横幹〈知の統合〉シリーズ
価値創出をになう人材の育成 コトつくりとヒトつくり
価格:1,980円 (消費税:180円)
ISBN978-4-501-63020-1 C3000
奥付の初版発行年月:2016年11月 / 発売日:2016年11月上旬
これからの社会に必要とされる人材の育成について、様々な分野の視点から提案する。
「グローバル人材」「国際競争力」という言葉がもてはやされている.文部科学省の「グローバルCOEプログラム」などさまざまなグローバル人材育成事業が展開されている.そこで求められている「グローバル人材」とはどのような人材だろうか.
その一つの解答として,横幹連合〈横断型基幹科学技術研究団体連合〉の活動に基づく横断的・学際的・国際的研究の導入を紹介する「横幹〈知の統合〉シリーズ」の中で本巻では,『価値創出をになう人材の育成―コトつくりとヒトつくり』と題し,知の統合を体現・実践する横断型人材(横幹人材)の育成法についてさまざまな取り組み・考え方を紹介する.
横幹連合発足時より,横断型基幹科学技術教育に関する調査研究会を始まりに,2年ごとに更新しながら調査研究会(現 横断型人材育成プログラム調査研究会)として活動を続けてきたメンバーにより,これまでの成果とそれぞれの活動の一部をまとめたものである.調査研究会発足の趣旨は以下のとおりである
:科学技術が人間,社会,環境などとの関わりをもつようになり,単一の専門分野では困難になりつつある多くの課題解決や,革新的なイノベーションの創出には,従来の伝統的な学問分野の壁を越えた分野横断のアプローチが必要となる.そのためには,個々の学術・技術分野にとらわれることなく,異分野の知と積極的に連携し,俯瞰的な視点からアプローチしていくことが望まれる.産業界でも,これまでのものづくりから新しい価値やサービスの創出が課題となっており,これらを背景とした横断型・融合型の視点に立って将来課題に取り組む人材育成が緊急な課題となっている.
これと相前後して,人材育成について,さまざまな新たな活動が行われるようになった.
国際的に通用するエンジニア育成を最終ゴールとして,技術者教育にもそのための質保証の裏付けを与えるために,日本技術者教育認定機構(JABEE:Japan Accreditation Board for Engineering Education)が1999年11月に設立され,大学などの高等教育機関で実施されている技術者教育プログラムの審査・認定を2001年から開始した.また2004年からは国公私立のすべての大学,短期大学,高等専門学校が,定期的に,文部科学大臣の認証を受けた評価機関(学位授与機構,大学基準協会など)による評価(認証評価)を受ける制度が開始した.また,日本学術会議では,大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準を作成し,2016年現在,24学問分野について公表している.主要な30程度の分野を予定しており,「学際的・複合的な教育課程については当該課程を構成する「元となる分野」の参照基準を柔軟に組み合わせて活用」することが想定されているようである.
産業界では,平成13年(2001)年に日本工学教育協会がJABEE発足に際して行った「技術者教育の外部認定制度に対する産業界の意識とニーズに関するアンケート」の結果が参考になる.縦型の10分野(電気・電子・通信系,情報処理系,機械系,土木系,建築系,化学系,材料系,資源・電力・エネルギー系,農業・農業土木系およびその他)からの計528名の技術者は,今後10年間の技術に関する変化について以下の5項目を重要と回答した.
1.地球環境問題対応技術の重要性の拡大
2. 情報ネットワーク関連技術の高度化と重要性の増大
3.人間科学・生命科学を取り入れた一層のハイテク化
4.技術と社会科学の融合
5.物作り技術から社会ソリューション創出技術への移行
また,以後重要となってくる技術者の一般的な資質として,「コンセプト力(自己の技術と専門外の技術を統合し新しい価値を創出する能力)」「チャレンジ精神」「問題発見能力」「視野の広さ,発想の広さ,豊かさ」が挙げられている.これは21世紀初頭のアンケート結果であるが,経団連が最近相次いで公表したグローバル事業を担う人材としての「グローバル人材」についてのアンケート結果と比較して大きな違いがないことが興味深い.経済産業省では三つの能力(12の能力要素)から構成される「社会人基礎力」を提唱している.また研究会のメンバーの星(教育テスト研究センター)により21世紀ジェネリックスキルの国際評価が紹介されている.
調査研究会では,育成すべき横断型融合型人材のコンピテンシーとして
(A)現象やモノと直接向き合い,本質を見極めるモデリング・解析能力
(B)専門性にとらわれることなく,異分野の知識を積極的に統合化し問題解決を図れる能力
(C)将来の国際動向を見据えた目標や構想を設定し,総合的な視点から先見性のある意思決定ができる能力
(D)個別のプロジェクトから一般化・普遍化の方法論を探求する能力
(E)異分野の技術者と共同できる十分なコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力
(F)リーダシップ,人脈ネットワーク,人材配置などのコーディネーション能力
を多数の関係者へのヒアリングをもとに抽出した.それらの活動成果については,会誌ミニ特集として公表した.
本書では,これらの活動や研究会での議論を踏まえ,以下のメンバーが各章で横断型人材育成への思いを述べている.章立ては,JABEEはじめ教育プログラム認定の標準となっている.PDCA(Plan/Do/Check/Act)の順番とした.
社会インフラ研究センター・旭岡叡峻氏は「知の統合」が価値の源泉であり,「統合知」構築の戦略とそれを展開する人材について述べている(第1章).東京大学・古田一雄氏は氏の所属するプログラムで展開している横断型人材育成としてのレジリエンス工学教育を紹介している(第2章).中央大学・庄司裕子氏はソフトウェア開発において統合知を用いて曖昧さをうまくハンドリングして価値創造できる人材育成について述べている(第3章).名古屋大学・山本修一郎氏は横幹知とは何か,横幹知の理論と工学,さらに氏の大学における講義事例を紹介している(第4章).文教大学・長田洋氏は統合知により課題を解決する科学的な方法について解説している(第5章).北陸先端科学技術大学院大学・神田陽治氏,総合研究大学院大学・西中美和氏は一つに統合された研究科で新たに開始した知識科学的方法論の展開によるイノベーション創出人材の育成プログラムを紹介している(第6章).産業技術大学院大学・川田誠一氏は氏の大学で実施されているPBL型学習で統合知を獲得するという横断型人材育成の実例を紹介している(第7章).最後に,慶應義塾大学・白坂成功氏はSDM研究科で展開しているシステム統合知の実践による人材育成について報告している(第8章).
なお,古田氏,川田氏,白坂氏が紹介しているプログラム実施例については,その卒業生によるプログラム評価が研究会オーガナイズド・セッションで紹介されたが,いずれも高い評価であったことを付記する.
2016年10月
横幹〈知の統合〉シリーズ編集委員会
委員 本多 敏
目次
第1章 「知の統合」が価値の源泉―「統合知」の戦略とその展開人材…旭岡 叡峻
1.はじめに
2.「知の統合」を基盤とする産業/事業モデルが価値の源泉
3.「統合脳」をどう作るのか
4.「知の統合」を阻害する要因の除去
5.新たな「統合知」創造と構築試論
6.最後に
第2章 横断型人材育成としてのレジリエンス工学教育…古田 一雄
1.はじめに
2.リスクに基づく安全
3.レジリエンスの考え方
4.レジリエンス工学の教育
5.まとめ
第3章 曖昧さを活かして価値創造できる人材育成…庄司 裕子
1.曖昧さがリスクの源となるモノ作り
2.曖昧さが価値作りになるモノ作り
3.曖昧さをうまくハンドリングするための「統合知」
4.曖昧さを上手に解釈して価値作りにつなげられる人材育成を
第4章 情報技術が加速する横断型融合人材…山本 修一郎
1.はじめに
2.横幹知とは何か
3.横幹知の理論と工学
4.横幹知を実現する人材育成
5.まとめ
第5章 統合知により課題解決型人材の育成…長田 洋
1.はじめに
2.問題と課題
3.問題解決における科学的探究法
4.問題解決のステップと手法
5.問題解決プロセスの定式化
6.おわりに
第6章 知識科学的方法論の全学展開によるイノベーション創出人材の育成…神田 陽治・西中 美和
1.はじめに
2.北陸先端大の新しい試み
3.新設のイノベーション教育のねらい
4.必修講義の構成
5.ロードマッピング演習
6.演習に臨む態度
7.振り返って
第7章 PBL型学習で統合知を獲得する―横断型人材育成の実例…川田 誠一
1.知の統合〈統合知〉とは何か
2.横断型人材を育成する専門職大学院大学と二つの専攻
3.統合知を活用するチームのメンバーが必要なコンピテンシー
4.コンピテンシーを獲得するためのPBL型学習
5.おわりに
第8章 システム統合知の実践による人材育成…白坂 成功
1.はじめに
2.システムデザイン・マネジメントとは何か
3.教育の概要
4.システム×デザイン思考教育
5.おわりに
あとがき
注
参考文献
索引
編著者紹介