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生と死をめぐるディスクール

生と死をめぐるディスクール

A5判 258ページ 上製
価格:2,200円 (消費税:200円)
ISBN978-4-7985-0274-8 C1012
奥付の初版発行年月:2020年02月 / 発売日:2020年01月下旬

内容紹介

本書は、古今東西の文学や思想に見られる様々な死生観と、現在の生命倫理の諸相という二つの領域を総合的に関連づけながら考察することにより、生と死に向き合うために必要な心構えや勇気、そして覚悟を読み取ることをめざすものである。

第Ⅰ部では、第Ⅱ部以降の各章の理論的な背景として、まず第1章で「気づかい」を具体例にして倫理学におけるアプローチを紹介し、第2章では宗教学の観点から、古今東西の様々な死生観の分類と位置づけのための基盤となる枠組みを提示している。

第Ⅱ部では、生命倫理の「現場」における生と死をめぐる様々な葛藤や議論、諸課題を取り上げている。まず第3章では、2016年の熊本地震での公衆衛生活動実践について述べ、第4章では弔いの儀礼をケア論の文脈で論じている。また第5章では、紛争解決学の観点からのアプローチの有効性を議論している。

第Ⅲ部では、内外の文学作品から古今東西の死生観を読み解いていく。第6章では明治期の日本における「天災」と、夏目漱石ならびにラフカディオ・ハーンの思考や想像力との関連について、第7章では中国古典小説にみる幽霊と冥界についてそれぞれ考察している。第8章では中世ドイツ文学からハルトマン・フォン・アウエの『哀れなハインリヒ』を読み解き、最後の第9章では、16世紀フランス文学を代表するプロテスタント詩人、アグリッパ・ドービニェについて論じている。

現代社会における先端医療技術の急激な進歩は、生の始まりと生の終わりにおいて、人間による技術的介入を広範囲に可能にし、それに伴って生と死の概念にも劇的な変化をもたらしている。そのような状況の中で、古今東西の様々な死生観を考察することは、生と死の意味を捉え直す際の手がかりとして、ますます重要になってきているといえよう。

著者プロフィール

荻野 蔵平(オギノ クラヘイ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部教授

トビアス バウアー(トビアス バウアー)

熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授

石原 明子(イシハラ アキコ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授

坂元 昌樹(サカモト マサキ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部教授

田中 朋弘(タナカ トモヒロ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部教授

濱田 明(ハマダ アキラ)

熊本大学大学院人文社会科学研究部教授

藤井 可(フジイ タカ)

熊本市医療参事(産業医)

屋敷 信晴(ヤシキ ノブハル)

熊本大学大学院人文社会科学研究部准教授

吉田 李佳(ヨシダ リカ)

熊本大学非常勤講師

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

序論にかえて

   第Ⅰ部 生と死  倫理学と宗教学はどう見ているのか  

第1章 生と死をめぐる倫理  気づかいを手がかりに  

 1 気づかいの諸相
   傷つきやすさを引き受けること/合理的な説明と気づかい/
   わたしにしか見えないものと誰にでも見えるもの
 2 気づかいの倫理
   もう一つの声/関係性としての気づかい/気づかいの優位性
 3 気づかわれること/気づかわないこと
   気づかわれること/気づかわないこと  気づかいを差し控える 

第2章 死と宗教はどのような関係にあるのか?

 1 宗教の発生と死の起因とは?
 2 死は宗教の起源なのか?
 3 人間はなぜ死ななければならないのか?
   人間の天命としての死/神あるいは神話的存在の死とともに始まった死/
   神のいさかいの結果としての死/神の欺瞞または怠慢の結果としての死/
   人間の不完全性の結果としての死/人間の誤った決断の結果としての死/
   神に対する人間の不従順の結果としての死/人間自身の要望に応じて導き入れられた死
 4 死の起源への問いかけ  宗教を産み出す、失われてしまった不死を求める人間の探求 

   第Ⅱ部 生命倫理の諸相  「現場」からの視点  

第3章 生命中心主義者の行政医師活動報告

 1 生命中心主義
   生命中心主義とは/テイラーらの人間非中心主義的生命中心主義/
   人間中心主義的生命中心主義
 2 生命中心主義的行政医師活動
   子どもの予防接種と児童虐待/平成28年熊本地震と産業保護

第4章 日本人のスピリチュアリティ  生と死をめぐる日本的ケアの源流  

 1 日本的心性
   日本人の幸福観/日本人の生命観/日本人の霊魂観/日本人の自然観
 2 日本的ケア性
   神に対するケア/互酬的ケア
 3 日本的救済
   日本人の信仰心/神仏習合  救済された神々  /
   心の救済  その日本的様相  /救済の二重構造/現世利益と心の救済/
   先祖供養  死者の救済 
 4 終末期ケアとしてのスピリチュアル・ケア

第5章 生と死の現場に立ち現れる和解と赦し
      犯罪、ルワンダ、水俣、終末期ケア、認知症をめぐって  

 1 犯罪や事故で大切な人を亡くした人たち
 2 ルワンダ
 3 水俣病公害事件
 4 終末期ケア
 5 認知症

   第Ⅲ部 古今東西の死生観  文学テクストから探る  

第6章 明治期日本の生と死をめぐる言説  ラフカディオ・ハーンと夏目漱石  

 1 明治三陸地震・三陸大津波という「天災」
 2 ラフカディオ・ハーン「生神」
 3 夏目漱石「人生」

第7章 中国古典小説にみる幽霊と冥界

 はじめに
   「六朝志怪」とは/人間くさい幽霊たち
 1 中国古典における死と冥界
   死と魂/冥界のありか①  「天」  /冥界のありか②  「地下」「墓」  /
   冥界のありか③  「泰山」  /冥界のありか④  「人間世界」  /
   現世の皮をかぶった冥界
 2 「列異伝」蒋済の話にみる冥界観
   冥界と地位/「死生 路を異にす」/夢枕に立って謎掛けをする幽霊

第8章 死の病と救済の物語
      ハルトマンの『哀れなハインリヒ』を例にして  

 1 作者と作品
 2 あらすじ
 3 「第一の謎」  主人公はなぜ不治の病に罹ったのか 
 4 「第二の謎」  主人公の不治の病はなぜ治ったのか 
 5 中世の危険と現代のリスク

第9章 16世紀プロテスタント詩人にとっての生と死

 1 ドービニェの生と死  『児らに語る自伝』 
   母親の死/『児らに語る自伝』について/父親が与えた宿命/戦場でのドービニェ/
   ジュネーヴでの晩年と息子コンスタンの裏切り
 2 『悲愴曲』における死
   『悲愴曲』/「悲惨」  宗教戦争の悲惨  /「火刑」/「剣」  宗教戦争  /
   『復讐』  迫害者たちの死  /「審判」

あとがき


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