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― 明治元老院の政治思想軍事と公論

軍事と公論 ― 明治元老院の政治思想

A5判 336ページ 上製
価格:6,380円 (消費税:580円)
ISBN978-4-7664-2054-8 C3010
奥付の初版発行年月:2013年07月 / 発売日:2013年07月下旬
発行:慶應義塾大学出版会  
発売:慶應義塾大学出版会
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内容紹介

何のための、誰のための「国民皆兵」か?

 「好むと好まざるとにかかわらず、軍事は政治の不可欠な要素である。軍事を無視、軽視した政治論は、必ずどこかに大きな欠落を抱えざるを得ない。素人は素人なりに――軍事趣味とは全く別の形で――専門家に抗してでも軍事について考察し、語る必要がある。そして、その営みを意味のあるものにしていく方法は、実はいくらでも存在している」(本書「はじめに」より)。
 著者はその実例を、明治政府の議法機関・元老院(明治8~23年)の会議記録に探り当てた。明治軍隊の完成にいたる三度の徴兵令大改正時、政府の片隅では、徴兵制と軍隊の正当性、そして国家のあるべき姿が大胆に問い直されていたのである。
 佐野常民、河野敏鎌、柳原前光、福羽美静、津田真道、加藤弘之、神田孝平、三浦安、箕作麟祥ら、年齢も出自も知的背景も異なる議官たちは、持てる資源を総動員して政府のおしすすめる軍隊建設の前に立ちはだかった。ある者はオルタナティブを示そうとし、ある者は骨抜きにしようとし、またある者は法に服せしめようとしたのである。それらの議論――すなわち「公論」――は、元老院の政治的な敗北にもかかわらず、確かに顧みるに値する。
 本書は、日本史上もっともラディカルかつ多様に軍事について考察し、議論した元老院議官たちの政治思想を「国民皆兵」の観念を軸に追い、政治と軍事との境界線に関わる問題群を体系的に描き出す力作である。

著者プロフィール

尾原 宏之(オハラ ヒロユキ)

政治思想史研究者、立教大学非常勤講師、フリーランス・ライター。
1973年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。NHK勤務を経て、東京都立大学大学院社会科学研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。元首都大学東京都市教養学部法学系助教。
著書に、『大正大震災――忘却された断層』(白水社、2012年)がある。

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡例
はじめに

第一章 「護国ノ義務」論争
 第一節 「国民皆兵」の理念と「公論」―元老院以前―
 第二節 「国民皆兵」への困惑
 第三節 「護国ノ義務」論争
 第四節 元老院憲法草案と「護国ノ義務」
 第五節 徴兵告諭の三つの論理
 第六節 人権宣言を通して徴兵告諭を読む
 第七節 抵抗の条件

第二章 軍隊観の角逐
 第一節 兵役の平等と「苦役」の緩和
 第二節 兵隊教練案をめぐる対立
 第三節 財政難の軍事構想―佐野常民の場合―
 第四節 「民力愛養」と軍事―河野敏鎌の場合―
 第五節 議会的なものと「軍政」

第三章 津田真道の「国民皆兵」批判
 第一節 徴兵軍隊の歴史的根拠をめぐって
 第二節 元老院における海防論・海軍拡張論の展開とその起源
 第三節 陸軍批判の論理
 第四節 「尚武の気象」と分業論―アダム・スミスの影―
 第五節 「痴人の夢」としての「国民皆兵」
 第六節 明六社同人の分岐点

補論 元老院議官としての津田真道
 元老院と津田真道  西洋「文明」との距離―元老院前期 
 自己批判―元老院後期  体制崩壊の原因としての海外模倣―津田と頼
 山陽
 「国情」に合致した統治  「進化哲学」と政治―津田のスペンサー理
 解
 富国強兵と文明開化
 
第四章 「徴集猶予」と「平等」
 第一節 明治十六年徴兵令改正と元老院
 第二節 「国民皆兵」と元老院の言説戦略
 第三節 獲得目標としての「猶予」
 第四節 「平等」の後景化

第五章 「立法ノ源」たる条件
 第一節 華族の徴兵をめぐって―福澤諭吉と三浦安―
 第二節 華族議官の院外闘争
 第三節 元老院における行政の論理の浸透―ヤヌスとしての九鬼隆一―
 第四節 議会的なものは軍隊にどう向き合うか

おわりに

参考文献
あとがき

索引


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