions between Nature and People』(分担執筆)Springer, 2012.『Why Birds Matter: Avian Ecological Function and Ecosystem Services』(分担執筆)The University of Chicago Press, 2016.
前迫 ゆり(マエサコ ユリ)
大阪産業大学大学院人間環境学研究科教授、学術博士
専門:森林生態学
主著:『植物群落モニタリングのすすめ──自然保護に活かす植物群落レッドデータ・ブック』(分担執筆)文一総合出版,2005.『世界遺産をシカが喰う──シカと森の生態学』(分担執筆)文一総合出版,2006.『とりもどせ!琵琶湖・淀川の原風景』(分担執筆)サンライズ出版,2009,『春日山原始林』(編著)ナカニシヤ出版,2013,『シカの脅威と森の未来──シカ柵による植生保全の有効性と限界』(編著)文一総合出版,2015.
牧野 厚史(マキノ アツシ)
熊本大学大学院人文社会科学研究部教授、博士(社会学)
専門:環境社会学
主著:『鳥獣被害──〈むらの文化〉からのアプローチ(村落社会研究年報 46)』(編著)農山漁村文化協会,2010.『暮らしの視点からの地方再生──地域と生活の社会学』(編著)九州大学出版会,2015.『現場から創る社会学理論──思考と方法』(分担執筆)ミネルヴァ書房,2017.『大学的熊本ガイド──こだわりの歩き方』(分担執筆)昭和堂,2017.『生活環境主義のコミュニティ分析──環境社会学のアプローチ』(分担執筆)ミネルヴァ書房,2018.
藤井 弘章(フジイ ヒロアキ)
近畿大学文芸学部教授・同大学民俗学研究所所員、博士(人間・環境学)
専門:歴史民俗学
主著:『ウミガメの自然誌』(分担執筆)東京大学出版会,2012.『高野町史 民俗編』(分担執筆)高野町,2012.『日本の食文化 4 魚と肉』(編著)吉川弘文館,2019.『新版八尾市史 民俗編』(分担執筆)八尾市,2019.『講座日本民俗学 1 方法と課題』
(分担執筆)朝倉書店,2020.
目次
巻頭口絵
はじめに
Part 1 カワウはなぜ人が利用する森にすむのか
——森とカワウと人の関係
Chapter 1〈鳥の視点〉
森にすむ水鳥、カワウ[亀田佳代子]
1 カワウという水鳥
2 カワウが森に与える影響
3 森を介した水鳥と人との関わり
Chapter 2〈森の視点〉
カワウがすむ森、オオミズナギドリがすむ森[前迫ゆり]
1 長い時間スケールで変化している森林
2 野生生物の局所的増加によって変化した森林
3 魚食性水鳥オオミズナギドリがすむ森
4 水鳥がすむ森と人との関わり
Chapter 3〈人の視点〉
地元の人々による鳥と森の利用[藤井弘章]
1 鳥をめぐる利用
2 植物をめぐる利用
3 森全体に関わる利用
4 繁殖地ごとに異なる利用の組み合わせ
Chapter 4〈社会の視点〉
人が利用する森での共存の仕組み[牧野厚史]
1 野生動物との関係の持ち方──軋轢と共存
2 すみ分け的方法とその限界
3 セミ・ドメスティケーションからみたカワウと人の関係
4 人、カワウ、そして森林との関係
──長期にわたる関係の持続と3種類の共存
Part 2 「昔はカワウはいなかった」
——琵琶湖の森とカワウのせめぎ合い
Chapter 1〈森の視点〉
琵琶湖が育む照葉樹林
──カワウは森をどう変えたのか[前迫ゆり]
1 琵琶湖が育むタブノキ林
2 竹生島のタブノキ林の成り立ちと変遷
3 空中写真からみた64年間の植生変遷
4 竹生島のタブノキ林の種多様性
5 竹生島のタブノキ林は更新可能か
──照葉樹林の崩壊と再生
コラム ① ギャップで確認された外来種アオスズメノカタビラ[前迫ゆり]
Chapter 2〈鳥の視点〉
カワウによる竹生島と伊崎の森への影響[亀田佳代子]
1 琵琶湖のカワウの生息状況
2 琵琶湖でのカワウの生態
3 カワウの営巣が森林の植生と養分動態に与える影響
4 琵琶湖でのカワウと人との軋轢と対策
5 カワウにとっての琵琶湖
コラム ② カワウの巣材は何からできている?[前迫ゆり]
Chapter 3〈人の視点〉
鳥の追い払いと森の管理の歴史[藤井弘章]
1 カワウによる森林被害を歴史的に考える
2 鳥の追い払いと山林保全──江戸後期
3 山林管理の変化──明治維新期
4 鳥の駆除と山林保全計画──明治10年代
5 鳥の減少と山林管理の変化──明治20〜30年代
6 カワウ・サギ類の生息状況と駆除
──昭和初期(1930年代)
Chapter 4〈社会の視点〉
緑の島の森林景観史[牧野厚史]
1 魅力ある風景を維持する努力
2 島を眺める人々は何を問題としたか
3 文化景観と自然景観
4 竹生島森林景観保全の100年
5 緑の島の森林景観のこれから
Part 3 カワウの恵みとムラの知恵
——知多半島の森とカワウの共存史
Chapter 1〈鳥の視点〉
鵜の山の森とカワウの変遷[亀田佳代子]
1 なぜ鵜の山ではカワウは長くすみつくことができたのか
2 鵜の山でのカワウの生息数とコロニーの変遷
3 カワウによる森林の衰退とその後の回復
4 地元住民による糞採取技術と森林管理が植生に与えた影響
5 現在のカワウと地元住民との関わり
6 カワウにとっての鵜の山
Chapter 2〈森の視点〉
カワウがすむ里山の今
──糞採取終焉50年後の森林をたどる[前迫ゆり]
1 糞採取を生業とした森の今
2 鵜の山をつくっている樹木の生態
3 糞採取域は森林をどう変えたのか
4 鵜の山の今とこれから
Chapter 3〈人の視点〉
糞採取の技術と森の管理、人々の暮らし[藤井弘章]
1 カワウからの恩恵を得る技術を探る
2 上野間地区の生業と鵜の山
3 上野間の人々とカワウ
4 鵜糞採取の入札制度
5 鵜糞採取の民俗
6 鵜の山の管理
7 上野間地区の農業と鵜糞の利用
コラム ③ 上野間の大根[藤井弘章]
Chapter 4〈社会の視点〉
緑保全のファイアーウォール[牧野厚史]
1 カワウの生息が森林を守る?
2 知多半島の都市化と「鵜の山」
3 戦後上野間地区の人々とカワウとの関係
4 山林に押し寄せる大規模開発と区の対応
5 地域環境における「鵜の山」の位置
Part 4 カワウと森と人から広がる世界——森とカワウの未来
Chapter 1〈社会の視点〉
共存におけるコミュニティの役割[牧野厚史]
1 コミュニティと森林
2 カワウとの「共存」とはどのようなものか
3 カワウ、森林、人々の関係
4 森林と人々との動的な関係が実現する広域的な「共存」
Chapter 2〈人の視点〉
民俗知識を現代にどう生かすか[藤井弘章]
1 カワウ営巣地の地域的特性
2 寺社林におけるカワウの民俗知識と樹木枯死対策
3 離島におけるカワウの民俗知識と鳥糞採取
4 里山的森林におけるカワウの民俗知識と鳥糞採取
5 里山的森林におけるカワウの観光資源利用
6 先人の知恵を学び活かす
コラム ④ 壁島・鳥島の鳥糞採取[藤井弘章]
Chapter 3〈森の視点〉
文化が舞い踊る森とカワウ
──地域の生態系サービスを育む[前迫ゆり]
1 天然記念物の森のダイナミズム
2 田辺湾の照葉樹林とカワウ──南方熊楠が守った神島
3 熊野川畔の照葉樹林とカワウ
──蓬莱山の森を保全する地域の人々
4 琵琶湖の照葉樹林とカワウ
──古くから信仰と自然が融合する竹生島
5 文化が舞い踊る森の生態系サービス
──カワウと森と人
Chapter 4〈鳥の視点〉
森にすむ水鳥の恵みと軋轢を超えて[亀田佳代子]
1 森にすむ水鳥の生態系サービスの特徴
2 森にすむ水鳥の二面性
──生態系サービスとディスサービス
3 現在のウ類と人との軋轢と対策
おわりに──森と生き物と人が織りなす日本の自然のありかた
索引