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信徒による建設活動の意味香港カトリック教会堂の建設

香港カトリック教会堂の建設 信徒による建設活動の意味

B5判 360ページ
価格:8,580円 (消費税:780円)
ISBN978-4-7985-0262-5 C3052
奥付の初版発行年月:2019年10月 / 発売日:2019年09月中旬

内容紹介

世俗化した近現代における「宗教」、「信仰」、「宗教建築」、そして「信徒」とは何か。この大きな問いに、本書は香港というひとつの事例の全容を提示しつつ、世界史的に位置づける。

意外にも香港には、カトリック信者が多い。香港の信者数は、日本全体の信者総数よりも多い。この背景には、カトリック教会が社会的に担ってきた役割の大きさがある。イギリスは19世紀に香港を植民地とした後、カトリック教会に教育・福祉サービスを担わせた。この見返りというかたちで、多くのカトリック教会堂が政府助成を受けて建設されるようになった。

カトリック教会堂の形態や用途は約180年の香港史において、目まぐるしく変遷した。その背景には、植民地ならではの政府と教会の相互依存的関係があり、また、香港返還が決定した後の関係激変があった。そして教会堂空間を確保するため、教会はあらゆる努力をしてきたが、それには司祭のみならず、信徒たちが重要な役割を担ってきた。

戦後に急増した香港人信徒たちは、難民としての受動的な存在から徐々に自立、成熟し、教会堂建設に参加するようになった。特に建築家やエンジニアである信徒の活躍が顕著であった。彼らの奉仕は司祭の実務的な補助者として始まったが、世界的な霊性運動の興隆に大きな影響を受け、また返還をめぐる香港社会の激動のただなかにあって、次第に、信徒自身の霊性探求を教会堂営繕に見出し、求めてゆくようになった。

本書は、教会堂という物質的なものの変遷と同時に、信者の信仰、霊性という内的な変容の過程をも描く。

著者プロフィール

福島 綾子(フクシマ アヤコ)

早稲田大学第一文学部考古学専修卒業、早稲田大学文学研究科考古学専攻修士課程修了。
ユネスコ北京事務所で文化遺産保存修復事業マネジメントに従事。フルブライト奨学金を
得てペンシルバニア大学文化遺産保存学修士課程(Historic Preservation Program)修了。
民間企業勤務を経て、2006年より九州大学芸術工学研究院に所属。現在、九州大学大学院
芸術工学研究院助教。専門は文化財学、歴史学。博士(工学、九州大学)。カトリック
教会堂の建設・営繕のあり方を建築学、歴史学、社会学、宗教学などから多角的に解明
することを主な研究テーマとし、日本と香港を主な対象としている.

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

凡 例

序 章 信徒の信仰と教会堂建設活動

 第1節 研究の出発点
  1 信徒による教会建築営繕という視点の再発見
  2 現代における教会建築研究の脱宗教化
  3 ピュージン,ラスキンの教会建築研究
  4 香港のカトリック信者と教会
 第2節 既往研究
 第3節 研究の射程と方法
  1 インタビュー調査
  2 アーカイブ調査
 第4節 本書の構成

第1章 信徒論

 第1節 初代教会時代から19世紀までの信徒概念
  1 初代教会
  2 中世
  3 ルネサンス期
  4 近代
 第2節 19世紀後半以降の信徒概念
  1 新神学,カトリック運動
  2 第二バチカン公会議
  3 典礼改革
  4 教会法改正
  5 公会議後の信徒像
  6 信徒に関するシノドス
  7 新カトリック運動,公会議精神の識別
 第3節 香港の信徒とは?

第2章 香港カトリック教会堂

第1節 時代区分
第2節 16世紀~19世紀半ば 香港カトリック教会成立の背景
第3節 中国の教会建築
第4節 香港教会堂悉皆調査と類型化
  1 教会堂悉皆調査の対象
  2 調査方法
  3 類型化指標
  4 類型

第3章 1841~1944年 宣教初期における聖職者主体の教会堂建設

  第1節 時代背景
  1 植民地とカトリック教会の設置
  2 緩やかな政教協力関係
  3 建設専門家の育成
 第2節 教会堂類型
  1 ミッション・ステイション
   2 独立棟教会堂
  3 修道院,学校,福祉施設のチャペル
  第3節 教会堂所有者
 第4節 聖職者中心の建設体制

第4章 1945~1960年代 学校と一体的な教会堂の大量建設,設計者としての信徒

 第1節 時代背景
  1 大陸における宗教抑圧,文化大革命
  2 香港への難民流入,産業転換
  3 教会組織による学校建設急増
  4 政府主導の都市開発
  5 建築教育の始まり
 第2節 教会堂類型
  1 独立棟教会堂
  2 ミッション・ステイション
   3 難民エリアチャペル
   4 公営団地教会堂
  5 民間建物の教会堂
  6 学校併設教会堂
  7 学校チャペル
   8 カトリック学校ミサ・センター
   9 福祉施設併設教会堂
 第3節 教会堂営繕
  1 教会堂設計を請け負った中国系建築家
  2 信徒参画という慣習の不在
  3 第二バチカン公会議が促進した信徒参画

第5章 1970年代~1981年 香港人建設専門家信徒の成熟

 第1節 時代背景
  1 大陸での宗教弾圧,管理
  2 政府標準設計校舎の増加と政教契約関係強化
  3 郊外開発と香港人建設専門家
 第2節 教会堂類型
  1 政府標準設計学校ミサ・センター
   2 福祉施設併設
  3 民間建物の教会堂
 第3節 教会堂営繕
  1 シュウ司教の改革と教区会議,1970年
  2 教区発展委員会,1971年
  3 エンジニアによる瑕疵への対応,1974年
  4 ウー司教による信徒使徒職の推進
  5 典礼芸術・建築委員会,1977年

第6章 1982~1989年 香港返還決定が促進した教会堂新築事業と信徒参画

 第1節 時代背景
  1 大陸における宗教管理強化
  2 香港返還決定,返還への不安
  3 民主化への目覚め
 第2節 教会の懸念と対策
  1 司教の返還への反応
  2 信徒使徒職と信仰小共同体の促進
  3 カトリック宗教社会機構の設立
  4 教会の政治的配慮
 第3節 香港社会の転換
  1 香港人アイデンティティ
   2 第三次産業への転換,香港人建設専門家の増加
第4節 教会堂に関する返還への対応策,教会堂類型
  1 学校併設教会堂,学校ミサ・センターの減少
  2 教会堂建設増加
  3 教会建設促進基金の廃止
  4 伝統的な建設事業管理方式の行き詰まり,1980年代

第7章 1989~1996年 教会営繕の組織化,「教区建築および発展委員会」設立

 第1節 時代背景
  1 天安門事件と宗教組織管理強化
  2 香港人の危機感の高まり
   3 都市開発の促進
  4 カトリック信者の不安増大と教区の対応
 第2節 教会堂類型
  1 幼稚園併設教会堂
  2 民間建物の教会堂
 第3節 教会堂営繕
  1 教区総務処建築顧問と監理技術者
  2 教区典礼委員会による改革,1980年代後半~1990年代前半
  3 香港人信徒建築家
  4 建設専門家信徒の神学的養成,1989年
  5 建設事業における信徒使徒職推進,1990年代前半
  6 司教への提案,1990年代半ば
   7 教区建築および発展委員会の設立,1995年

第8章 1997~2005年 都市再開発型教会堂の建設

 第1節 時代背景
  1 民主化抑圧とそれへの反発
  2 政教関係の悪化
  3 中国への経済依存,再植民地化
 第2節 教会堂類型
  1 幼稚園併設教会堂
  2 都市再開発型教会堂
 第3節 聖母聖衣教会の建設プロセスと信徒参画
  1 再開発計画の背景
  2 基本構想期
  3 設計期:典礼空間
  4 設計期:実用空間
  5 聖母聖衣教会に見られる信徒参画

第9章 2006~2018年 信徒霊性運動としての教会堂営繕

 第1節 時代背景
  1 大陸における宗教の中国化政策
  2 香港における民主化運動の高まり
   3 政教関係に対する香港カトリック教会の苦悩
  4 土地・住宅問題の深刻化
 第2節 教会堂類型
  1 幼稚園併設教会堂
  2 コミュニティ・ホール兼用の教会堂
  3 学校ミサ・センターへの回帰
 第3節 教会堂建設阻害要因
 第4節 カトリック建設専門家アドバイス・グループとその霊性
   1 営繕組織としてのCaBPAG
   2 霊性とCaBPAG
   3 CaBPAG と返還ファクター
   4 教会堂営繕と信徒霊性運動の統合の文脈

終 章 香港の信徒による教会堂営繕の意味

 図 面
 資 料
  資料1 香港カトリック教会堂一覧
  資料2 カトリック香港教区の営繕事業を請け負った主要建築家,1950~1990年代
  資料3 教会堂建築建設事業をおこなった中国系建築家の経歴と事業内容,1950年代~1990年代
  資料4 戦後の歴代司教,総務処プロキュレーター,建設関係の教区委員会一覧
  資料5 教区建築および発展委員会(DBDC)委員・職員一覧,1995~2018年
 参考文献
 初出一覧
 あとがき
 索 引


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