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制御工学の基礎

制御工学の基礎

A5判 296ページ 並製
価格:2,970円 (消費税:270円)
ISBN978-4-501-11750-4 C3054
奥付の初版発行年月:2016年04月 / 発売日:2016年04月中旬

内容紹介

はじめて「制御工学」を学ぶ人に向けてまとめた一冊。全15章構成で、制御の基本を順序立てて学習することが可能。理解を深めるために各章にクイズを設け、習熟具合を確認しながら学習を進められるとともに、「中間試験問題」と「定期試験問題」を設け、学習設計がしやすいように配慮した。

前書きなど

 「制御」は,機械系,電気電子系,プロセス化学系,情報系,数理系,生命系など,理工学系のさまざまな学会で講義されている横断的な分野である.さらに,制御の重要な概念であるフィードバックは理工学系に留まらず,政治・経済学や社会学などの分野においても登場する.たとえば,PDCAサイクルでは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Act(改善)というサイクルを繰り返すが,これもフィードバックの一例である.
 「制御」はさまざまな階層から成り立っている.特に,現場ではPID制御(比例・積分・微分制御)という,最も基本的な階層に属する古典制御がよく使われている.本書ではこの古典制御を重点的に執筆した.古典制御の後に,現代制御,ロバスト制御,モデル予測制御,非線形制御など,より高度な階層に属する制御理論がつぎつぎと提案され,研究され,そして実用化されてきた.それらの高度な階層の制御を学ぶ準備として,1960年初頭にカルマンが提案した現代制御で利用される状態空間表現についても本書では記述した.また,1980年代初頭に提案されたロバスト制御の基礎となるH∞ノルム,スモールゲイン定理,感度関数,そして内部安定性などについて,古典制御の範囲で平易に導入した.
 横断的であるがゆえに,制御工学は具体的な対象を限定しないユニークな工学分野である,そのため,表面的に見ると,制御では応用数学を用いた抽象的な内容が多く,退屈な内容に初学者は戸惑うかもしれない.しかし,スポーツにおける基礎トレーニングと同じで,制御の基礎をコツコツと習得することは非常に重要である.このような準備をしておけば,現実の世界でひとたび制御対象が決まれば,本書で学んだ制御工学は強力なツールになるだろう.しかも,ハードディスクの位置決め制御のようなナノオーダーの世界から,超高層ビルの振動抑制制御のような大規模な世界まで,さまざまな対象に制御工学を適用することができる.
 著者は宇都宮大学や慶應義塾大学などにおいて,25年以上,学部3年生対象科目である「制御工学」を担当している.長期間にわたって授業を担当しているが,毎年新しい発見があり,「制御」を専門としている喜びを感じている.ただし,講義だけでは一方通行的な情報伝達に陥りやすいので,本書では,読者(受講生)に問題をたくさん解いてもらいたいという思いから,授業中に出題したControl Quizをたくさん用意し,中間試験と期末試験という章も設けた.さらに,制御に興味を持っていただけるように,制御に関するコラムをいくつか準備した.
 本書の構成は以下のとおりである.
 まず,第1章では,基本的な力学系を例にとって制御工学の全体像を説明する.第2章では,古典制御における数学的準備として,複素数とラプラス変換を簡単にまとめる.
 制御工学は,三つの要素から構成されている.すなわち,モデリング(模型化),アナリシス(解析),デザイン(設計)である.第3章以降は,この三つの流れに沿って構成されている.
 まず,モデリングに関して第3章から第6章で解説する.第3章では線形時不変システムの基本であるたたみ込み積分を用いた時間領域における表現を,第4章では伝達関数を用いたs領域における表現を,第5章では周波数伝達関数を用いた周波数領域における表現を与える.これらの3章ではシステムの入出力関係に着目するのに対し,続く6章では,システムの内部状態を導入した状態空間表現を与える.
 ここまでの内容の理解をより深くするために,第7章に中間試験問題を用意した.
 第8章では,制御系の二つの構成法である,フィードバック制御について解説する.
 次に,制御対象や制御系の性質のアナリシス(解析)に関して,第9章から第12章で解説する.第9章では線形時不変システムの安定性について述べ,続く第10章ではフィードバックシステムの安定性について解説する.これらの安定性は,制御工学において最も重要な性質である.第11章では制御系の過渡特性について,第12章では制御系の定常特性について解説する.
 最後に,制御系のデザイン(設計)について,第13章と第14章で解説する.第13章では制御系設計仕様を与え,第14章では古典制御理論によるコントローラの設計法を紹介する.そして,最後に,古典制御から現代制御への橋渡しを行う.
 第15章は期末試験であり,本書の総まとめとしてさまざまな問題を用意した.
 さて,慶應義塾大学では授業をビデオ撮影し,その一部をYouTubeの慶應義塾チャンネルの【理工学部講義】にアップしている.著者が担当する「制御工学」の授業についても,2013年度の講義をすべて録画し,YouTube上でどなたでも閲覧できるように公開している.通常の制御工学の授業を録画したものであるため,その品質(画質,授業内容,講師のレベルなど)は決して高いとは言えない.しかし,慶應義塾大学理工学部物理情報工学科3年生でなくても,本書を傍らに置き,このビデオを見ることが,制御工学を習得する助けになるかもしれない.ぜひ,本書とともにこのビデオも活用していただきたい.
 制御理論は非常に奥深い学問であり,浅学な著者がその全貌を語れるようなものではない.したがって,本書には著者の思い違いなどによる誤りが存在するかもしれない,それはすべて著者の力のなさによるものであり,ご指摘いただければ幸いである.
 本書をまとめるにあたり,さまざまな方のお世話になった.特に,足立研究室大学院生に「制御工学」の授業のTA(teaching assistant)を毎年お願いしており,彼らにはControl Quizの作成や解答例の作成などで大変お世話になった.ここに感謝いたします.本書を出版するにあたりご尽力いただいた吉田拓歩氏(東京電機大学出版局)に深く感謝いたします.
2016年3月
足立修一


目次

第1章 制御工学の全体像
 1.1 制御から連想するものは?
 1.2 力学系の制御―フォードバック制御の概観
 1.3 制御系設計の手順
    本章のポイント
    Control Quiz
第2章 複素数とラプラス変換
 2.1 複素数
 2.2 ラプラス変換
    本章のポイント
    Control Quiz
第3章 線形時不変システムの表現
 3.1 重ね合わせの理と線形性
 3.2 ステップ応答とインパルス応答
 3.3 微分方程式によるLTIシステムの表現
    本章のポイント
    Control Quiz
第4章 伝達関数
 4.1 伝達関数
 4.2 基本要素の伝達関数
 4.3 ブロック線図
    本章のポイント
    Control Quiz
第5章 周波数伝達関数
 5.1 周波数応答の原理と周波数伝達関数
 5.2 周波数伝達関数の表現
 5.3 基本要素の周波数伝達関数
 5.4 周波数伝達関数の意味―ボード線図の読み方
 5.5 システムのH∞ノルム
    本章のポイント
    Control Quiz
第6章 状態空間表現
 6.1 LTIシステムの状態空間表現
 6.2 状態空間表現と伝達関数の関係
 6.3 代数的に等価なシステム
 6.4 状態方程式の解
 6.5 基本演算素子を用いた状態空間表現の回路実現
    本章のポイント
    Control Quiz
第7章 中間試験
第8章 フィードバック制御とフィードフォワード制御
 8.1 制御の目的
 8.2 フィードフォワード制御
 8.3 フィードバック制御
 8.4 2自由度制御系
    本章のポイント
    Control Quiz
第9章 LTIシステムの安定性
 9.1 BIBO安定
 9.2 インパルス応答表現の場合
 9.3 伝達関数表現の場合
 9.4 状態空間表現の場合
    本章のポイント
    Control Quiz
第10章 フィードバックシステムの安定性
 10.1 フィードバックシステムの安定判別
 10.2 ナイキストの安定判別法
 10.3 内部安定性
 10.4 不安定システムの安定化
 10.5 安定余裕
    本章のポイント
    Control Quiz
第11章 制御系の過渡特性
 11.1 時間領域における過渡特性の評価
 11.2 s領域における過渡特性の評価
 11.3 周波数領域における過渡特性の評価
 11.4 根軌跡
    本章のポイント
    Control Quiz
第12章 制御系の定常特性
 12.1 定常偏差
 12.2 目標値に対する定常特性の評価
 12.3 外乱に対する定常特性の評価
 12.4 内部モデル原理
    本章のポイント
    Control Quiz
第13章 制御系設計仕様
 13.1 開ループ特性に対する設計仕様
 13.2 閉ループ特性に対する設計仕様
    本章のポイント
    Control Quiz
第14章 古典制御理論による制御系設計
 14.1 直列補償
 14.2 ループ整形法による制御系設計
 14.3 PID制御
 14.4 フィードバック補償
 14.5 古典制御から現代制御へ
    本章のポイント
    Control Quiz
第15章 期末試験
付録A Control Quizの解答
付録B 中間試験の解答
付録C 期末試験の解答
付録D 参考文献
索引


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