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入門 独立成分分析

入門 独立成分分析

A5判 258ページ 上製
価格:3,740円 (消費税:340円)
ISBN978-4-501-53750-0(4-501-53750-7) C3004
奥付の初版発行年月:2004年07月 / 発売日:2004年07月上旬

内容紹介

大学のゼミのテキストとして最適

前書きなど

 本書は,94年ごろからいろいろな文献を概観し,「独立成分分析」なるものに触れ,また解説する機会を数多く与えられた経験をもとに,筆者なりの観点でこの手法を系統立てることを試みたものである.
 多変量解析の分野では,信号の分散構造に基づいた主成分分析や因子分析といった手法が古くから研究され,工学の分野においても広く用いられてきた.これらの確立された手法は強力であるが,一方で以前より一種の危うさを感じていた.私の感じるこの危うさは,分析の手法そのものの理論的な背景に対してではなく,信号空間の計量(物理的な大きさ)が手法の背後にあるにも関わらず,そうした前提条件を省みることなく,あるいは適切な信号の計量がわからないままこれらの手法が使われてしまうことが少なくない,ということに由来していたように思う.
 独立成分分析は信号空間の計量ではなく,信号の大きさに依存しない独立性という指標を用いているため,理論上はこうした危うさを持ってはいない.この明瞭さが,独立成分分析の魅力の一つである.利用者は信号の見かけの大きさに惑わされることなく,この分析法の利点を享受することができるのである.その一方で,道具という意味において独立成分分析は,まだ完全に成熟してはいないともいえる.例えば,アルゴリズムとして算法が確立している従来の多変量解析の一つである主成分分析であれば,行列の固有地を計算することによって,誰が使っても同じデータに対してはまったく同じ答えを出すことができる.一方,評価関数や最適化法によって答が変わってしまう可能性がある独立成分分析は,解析手法として未だ不十分な点があり,それゆえ現在でも多くの研究報告がなされている.理論上の美しさと実装上の難しさの二面性が独立成分分析の面白い部分であるともいえるだろう.
 本書は以下のように構成されている.
 まず第1章では,独立成分分析で扱う問題について実例を挙げながら述べ,その定式化を考える.続く第2章では標準的な独立性の評価の仕方を,いろいろな規準を取り上げながら整理し,第3章では独立性の評価関数を最適化する種々のアルゴリズムとその性質についてまとめている.第1章から第3章までの内容で独立成分分析の理論的な基礎を網羅することができるようにしているが,第2章と第3章でまとめる評価関数と最適化法の二つの視点に立って,分析手法を統一的に考えるというのが本書の特徴でもある.
 第4章以降は,特殊な話題を扱っている独立した章として読んで戴きたい.第4章では,手法として比較されることが多い,主成分分析,因子分析,射影追跡法,自己組織化(教授なし学習系)との関係を簡単にまとめるようにしている.第5章は,実際の応用例として音声分離を行うアルゴリズムの具体的な実装方法を記述している.第6章は,独立成分分析と非常に関連が深く,注目されている画像の分解表現であるスパースコーティングを取り上げている.
 なお,文献は巻末にまとめてあるが,各章末に特に重要と思われる文献の著者名と題目を説明付きで引用してあるので,参考にしていただきたい.また,手法を知悉する上で必要と思われる事柄はできるだけ本文中でも説明しているが,十分な内容を網羅することは難しく,最小限の説明に留まっている.確率論,統計学,情報理論,最適化手法の基礎的な部分についてはある程度の知識があった方が読み易いと思われるので,章末に例示した専門書などを参考にして読み進めて戴きたい.

 本書を書き上げるにあたっては,多くの方の御助力を戴きました.粗稿の段階で産業総合研究所の赤穂昭太郎氏,野村證券研究所の阿久澤利直氏,理化学研究所の甘利俊一氏,ドイツフラウンフォッファー研究所の川鍋一晃氏,埼玉工科大学の曹建庭氏,統計数理研究所の福水健次氏から貴重な意見を戴きました.特に,曹建庭氏,川鍋一晃氏には最終稿を入念に読んでいただき,多くの大事な修正を示唆して戴きました.また,大阪大学の狩野裕氏には集中講義をする機会を与えて戴き,狩野氏および研究室の方々との議論は本書をまとめる上で非常に参考になりました.なお,本書の図表は早稲田大学理工学部に所属した向井卓也氏,黒田勇介氏,伊藤大祐氏,佐々木孝太郎氏,河野俊太郎氏,加藤悟氏の協力を得て作成しました.御協力戴いた諸氏に感謝の意を表します.
 最後になりましたが,東京電機大学出版局の植村八潮氏,菊地雅之氏の御二方には,筆者の遅筆のため多大な御迷惑をおかけいたしましたが,辛抱強い督励のおかげで一冊の本としてまとめることができました.ここに深謝いたします.

 2004年6月
 著者しるす


目次

第1章 独立成分分析の枠組
 1.1 独立成分分析とは何か
 1.2 解析の事例
 1.3 問題設定
 1.4 混合作用のモデル
 1.5 原信号に関する注意
 1.6 文献
第2章 独立性の規準
 2.1 独立の定義
 2.2 分布を用いるもの
 2.3 分布を陽に用いないもの
 2.4 弱定常な信号
 2.5 非定常な信号
 2.6 文献
第3章 アルゴリズム
 3.1 前処理
 3.2 確率密度関数・スコア関数の近似
 3.3 勾配法
 3.4 不動点法
 3.5 ヤコビ法
 3.6 実装の例
 3.7 文献と補遺
第4章 他手法との関係
 4.1 主成分分析
 4.2 因子分析
 4.3 射影追跡法
 4.4 自己組織化
 4.5 文献と補遺
第5章 音声分離の問題
 5.1 問題設定
 5.2 時間周波数領域での表現
 5.3 音声信号の性質
 5.4 アルゴリズム
 5.5 文献
第6章 スパースコーティング
 6.1 生物の視覚系
 6.2 スパースコーティング
 6.3 独立成分分析との関係
 6.4 不連続性と情報量
 6.5 文献と補遺

おわりに
関連図書
索引


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