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GPS技術入門

GPS技術入門

A5判 224ページ 並製
価格:2,970円 (消費税:270円)
ISBN978-4-501-32260-1(4-501-32260-8) C3055
奥付の初版発行年月:2003年02月 / 発売日:2003年02月下旬

内容紹介

GPSの原理や技術的背景を基礎から平易に解説

前書きなど

 今朝,あなたは家を出てから駅までどのように歩いてきましたか? いつもの道ですか,それともちょっと寄り道しましたか?
 寄り道をするときのことを考えてみましょう.寄り道をするためには,あらかじめ寄る先の周辺の地理を覚えておくか,あるいは地図をながら目的のお店を探して,用が済んだらいつもの道に戻ることになります.同じ店に寄るにも,どういう経路を使えばよいか,また寄り道をしても会社に遅刻せずに行けるか,運賃が余計にかからないか,などいろいろ考えることがあるでしょう.
 また,今晩のパーティの会場が行ったことのないホテルだとしたらどうでしょうか.最寄り駅はどこか,駅からの道順はどうするか,時間はどれくらいかかるか,こういったことをふまえて最適な経路を考えなければなりません.途中で迷わないように地図を用意する必要があるかもしれませんし,なるべく迷わないようなわかりやすい道を選ぶのもひとつの方法でしょう.
 ある地点から別のある地点に移動するとき,「どのような経路で移動するか」という問題が必ず現れます.特に意識していなくても,誰でも常にこうした経路の問題を解きながら移動をしています.これは,航法= ナビゲーションを行っていることに他なりません.自動車による移動の際はもちろんのこと,湖でボートをこぐときにも周囲の景色を見て進むべき方向を定める航法が必ず必要となります.目で見えるごく近い周囲や頭でイメージできる程度の範囲の航法は無意識に行えますが,距離が長くなるにつれて次第に難しくなり,ましてや知らない土地で遠距離の航法を行うことは至難の業となります.航法のための技術が必要となるわけです.
 航法の技術は,人間の生活にとってたいへん重要です.たとえば原始時代にあっても,狩りに出かけたら迷わずにもとの住みかまで戻らなくてはなりませんし,季節に応じて食糧を確保できる土地に移動できなければ家族や集落の仲間たちの死活問題となります.このため,有史以前から時代ごとの技術水準を反映してさまざまな航法技術が用いられてきました.大航海時代の冒険が可能となった要因のひとつは造船技術の進歩ですが,当時は航法の技術が大きく進展した時期でもありました.
 航法が重要なのは人間だけに限りません.渡り鳥が季節にあわせて何千km にもわたる飛行をするのは象徴的な例でしょう.ミツバチのような昆虫でさえ,何kmも離れた場所からもとの花に戻ることができるそうです.帰巣本能という言葉もありますが,そもそも“巣” に帰るためにはそのための航法が必要です.
 GPS = Global Positioning System は,人工衛星を使った航法のためのシステムです.つい最近まで自動車の航法手段には地図しかありませんでしたが,最近はカーナビゲーション(カーナビ)装置を備えている例がめずらしくなくなってきました.知らない場所にいくときでも,カーナビがあればほとんど迷うことなく目的地にたどりつくことができるでしょう.こうしたカーナビ装置の多くが,現在位置を知る手段としてGPS を利用しているのです.
 グローバルという言葉のとおり,GPS は全世界を対象として位置を知ることのできるシステムです.複雑な手順は一切不要で,受信機のスイッチを入れればほぼ正確に現在位置(の経緯度)がわかります.ただし,カーナビの場合は経緯度だけから現在位置を判断するのは難しいので,地図データと連動して現在位置をわかりやすく表示します.航空機や船舶の場合は,経緯度だけでも十分な情報となります.
 GPS は私たちの生活に欠かせないシステムとなりつつあります.カーナビや航空機・船舶の航法以外にも,見えないところでさまざまな利用がされています.主な応用については本書でも紹介しますが,たとえば建設・測量ではいまや欠かせない測量装置ですし,農林水産業でも広く利用されています.自動車の盗難対策やタクシーの配車にもGPS は有効です.意外なところでは,携帯電話の基地局でも利用されています(位置を知るためではありません.詳しくは本文をご覧ください).
 本書は,元来軍事用システムでありながら社会インフラとして広く利用されるようになったGPS について,基礎知識から応用までを解説するものです.従来からあった航法システムと比べて,なぜGPS だけが広く一般に応用されるようになったのか,本書を読めば理解していただけると思います.
 執筆にあたっては,航法の分野になじみのない方でもなるべく読み進めやすいように配慮したつもりですが,必ずしもページ順に読むようには構成しておりません.たとえば,さまざまな応用例を取り上げた第4 章(GPS の応用)を先に読むと,実際にGPS が使われている場面のイメージがつかみやすいかもしれません.初学者向けの内容であることもさることながら,著者の力量不足のため説明の不十分な部分が少なからずあると思います.より専門的な解説は他書を参照してください.
 なお,本書の刊行にあたりまして,常日頃より御指導をいただいております独立行政法人電子航法研究所の役職員各位に御礼を申し上げます.特に,航空システム部加来信之主幹研究員には,本書執筆の機会をいただくとともにたいへん丁寧に原稿のチェックをしていただきました.ここに記しまして,感謝の意とさせていただきます.
 2003年1月
著  者


目次

第1章 測位と航法
 1.1 測位—— 位置を知るということ
 1.2 衛星航法
 1.3 GPS概観
 1.4 身近な応用例
 1.5 この章のまとめ

第2章 GPSの原理
 2.1 無線通信の基礎知識
 2.2 位置の測定
 2.3 距離を測定する技術
 2.4 スペクトル拡散通信の仕組み
 2.5 測位の原理
 2.6 測位精度
 2.7 座標系
 2.8 この章のまとめ

第3章 GPSの実際
 3.1 GPS開発史
 3.2 3つのセグメント
 3.3 測距信号の構造
 3.4 衛星位置の計算
 3.5 航法メッセージ
 3.6 誤差の要因
 3.7 選択利用性(SA)
 3.8 ディファレンシャルGPS(DGPS)
 3.9 干渉測位
 3.10 測地系
 3.11 データフォーマット
 3.12 この章のまとめ

第4章 GPSの応用
 4.1 カーナビゲーション
 4.2 車両管理・緊急車両配車
 4.3 鉄道での応用
 4.4 船舶の航法
 4.5 航空機の航法
 4.6 宇宙での応用
 4.7 測量・科学観測
 4.8 鉱業・農林水産業
 4.9 レジャー
 4.10 人間のナビゲーション
 4.11 時刻同期
 4.12 この章のまとめ

第5章 将来のGPS
 5.1 衛星航法システムに対する要請
 5.2 GPSの動向
 5.3 GPS補強システム
 5.4 GPS以外の衛星航法システム
 5.5 受信機技術
 5.6 応用技術
 5.7 この章のまとめ

付 録
 A 物理定数・単位系
 B 共分散行列とDOP
 C 重みつきの測位演算
 D 座標変換
 E GPS関連年表
 F 略語表

参考文献

索  引

COLUMN
 長さの定義と光速
 Sagnac効果
 標準時とGPS時刻
 GPS気象学
 GPSの2000 年問題
 湾岸戦争時のGPS運用
 光速より速い?
 日本の測地系と標準時


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