大学出版部協会

 

制御のための上級システム同定

MATLABによる
制御のための上級システム同定

A5判 354ページ 上製
価格:4,620円 (消費税:420円)
ISBN978-4-501-32350-9(4-501-32350-7) C3055
奥付の初版発行年月:2004年03月 / 発売日:2004年03月上旬

内容紹介

高度なシステム同定を目指す人のための一冊

前書きなど

 1996年に「MATLABによる制御のためのシステム同定」(以下MIDと略記する)を出版して約7年が経った.「システム同定」という,工学の世界でも知名度の低い分野の本だったので,初版1刷で終わるだろうと思っていたが,”MATLAB”というキーワードのおかげで,著者の予測に反して版を重ねることができた.この本は,大学院などの学生,あるいは企業の技術者向けの内容であったので,学部の教科書のように毎年決まった部数だけ売れるという担保がなかったにもかかわらず,予想以上の人々に読んでいただき,大変感謝している.誤解のないように言っておくと,売れたといっても赤川次郎などのミリオンセラーに比べると,発行部数はその1%にも遠く及ばない.
 システム同定を世の中に認知してもらおうという目的で前著MIDを執筆したので,できるだけ難しい数式を使わず,MATLABというソフトウェアをうまく利用すれば,いろいろよいことができますよというスタンスをとった.したがって,その内容はシステム同定理論の初心者向けの基本的なもので,制御理論に詳しい読者には簡単すぎるという不満があったかも知れない.
 一方,MATLABのSystem Identification ToolBox(以下SITBと略記する)も7年の間にヴァージョンアップされ,さまざまな機能が追加された.また,SITBに含まれているiddemoの内容も修正され,さらに新しいデモンストレーションも加わった.また,近年,制御工学の分野でもモデリングの重要性が認識されてきた.特に,実験データに基づくモデリング法であるシステム同定に対する関心が,アカデミックのみならず企業の現場でも少しずつ高まってきたように思われる.さらに,システム同定は制御工学の分野のみならず,他の工学あるいは農学,経済学などさまざまな分野に適用できる可能性を秘めている.
 以上のような背景の下,前著MIDより少し内容を高度にし,MATLABのSITBの新しいデモンストレーションにも対応したシステム同定の本を出版すべく,本書を執筆した.したがって,本書は前著MIDの続編,あるいは前著を補う本,という位置づけである.したがって,部分的には前著MIDと重複していることをお許しいただきたい.また,前著MIDを読んでいただいているという前提のもとで,本書を執筆した.
 本書の内容は,つぎの2部から構成される.
 第Ⅰ部の第1章から第10章では,SITBに含まれるiddemoと呼ばれる10個のシステム同定デモンストレーションの内容を紹介する.なお,本書では,MATLAB ver6.5,SITB ver5.0.2を用いた.iddemoは,前著MIDでも断片的にしばしば利用したが,本書ではそれぞれのデモンストレーションについて,詳細に解説する.この10個のiddemoが理解できたら,システム同定の入門編を完全に卒業したレベルに達したと思ってよい.
 引き続く第Ⅱ部では,3つのシステム同定のトピックスについて紹介する.前著MIDや第Ⅰ部と比べると,多数の数式が登場し,理論展開が理解しづらいかもしれない.
 まず,1990年代に精力的に研究され,現在も引き続き研究されている部分空間法について第11章で解説する.部分空間法は,現時点では多入力多出力システムに対する最も有力な同定法の1つであり,線形代数や数値解析などの数学によって精密に構築されたシステム同定法である.
 つぎに,第12章では閉ループシステム同定法について紹介する.実システムにシステム同定を適用するとき,フィードバックループが存在する閉ループでシステム同定を行わなければならない場合が多いからである.本書では,1980年代初頭までに完成された(古典的な)閉ループ同定理論を紹介する.
 最後に,第13章では,統計的学習理論とシステム同定について解説する.特に,サポートベクターマシンについて詳しく述べる.学習理論とシステム同定理論は共通点が多く,今後,非線形システム同定理論を研究していく上で,参考になる点が多いと思われる.
 本来は,「ロバスト制御のためのシステム同定」という章があるべきなのだが,著者の力のなさで,その章を執筆することはできなかった.著者の個人的な考えでは,1990年代にこのテーマに関してさまざまな理論が提案され,いくつもの論文が発表されたが,理論研究が中心でまだ実用的な方法論は確立されていないように思えたからである.
 第1章から第13章までのすべての章は独立しており,読者はどの章からも読み始めることができる.独立しているということは,逆に言うと全体の統一感はなく,バラバラである印象を受けるかもしれず,それは著者の非力のせいである.
 第14章はエピローグであり,システム同定問題の難易度についてまとめる.
 本書は,慶應義塾大学 物理情報工学科での講義,新日本製鐵,本田技術研究所栃木研究所などでの技術研修,そして,システム制御情報学会でのチュートリアル講座などで講義したものをまとめたものである.また,宇都宮大学足立研究室で,2000年からほぼ1年半にわたって,隔週で火曜日の早朝に行った「足立研システム同定ゼミ」で,学生諸君とともに解いた数多くの演習問題がベースになっている.
 本書を執筆する材料は揃っていたのだが,まとめる時間を確保することが難しくなってきた.幸いなことに,2003年3月から10ヶ月間,文科省の在外研究員として,英国ケンブリッジ大学に滞在する機会を得た.久しぶりに,まとまった時間をとることができたので,本書をケンブリッジ大学で執筆した.ケンブリッジ大学工学部で快適な研究環境を用意していただいたKeith Glover教授,Jan Maciejowski博士,Malcolm Smith教授に深く感謝するしだいである.特に,Janには公私にわたりいろいろ面倒を見ていただいた.また,ケンブリッジ大学滞在中にさまざまな側面でサポートしていただいたケンブリッジ大学工学部制御グループの管野政明博士に感謝する.管野氏には本書のドラフト原稿を読んでいただき,さまざまな有益な指摘をしていただいた.あわせて感謝したい.さらに,「足立研システム同定ゼミ」に参加していただいた足立研をはじめとする宇都宮大学の学生諸君,そして企業からの共同研究員の方々に感謝する.最後に,ケンブリッジの素敵なイラストをご提供いただいたYokococoさんに感謝する.
 2004年1月
 ケンブリッジにて 足立 修一


目次

第Ⅰ部 iddemoで学ぶシステム同定
 1 基本的なシステム同定手順の理解−iddemo1−
  1.1 システム同定の基本的な手順
  1.2 iddemo1の同定実験装置
  1.3 システム同定実験
  1.4 練習問題
 2 さまざまなシステム同定法の比較-iddemo2−
  2.1 同定対象の作成
  2.2 さまざまなシステム同定法の適用
  2.3 システム同定結果の比較
  2.4 補助変数法
  2.5 ロバスト制御のためのモデリングの考え方
  2.6 練習問題
 3 モデル構造の決定とモデルの妥当性評価−iddemo3−
  3.1 同定対象の入出力データ
  3.2 むだ時間の決定法
  3.3 ARXモデルの次数決定法
  3.4 練習問題
 4 離散時間信号のモデリング−iddemo4−
  4.1 Marpleの時系列データ
  4.2 ノンパラメトリック・スペクトル推定法
  4.3 パラメトリック・スペクトル推定法
  4.4 時系列データのパラメトリックモデル
  4.5 練習問題
 5 適応/遂次同定アルゴリズム−iddemo5−
  5.1 逐次同定アルゴリズム
  5.2 逐次同定アルゴリズムの例題
  5.3 データのセグメンテーション
  5.4 レーザ範囲データの物体検出
  5.5 練習問題
 6 IDDATAオブジェクトとIDMODELオブジェクト−iddemo6−
  6.1 IDDATAオブジェクト
  6.2 IDMODELオブジェクト
 7 状態空間モデルによる物理パラメータ推定−iddemo7−
  7.1 DCモータの同定
  7.2 2つの物理パラメータの推理
  7.3 2つのパラメータの干渉を考慮した推定法
  7.4 多変数ARXモデル
  7.5 練習問題
 8 入出力データの分割と合併−iddemo8−
  8.1 アウトライアと欠損データ
  8.2 入出力データの分割
  8.3 パラメータ推定
  8.4 2入力2出力システムの例題
  8.5 欠損データへの対応
  8.6 不等間隔サンプリングデータへの対応
  8.7 練習問題
 9 蒸気機関の多変数同定実験−iddemo9−
  9.1 多変数同定実験データ
  9.2 プレ同定
  9.3 予測誤差法による多変数システム同定
  9.4 SISOシステム同定
  9.5 MISOシステム同定
  9.6 SISOモデルからMIMOモデルへの変換
  9.7 部分空間法によるMIMOシステムの同定
  9.8 練習問題
 10 連続時間システムの同定−iddemo10−
  10.1 SIMULINKで記述された連続時間システム
  10.2 予測誤差法によるシステム同定
  10.3 連続時間系への変換
  10.4 連続時間システム同定
  10.5 練習問題
第Ⅱ部 システム同定理論編
 11 部分空間法による多入力多出力システムの同定
  11.1 多入力多出力システムの状態空間表現
  11.2 インパルス応答からの実現
  11.3 最小二乗法を用いた状態空間モデルの同定
  11.4 部分空間法
  11.5 MATLABセッション
  11.6 練習問題
 12 閉ループシステムの同定
  12.1 閉ループシステムの同定問題
  12.2 スペクトル解析法による閉ループシステム同定
  12.3 閉ループシステムの同定法
  12.4 直接法
  12.5 間接法(二段階法)
  12.6 結合入出力法
  12.7 MATLABセクション
  12.8 まとめ
  12.9 練習問題
 13 統計的学習理論とシステム同定
  13.1 はじめに
  13.2 学習問題
  13.3 システム同定問題
  13.4 正則化法
  13.5 サポートベクターマシン
  13.6 SVMによる回帰問題の学習
  13.7 SVRに基づく線形回帰モデルのシステム同定法
  13.8 MATLABセクション
  13.9 まとめ
  13.10 練習問題
第Ⅲ部 エピローグ
 14 システム同定問題の難易度
  14.1 システム同定問題の難易度の判定法
  14.2 難しい同定問題への対処
付録A MATLAB ToolBoxについて
  A.1 System Identification ToolBox ver.6
  A.2 その他のToolbox
付録B システム同定英和辞典
索 引


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