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 多様性と分化をめぐって淡水魚類地理の自然史

淡水魚類地理の自然史 多様性と分化をめぐって

A5判 320ページ 並製
定価:3,000円+税
ISBN978-4-8329-8192-8 C3045
奥付の初版発行年月:2009年11月 / 発売日:2009年11月下旬

内容紹介

●本書の特徴
 本書は4部14章からなる。
 第Ⅰ部では現在の分布を読み解くための基礎知識を概説する。第1章では,日本周辺の淡水魚類の分布パターンが,どのように記載・認識されてきたかを解説する。第2章では,地質学・古生物学の専門家が,とくに淡水魚類の分布域形成に関係しそうなイベントを抽出しつつ,日本列島の形成史をとりまとめ,わかりやすく解説する。第3章では,現在の生物地理学や進化学において欠くことのできない重要なツールとなった系統地理解析の原理と応用が概説される。
 第Ⅱ部では日本列島の淡水魚類相成立過程について,種内系統地理研究の先駆けとなった代表的な研究例を通して迫る。第4章・第5章では,5種類の冷帯性魚類が登場する。これらは生活史によって陸封魚や遡河回遊魚などに分けられる。水系間の隔離を強く反映した系統地理パターンを示す陸封魚ハナカジカ(第4章)や,逆に海洋生活により適応し大規模な分布域形成過程を反映した遡河回遊魚シロザケ(第5章)などを通して,冷帯性魚類の分布域形成史が描かれる。第6章では,シマドジョウにおけるmtDNA系統の地理的分布パターンの形成過程の考察と,mtDNA系統と種の系統についての大胆な仮説が提示される。第7章では,メダカの種内系統地理研究および近縁種間の系統解析が紹介される。本種で見いだされた精密な“系統地理マップ”は,今後さまざまな純淡水魚との比較の土台となるものだろう。第8章では,両側回遊魚アユのmtDNAの調節領域における不思議な分子進化パターンや,大規模なマイクロサテライト分析によって捉えられた微細な集団構造が紹介される。
 第III部では,系統地理パターンを検討するうえで,他種や倍数性集団を考慮しなければならない複雑な状況について取り上げる。第9章では,はじめに種間交雑を介したmtDNAの異種間浸透現象に関する総論が置かれ,つぎに日本産淡水魚における極端な異種間浸透の実例が解説される。さらに,本現象が起きる要因やその系統地理研究への影響などについて,遺伝的浮動と淘汰の両面から踏み込んだ議論が展開されたあと,まだまだ未解明な部分も多い核DNAの異種間浸透についても考察される。第10章では,私たちにも馴染みが深いフナの仲間,なかでも,雌性発生やクローン性といった特徴をもつギンブナにスポットが当てられる。本種の遺伝・育種学的研究史がわかりやすく紹介されるとともに,マイクロサテライトDNA分析によって判明した驚くべきクローンの実体を通して,分布域形成史や起源について興味深い考察が展開される。
 第Ⅳ部では淡水魚地理の総合的理解に向けて,さまざまな視点からの展望が語られる。第11章では,琉球列島から日本列島南部に分布する複数のハゼ類を対象とした比較系統地理分析の結果が紹介される。第12章では,日本列島における新生代の淡水魚化石とそれに基づく魚類相の変遷がとりまとめられ紹介される。第13章では,分布域形成が生態学的なプロセスであることにあらためて注意が向けられる。第14章では,21世紀初頭の私たちの立ち位置を明らかにしたうえで,今後の淡水魚地理研究の方向性や展開について具体的な提案が行われる。
 第一線で活躍している若手・中堅の研究者13名が,地域によって「顔が違う」淡水魚類の進化史について熱く語る。

著者プロフィール

渡辺 勝敏(ワタナベ カツトシ)

1967年生まれ
東京水産大学大学院水産学研究科博士課程修了
京都大学大学院理学研究科准教授 博士(水産学)
主 著 魚の自然史(分担執筆,1999,北海道大学図書刊行会),保全遺伝学入門(共訳,2007,文一総合出版),地球の変動と生物進化(分担執筆,2008,北海道大学出版会)など
    第1章・第12章・第14章執筆

高橋 洋(タカハシ ヒロシ)

1973年生まれ
北海道大学大学院水産科学研究科博士課程修了
(独)水産大学校助教 博士(水産科学)
主 著 トゲウオの自然史(分担執筆,2003,北海道大学図書刊行会),保全遺伝学入門(共訳,2007,文一総合出版)など
    第3章・第9章・第14章執筆

井口恵一朗(イグチ ケイイチロウ)

:(独)中央水産研究所内水面研究部生態系保全研究室室長 博士(農学)

大原 健一(オオハラ ケンイチ)

岐阜県河川環境研究所主任研究員 農学博士

北川 忠生(キタガワ タダオ)

近畿大学農学部講師 博士(学術)

北村 晃寿(キタムラ アキヒサ)

静岡大学理学部准教授 学術博士

佐藤 俊平(サトウ シュンペイ)

(独)水産総合研究センターさけますセンター研究員 博士(理学)

武島 弘彦(タケシマ ヒロヒコ)

東京大学海洋研究所特任研究員 博士(農学)

竹花 祐介(タケハナ ユウスケ)

基礎生物学研究所日本学術振興会特別研究員 博士(理学)

向井 貴彦(ムカイ タカヒコ)

岐阜大学地域科学部准教授 博士(理学)

山本祥一郎(ヤマモト ショウイチロウ)

:(独)中央水産研究所内水面研究部主任研究員 博士(水産学)

横山 良太(ヨコヤマ リョウタ)

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター学術研究員 博士(水産科学)

淀  太我(ヨド タイガ)

三重大学大学院生物資源学研究科准教授 博士(学術)

上記内容は本書刊行時のものです。

目次

●目次
はじめに
第Ⅰ部 淡水魚類地理へのアプローチ
第1章 日本産淡水魚類の分布とその研究史(渡辺勝敏)
 1. 淡水魚,生物地理,そして日本列島
 2. 日本産淡水魚類の生物地理研究
  第1期—生物地理区研究/第2期—分類体系にもとづく階層的魚類相比較/第3期—系統をベースにした歴史生物地理/第4期に向けて
第2章 日本列島の成立と古環境(北村晃寿)
 1. 日本列島の地形の変化
 2. 氷期-間氷期サイクルの出現前の気候変動
 3. 氷期-間氷期サイクルの出現時の気候変動
 4. 日本海南方海峡の変遷史
 5. 「準平原の卓越時代」から「大扇状地時代」へ
第3章 系統地理学の方法論(髙橋 洋)  29
 1. 系統地理学とは?
 2. 系統地理パターンを捉える
  地理的集団サンプリング/遺伝子系統推定法
 3. 地理的集団構造の解析法—分子分散分析(AMOVA)
 4. 合祖理論と過去の集団サイズの変動
 5. 階層クレード系統地理分析
  階層クレード分析の分析手順/階層クレード分析に関する議論
 6. 展望,複数種,複数遺伝子座への拡張
第Ⅱ部 淡水魚類の分布域パターン形成
第4章 冷帯性淡水魚類の系統地理(横山良太)
 1. 冷帯性淡水魚類とは?
 2. 冷帯性淡水魚類の系統地理学
 3. ハナカジカの系統地理
  ハナカジカとは?/種内系統とその分布パターン/分化年代/ハナカジカの分布域形成史
 4. トミヨ属淡水型の鱗板列2型の系統地理—2度の分散仮説
  トミヨ属淡水型の鱗板列形態の多型/種内系統とその地理的分布/鱗板列形態の分布と種内系統の関係/分布域形成史と鱗板列形態の進化—2度の分散仮説
 5. スナヤツメの系統地理—見分けのつかない2種の歴史
  スナヤツメにおける隠蔽種の発見/スナヤツメ隠蔽種群の系統地理
 6. 日本の冷帯性淡水魚類の系統地理
第5章 サケ科魚類の遺伝構造とその成立過程——陸封化と大規模回遊(佐藤俊平・山本祥一郎)
 1. イワナ
  mtDNAを用いたイワナの系統地理 73/イワナ4亜種の地理的分布とハプロタイプの関係
 2. サ ケ
  mtDNAを用いた系統地理/環太平洋サケ集団の遺伝構造の成立過程/遺伝構造やその形成過程が異なる要因
第6章 温帯性淡水魚類の成立——シマドジョウ類を中心として(北川忠生)
 1. シマドジョウ類とは?
 2. シマドジョウ類の生物地理
 3. シマドジョウの系統地理
 4. 日本産シマドジョウ類の系統類縁関
 5. 日本産シマドジョウ類全体の系統地理学的パターン
 6. ユーラシア大陸産近縁種との類縁関係
 7. ほかの温帯性淡水魚類の系統地理
第7章 メダカの高精度系統地理マップをつくる(竹花佑介)
 1. メダカ属の系統と分布
 2. アロザイムによるメダカの集団構造解析
 3. mtDNAによるメダカの系統地理解析
  系統A/系統B/系統C/系統D/系統E
 4. メダカの分布域形成史
 5. 今後の展開
第8章 アユの遺伝的集団構造に残された謎(武島弘彦)
 1. アユの集団構造解析におけるmtDNAの有用性
 2. PCRで追跡できた放流琵琶湖産アユのゆくえ
 3. 両側回遊性アユの集団構造
第Ⅲ部 種を超えた系統地理
第9章 種間交雑をともなう系統地理——種の実体と分布域形成(向井貴彦・髙橋 洋)
 1. 遠くて近い系統
 2. ゴースト/分布変遷の残像
 3. 極端な遺伝子浸透の実例1—チチブ類とトゲウオ類
 4. 極端な遺伝子浸透の実例2—ヨシノボリ類
 5. 浸透しやすいmtDNA
 6. 系統地理との関連
 7. 核DNAの遺伝子浸透
第10章 単性生殖種をともなう分布域形成——ギンブナの多様化の歴史(大原健一)
 1. 単性生殖種とは?
 2. ギンブナの生殖機構
 3. ギンブナと二倍体種との関係
 4. ギンブナの地理的変異
 5. ギンブナの起源
 6. ギンブナのクローン集団
 7. ギンブナのクローン集団の地域間比較
 8. 多様なクローンの起源
 9. ギンブナ集団の維持機構
第Ⅳ部 淡水魚類相の総合的理解に向けて
第11章 比較系統地理学からみた琉球列島の淡水魚類相の成立(向井貴彦)
 1. 川と干潟のさかなといえば……ハゼ類でしょう!
 2. 系統地理パターンの比較
  トカラギャップにおける系統分化(2種群)/一部地域におけるmtDNA系統の分布重 複(2種群)/九州以北と琉球列島の間の浅い系統分化(2種と1種群)/慶良間ギャッ プにおける系統分化(1種)/遺伝的分化のみられない種(3種)
 3. 隔離年代の比較
 4. 複数種の比較でみえてくるもの
第12章 新生代淡水魚類化石からみる日本列島の淡水魚類相の変遷(渡辺勝敏)
 1. 古生物・化石情報の重要性
  系統推定/系統の出現・分岐年代/形質の進化時期/分布域の変遷/古群集・生態系 の推定/マクロ生態学的仮説の検証
 2. 日本列島の新生代淡水魚類化石と魚類相の変遷
  古第三紀/新第三紀中新世/第三紀鮮新世〜第四紀更新世〜完新世
 3. 化石情報と系統地理研究
  化石記録の問題点と意義/化石による進化シナリオの検証/化石記録のさらなる利用 に向けて
第13章 身近な魚の居場所を拓く生態プロセス(井口恵一朗・淀 太我)
 1. 「いる/いない」の多重スケール—回遊魚アユの場合
 2. 人の手が加わった自然—水田のすみ場所機能評価
 3. 勝ち組エイリアン—連れてこられたバス類のゆくえ
 4. すみ場の将来を測る—今後に期待される課題
第14章 日本の淡水魚類相とその成立過程のより深い理解に向けて(渡辺勝敏・髙橋 洋)
 1. 日本の純淡水魚類相の構造と時間的枠組み
 2. 取り組むべき課題
  単一種の系統地理から網羅的比較系統地理へ/6つの課題
 3. 生物地理情報の攪乱と生物多様性保全
引用・参考文献
索 引




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