わざの人類学
価格:3,960円 (消費税:360円)
ISBN978-4-8140-0375-4 C3039
奥付の初版発行年月:2021年11月 / 発売日:2021年11月中旬
技術とはテクノロジーだけを意味しない。歩く,座るなどの平凡な行為も,神経,筋肉,骨格等,身体の機能と運動を統合する「わざ」があってはじめてなし得る。人にとっての「わざ」とは,限りなく広く深い。身体運動,狩猟採取から,コスプレ(身体変容),暦(時間認識),料理,藝術鑑賞,土木技術そして原子力まで,気鋭の論客たちが,既存の技術論を越え,人とその社会の本質に「わざ」から迫る。身体,技術,環境など,現代人文学の主要なテーマ全てに示唆を与える意欲作。
床呂 郁哉(トコロ イクヤ)
東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所教授
東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学.博士(学術).文化人類学,東南アジア研究.
主な著作に,『越境――スールー海域世界から』(岩波書店,1999年),『東南アジアのイスラーム』(共著,東京外国語大学出版会,2012年),『ものの人類学』(共著,京都大学学術出版会,2011年),『ものの人類学2』(共著,京都大学学術出版会,2019年)など.
目次
序 章 「わざ」の人類学のための序章[床呂郁哉]
1 「もの」から「わざ」へ
2 近代(西欧)的な技術観の再検討
3 伝統的・在地的技術をめぐって―設計主義と非設計主義
4 技術における身体性と場所性
5 「近代的技術/伝統的技術」二分法を越えて
6 テクノロジーから「わざ」へ―技術概念の拡張
7 本論集の特徴と構成
第Ⅰ部 「わざ」と身体の再構築―世界と身体を結びなおす
第1章 「カメラの眼」と「肉体を持った眼」を往還する
―「映像のフィールドワーク・ラボ」の試みから [丹羽朋子]
1 「知る」技法の探索―「現実」と「仮構的再現」のあいだ
2 「科学映像アーカイブ」としてのECフィルム
3 EC映像がひらく新たな知覚世界―上映座談会を通じた映像的解体と再組み合わせ
4 ECの「なかに入る」―「映像のフィールドワーク・ラボ」における他者/他種の生の「見真似」
5 「カメラの眼」と「肉体を持った眼」を往還する技法
第2章 奏でるわざと聴くわざ
―バリと日本におけるガムラン音楽から考えるわざの連関 [吉田ゆか子]
1 異文化の音を聴く
2 日本におけるガムラン音楽―聴き手側のわざの欠如
3 バリにおけるガムラン音楽―ライバルと観客と共にわざを育む
4 聴くことにわざはあるか
第3章 身体変容の「わざ」としてのコスプレ
―アート/テクノロジーを越えて [床呂郁哉]
1 身体加工/変容のわざ
2 東南アジアのコスプレにおける変身の技法
3 アニメ・マンガ/コスプレ文化における身体の変容をどう捉えるか?
4 2次元と3次元の狭間で
5 コスプレにおける身体変容の技法―生身の身体のノイズをいかに除去するか
6 考察―アトムの命題の「逆問題」としてのコスプレ
第4章 反復なき反復としてのわざ
―動作の哲学から浮かび上がるわざの本性 [染谷昌義]
1 身体技法探究のマルチプル
2 身体技法の基本原理に触れる
3 運動制御の困難
4 運動制御のメカニズム
5 わざの獲得,学習,発達
6 「わざ」の本性―巧みさとは何か
第Ⅱ部 「 わざ」のブリコラージュ―「近代/伝統」を越えて
第5章 ポイエーシスとテクノロジーの狭間で
―家庭料理における「手作り」の変容 [久保明教]
1 風車と原子力
2 長い/短いネットワーク
3 手作りと手抜き
4 美味しい時短
5 中間的ネットワーク
6 冷蔵庫の中の自然
第6章 河川改修における「伝統」工法とは何か
―「技術」と「わざ」のあいだ [祖田亮次]
1 河川工法の技術とわざ
2 人と川の相互作用
3 河川技術のローカライゼーション
4 河川技術のローカリティ
5 「伝統」工法の再創造
6 技術/わざの集合性と制約性
7 「伝統」工法のゆくえ
第7章 時間と「わざ」
―インドネシア・イスラーム社会における暦の同時性をめぐる
一問題についての試論 [森下 翔]
1 暦をめぐる時間と「わざ」
2 イスラームと「同時性」
3 インドネシアにおけるラマダーンと日取りの決め方
4 「同時性」を創造する複数の「型」の「共存」と「競合」
パレンテシス テクノサイエンスの臨界
第8章 原子力マシーン[内山田康]
1 原子力マシーンの部分と全体
2 フィールドワーク
3 大津波が来る生活世界の世界内存在
4 現象学の限界を超えるシミュレーションの限界
5 慣れ親しんだバブルの中の方法と現実の非対応
6 複数のローカリティ
7 複数のテンポラリティ
8 時間の経過とともに場所の性質が変わる
9 オクロ天然原子炉の交叉
第9章 災害への「備え」におけるコンテンツ化と翻訳
―日本の国際協力における研修と応用の観察から
[木村周平・渡辺知花]
1 予測不可能性への「備え」
2 研修は何を伝えるか―キーワードと翻訳
3 研修で伝わるもの
4 わざの「コンテンツ化」がもたらす隙間と創造的翻訳
第Ⅲ部 脱人間中心主義的な技術論の可能性
―人間と動物における「わざ」
第10章 チンパンジーの生の技法としての「文化」[西江仁徳]
1 わざの人類学が「非人間=動物のわざ」を考える意味
2 チンパンジーの「わざ=文化」研究小史
3 チンパンジーの生の技法としての「文化」
4 解なき問いを作り出す―他者/他種の合理性の理解
5 人間の「わざ」を拡張する異種の生き物の世界
第11章 他種を真似るわざ―擬態と模倣 [奥野克巳]
1 他種の模倣
2 「なりきる」模倣,「なり入る」模倣
3 ボルネオ島のプナンによる他種の模倣
4 シベリア・ユカギールによる動物模倣と模倣的共感
5 虫と人間,他種を真似ることをめぐって
Essay わざの対象が人間からわざを引きだす
―前例なきウミウの人工繁殖と飼育技術の安定化[卯田宗平]
第Ⅳ部 新たな「わざ」論へ向かって
―哲学と霊長類学からの視点
第12章 動物と人間―わざ論の視角から [檜垣立哉]
1 競馬という事例より
2 ポスト・ヒューマン的状況の前哨,ドゥルーズ=ガタリにおける自然と人間の共進化
3 動物はいかなる他者であるのか デリダの視角
4 ハラウェイと伴侶種
5 アジリティーへ
6 物質-記号論的交換―機械論的ではない行動主義
7 歴史性が結晶する「わざ」の瞬間
第13章 類人猿の森林を歩く
―方法から「自然のほほえみ」へ [黒田末寿]
1 「何という人たちか!」
2 森を歩く「わざ」は「わざ」だろうか?
3 自然科学でのわざの後景化
4 霊長類社会学の方法に埋め込まれた自然への謙虚さ
5 個体識別の人格的識別=観るわざ
6 熱帯雨林
7 閉塞空間から生命に満ちた熱帯雨林へ
8 森を感知するソフトゾーン
9 生態的参与観察
10 自然がほほ笑むとき
索引
執筆者紹介